第145ターン さらば、港区の母!パンクラチオンのマリー
格ゲーマーの始祖、日乃本 尊。その息子・純が格闘ゲームのプロを目指して歩み出す。涙と感動の格ゲー青春小説第二弾!
背中を向けたまま、小さく震えている万吉少年。顔を見なくても分かる、悔し涙が流れているだろうことを。
ある意味 同類の純にはそれが痛いほど分かる。自分とよく似た熱血格ゲーマーにかける言葉を探す純。が、意外な人物が阪田 万吉クンに声をかけた。
「オマエは良くやった。プロレベルを本気にさせたんだ、立派だよ。」
柚葉だ。ゲーム専科のフリースクール、ReGことリスタート・ゲーミングのエース、透明感のナチュラル系が初めて、いや2度目だが、感情が滲む言葉を発した。
因みに彼女が激しく動揺したかのような、感情を顕にしたのは、純の好敵手こと比留多 恭介の名を聞いた時だ。
何故、盛岡のフリースクールに通う彼女が比留多を知っているのか。地下迷宮に潜入すると同時にスルーされたこの案件に学園の事件記者クー子は引っかかったままだ。
「さぁ、腕力の門でのトレーニング
はおしまいだよ、先に進みな。」
そう言って、"安全第一"と書いてある黄色と黒のトラ柵をどけて純らの通行を許す門番の港区マリー。泣いている万吉の両肩を揉むようにして先へと促す。
「よぉ、港区オバサン。アタイ達はアンタに勝てなかったノダ。どうして関所を通してくれるノダ?」
そうだよ、気前が良すぎるンじやあねぇか?純もクー子に同調する。
「いいんだよ、格ゲーの子ども達。この万吉クンがアタシからダメージを獲っただろ?アタシはプロ候補だし、ゲーセンのキャリアで言ったら、、アンタ達が赤ちゃんの頃からのゲーマーだよ。」
そのアタシといい勝負したんだから十分だよ、遠慮しないで通りな!そう言うと港区マリーは得意の高笑い、トンネル中に響くおっかさんの温かい笑い声。
「オバハン、、、アンタええ人やな、、」
恥ずかしそうな万吉が先頭に立ってトラ柵の関所を通る。通行手形は港区マリーが教えてくれた大技を決める時の繊細さ。そして未だ謎の多い特殊技術、コマンドキャンセル。
「オバハンって、アタシは未だアラフォーだよ〜投げ技に入る前の、その距離の詰め方が大事だよ〜」
「大技の前には繊細に、慎重に。憶えておくンだね!」
次なる関所に向かうヤングゲーマー達の背中を見送りながら港区マリーがかけた声は大らかでそして細やかな母の言葉そのものだった。
つづく
人物紹介
・日乃本 純 ひのもと じゅん
本作の主人公。高校二年生。事故で障がいを負い格ゲーでリハビリする中、自分が格ゲーのサラブレッドと知りプロを目指すことに。空手家リョウの遣い手。一人称はオレっち。
・クー子 くーこ
純の親友。児童クラブ時代からの付き合い。ハイカラな東京言葉を使うが、実は関西出身。本作では他ゲームからのゲストキャラ、舞妓を使う。
・花崎 蘭子 はなさき らんこ
高慢ちきな美少女JK。純の元相棒、花崎 誇の妹。前作では純らに敵対していた。口の悪さは病のレベル。
・源五先輩 げんご せんぱい
純のクラスメートの留年生で3年目の高校二年生を満喫中。どうやら女性に目がないようだ。プレイキャラは新世代の主役、ローク。
・比留多 恭介 ひるた きょうすけ
元蘭子の親衛隊長。ニヒリストを気取り文学をこよなく愛する格ゲーマー。一人称は小生。変な髪型の米兵、ゲイルの遣い手。
・日乃本 尊 ひのもと たける
純とその姉の音々の父。格ゲー黎明期の知る人ぞ知る英雄。
・ヨウヨウ ようよう
医療法人花崎会の新事務長。丸眼鏡の美人。格闘ゲーム、ザ・ナックルのプレイ経験がある、あざといアラサー。
・花崎 誇 はなさき ほこる
格ゲーにおける純の元相棒。あだ名はオタク族。只今、医科大学を目指して受験勉強中。アメリカンな空手家、ゲンの遣い手。
・デコ、ミッチ
クー子の友達で純のクラスメート。




