影と光の問い
夜明け前の静かな道を、青年・湊は一人歩いていた。
昨日までの疲れがまだ身体に残っているのに、心だけはやけに冴えている。
ふと足元に映る影に目を落とした。まだ太陽が昇りきっていないため、ぼんやりとした輪郭が長く伸びている。
「影って、光があるから生まれるんだよな」
そんな当たり前のことを、声に出してつぶやいた。
だが次の瞬間、彼の心に問いが浮かぶ。
――では、自分にとっての影とは何だろう?
挫折、弱さ、恐れ、そして逃げてきた記憶。すべてを否定したいはずなのに、それらがなければ自分という形も生まれなかったのではないか。
湊は足を止め、まだ低い朝日を見つめた。
影を消すために光を求めてきたつもりだった。
けれど、影は敵ではなく、むしろ「光がそこにあることの証明」なのかもしれない。
「もし影がなかったら、光に気づけるだろうか?」
その問いは、答えを急ぐものではなく、ただ胸に残る余韻となって彼の心に刻まれた。
歩き出す足取りは、先ほどよりもわずかに軽かった。