動き出す者たち
「ユウマ……あの依頼、受けるの?」
ギルドの掲示板の前。リリアの声には、どこか警戒がにじんでいた。
「……どうした?」
「これ、“魔獣の群れの調査”ってあるけど、場所が変なの。あそこは、最近まで何も起きてなかった場所のはず」
「……なるほどな」
たしかに、妙だった。
今まで静かだったエルム森林地帯。そこに突如現れた魔獣の群れ――
危険等級は「Bランク」だが、実際に目撃された数が多すぎる。
(これは、ただの自然発生じゃないかもしれない)
俺たちは依頼を受けることにした。
慎重に調査し、危険を感じたらすぐ引く。それが条件だ。
* * *
その頃、王都・レグナリア。
「……“ユウマ”という名の男、調べました。かつて王立学院に在籍していた、例の“無能”です」
「……ほう。生きていたか、あのゴミが」
冷たい声が室内に響いた。
声の主は――元王立学院・第一パーティのリーダー、カイン。
かつてユウマを「無能」と決めつけ、追放した本人である。
「今は辺境の街で活動しているようです。だが、最近の討伐記録では、異常な成功率と……魔法の使用が確認されているとのこと」
「……ふざけるな。あいつが“魔法”を?」
カインの目が細くなる。
その表情に、忌々しさと――焦りがにじんでいた。
「放っておけば厄介な芽になるかもしれません。今のうちに、潰しますか?」
「……ああ。どうせ無能だ。だが、念のため“猟兵団”を一つ差し向けろ」
「御意」
その瞬間、ユウマの存在は、かつての“敵”の耳に届いた。
* * *
一方その頃。
俺とリリアは、森の中で“異様な気配”に立ち止まっていた。
「……リリア、感じるか?」
「うん。魔獣じゃない……これは、人の気配。でも……」
「ただの人間じゃない、な」
そのときだった。
木々の間から、黒いフードの集団が現れた。
「――“ユウマ”だな?」
先頭の男が、俺の名を呼んだ。
まるで最初から俺の居場所を知っていたかのように。
「誰だ、お前ら」
「“猟兵団”だ。……お前に、死んでもらう」
次の瞬間、殺気が辺りを満たした。
(……来たな)
胸の奥が熱くなる。
かつて、ただ無力だった俺を見下した世界が、今、俺に牙をむいた。
「リリア、下がってろ。俺がやる」
「ユウマ……!」
相手は4人。いずれもBランク以上の気配。
だが、今の俺なら――
「後悔させてやるよ。俺を“追放”したことをな」
魔力が指先に集まる。
光が爆ぜ、戦いの火蓋が切って落とされた――!