バランス術士
ある日の夜、国の象徴であるデ・アグラ城近くの建物の地下で爆破が起こった。それをやったのは紛れもなくテロリストである。
この世界では、人類は能力者と非能力者の二種類に分類されている。その言葉の通り、化学でも証明できない力を持っているか否かでそれが決まる。それに、能力者は割合が三割ほどと少なかった。それゆえ、能力者は優遇されていた。
「はははは!!どうだ!これで少しはこの制度を撤廃する気になったろ!俺たち能力者が反逆すると、こうなるってな!!」
そういった後、また地下がはぜる。男は、整った黒髪と落ち着き払った雰囲気からは想像できないほどの顔で笑っていた。今までの不満をぶつけるように。
能力者優遇制度。今まではこの制度で国は回っていた。しかし、一人の男が能力者優遇制度を撤廃し、代わりに全人類平等制度。つまり、能力以外の観点でも評価される社会を作り上げたのだ。おかげで非能力者は奴隷のような扱いから一変して今までの能力者のような扱いを受けるような人々が続出した。
その一方、能力者は今まで能力だけで生きていたがゆえに、地位が一番下まで下落した者もいた。そして、この男がその被害者の一人だった。
「俺はぜってぇに許さねぇ!俺はあいつを、ロプス王を殺してやる!」
カチャッ。
あと一回の爆破で崩れてしまいそうなほど脆いその地下で、絶対のなるはずのない音が鳴った。それはつまり、男以外に誰かひとりいるというわけである。
とっさに男は右を向いたが、もう遅かった。彼の額には銃口が突き付けられており、一人の少年がこちらを冷ややかな目で見下していた。
「お前が反逆者か。それとも駆けつけてきた仲間か。どっちだ」
その言葉は少年が放った言葉とは思えないほど言葉に圧がかかっており、男は一抹の恐怖心を抱いた。それが正解である。男ではこの少年には勝てない。だからこそ、男がとるべき選択肢は一つにだった。そう、素直に答えることである。
だが、男が選択したのは、少年に攻撃するである。この選択は、この状況下で一番選択してはいけなかった。
男が少年にさわり、爆破しようとするが少年は背中を少し丸めて間一髪のところで回避した。そして、ターン制バトルゲームと同じように、今度は少年の番になる。この時点で、男の敗北が決まっていた。少年は銃口を今度は腹に突きつけ、躊躇なくそのトリガーを引いた。
その時、男は気を失った。
次に男が目を覚ましたのは、ほんの数分のことである。まだ目覚めてばかりだからか、視界や感覚が鈍っていた。それでも、男は何かで巻き付けられているということは理解した。男は身動きが取れなかった。
「明日カラオケ行くの?僕も行くー!それじゃあ、また明日ねー」
少年の電話越しの口調は、まるで無邪気な子供そのもので、先ほど男に放った言葉を言うような人物だとは到底思えないほど、差がありすぎた。
少年は電話を切ると、男にゆっくりと歩み寄ったその時、男の視界にあるものが写った。桜のマークをしたバッジ。男は、このバッジの意味を知っていた。
「やっぱつえぇな、サクラはよぉ。さすがは国家直々の殺し屋だ。俺とは格が違う」
全人類平等制度。この制度に反対者がいない。なんてことはなかった。この制度には大半の賛同を得られたのだが、三割の人類が反対した。それが、能力者たちである。能力者からすれば、今までの優遇制度が消えるのだ。それに対しての代わりもない。彼らにとって、実施してほしくない制度に他ならなかった。
しかし、七割の賛同により、この制度は樹立された。これに反発した能力者たちはテロや殺人などの犯罪に手を染めることになった。そして、この男もその一例に含まれていた。
これに対抗すべくして作られたのが、サクラである。
「だけどよぉ」
男はにやりと笑い、そして能力を発動しようとした。しかし、男はある違和感に気が付いた。能力を使うときに感じる、全身にエネルギーが巡ってゆくあの感じ。それを感じ取れないのだ。故に、能力は発動せず、地下には男の声が響いた。
「何をした?」
「何って...、これだ」
そういって少年は銃を取り出した。その銃の形状はサクラが使っているような丸みを帯びた形状の銃ではなく、ところどころ角ばっていた。見たこともない銃に、男はたいそう驚いた。そして、興味を持った。
「この銃は二つのモードに切り替えられてな。一つは純粋な銃として。そしてもう一つは...、能力者がもつ能力を封印する銃。俺が使ったのは二つ目だ。だから、お前は能力が使えない」
そういって、少年は背を向けた。もう攻撃する気はないようで、その銃を懐にしまっていた。
「なぁ、あんた何もんだよ」
立ち去ろうとする少年を、男は呼び止めた。別にこの縄をほどいてほしい。や、能力を使えるようにしてくれ。なんていうつもりはなかった。ただ、少年が何者なのか。その疑問を晴らしたかったのだ。
少年は立ち止まり、男のほうを振り返った。敵意のないその純粋な朝緑色の瞳は透き通っていて、思わずこの制度の不満をぶつけたくなってしまう。
「ルベルシュ・ヴィリアム。サクラに所属している、バランス狂のただの学生さ」
そういって、今度こそルベルシュは立ち去った。
男は、この日の出来事をきっと忘れることはないだろうと、静寂に支配された地下の中で思った。
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