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【短編】おっきくなりたい

「うわぁ、どっちが勝つんだろう」

 俺はテレビの前で子どものようにはしゃいでいた。

 オリンピックのバレーボールの観戦を楽しんでいたのだ。

「こっち」

 と画面の右側の国を指さしたのは、俺の胡坐をかいた足の上に乗って、達観したように静かな顔を画面に向けていた5歳の息子だった。

 何の根拠もないあてずっぽうに、俺と妻は、

「えーそうなんだ!」

「すごいね。どうなるのかなぁ」

 などと適当に喜んで見せた。

 だが、現時点で1セット目は画面左側の国が先取している。


 しかし、2時間後、俺たちは目を見張った。

 息子の予想が当たったのだ。

 偶然だろうが、俺たちは再び、今度は真摯に喜んで見せた。

「すげー! 占い師じゃん!」

「超能力者!? かっこいいんだけど!」


 しかし、息子だけは笑顔にならない。


 それからというもの、オリンピックの結果だけでなく、日常的事件のニュースだったり、芸人の賞レースの結果だったり、ことあるごとに息子は言い当てる。

 全てを知っているわけではない。

 しかし、知っていることは完璧に言い当てる。


 総裁選の結果まで言い当てた時は驚いた。

 新首相を当てたのだから驚くのも無理はないが、それだけではない、息子は適当に指をさしたのではなく、何かを思い出すように考え込んでから言い当てたのだ。

 それでも俺たち夫婦は親バカ全開でそのたびに喜んでいた。

「マジで超能力者じゃね!?」

「有名な占い師とかに弟子入りする? あ、もう必要ないか」


 しかし、いつも息子は、大人の俺以上に達観的な態度を見せる。

 保育園の先生も、

「大人しくていい子なんですけど……」

 と言い淀む。

 かえって心配、ということだろう。

 俺はその帰り道、息子に尋ねた。

「将来は、何になりたい?」

 と、ありふれた質問だったが、一番子供らしさをうかがい知ることができる質問だろうと我ながら得意げになった。

 正義のヒーローだったり、ロボットだったり、精々大人ぶっても警察やら消防士さんだろう。ここで地方公務員と言われたらさすがの俺も頭を抱えるが。


「とくにない」


 相変わらず冷めた返事だった。俺の心はずきんと痛くなる。世間が耳にすれば、まるで家庭環境の悪い子どものように、夢のない返事だ。


 もしかしてそうなのかと、妻と顧みたが、多少の自惚れもあると思うが、共働きの中、子どものための時間は十分割いているつもりだ。もうかれこれ3年は友人と飲みにいったこともない。


 もしかして、質問が悪かったのかもしれない、と妻が改めて尋ねる。

「おっきくなったら、なにになりたい? どんなことしてみたい?」


 すると、息子がぽつりと言った。


「おっきくなりたい……」


 なんだ、夢のある返事じゃないか。巨大化するヒーローに憧れてるのかもな。俺に似てるからか、保育園のお友達と比べて身長も低い方だし。

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