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第110ターン アン、ヲタサーの姫の憂鬱

格ゲーマーの始祖、日乃本 たける。その息子・純が格闘ゲームのプロを目指して歩み出す。涙と感動の格ゲー青春小説第二弾! 

 純の突然の、そしてズバリ直球の投げかけに沈黙する赤毛のゴスロリ、アン・コールズ。マネージャー然として振る舞う支配者ビッグバットとの関係性に言葉が詰まる。


「、、いい人よ、ワタシ達を支援してくれているわ。」


 饒舌を絵に描いたような乙女チックな夢想家アンが珍しく言い淀む。


「いい人ってよぉ、おめえら何か遠慮して小ちゃくなってるじやあねえか。何を助けてもらってるんだよ?」


 純の問いはあくまでも率直でニュートラルだ。見たまま、見えたままの偽らざる感想だろう。


「、、ワタシ達にはJK格ゲーマーとしてデビューのハナシがあるのよ。アレサとモレシャンの三人でユニットを組む企画が進んでいるの!」


「何だよ、そのユニット?てのは。何を組むんだよ?それで何すんだよ?」


 だから、三人でチームを作ってアイドルみたいな活動をするのよと、少し語気を強めて返すアン。苛立ちの原因は純の無知だけではなかろう。


「ン、じゃ何か、おめえら格ゲーやってんのはアイドルになる為か?」


 アイドルになりたくてビッグのオッサンの言いなりになっているのか?不思議そうに純がアンを見つめながら訊く。アンは純を正視出来ない。


「じゃあよぉ、格ゲー経由でデビューするとか面倒くさいことしねぇでよぉ、一からアイドル目指しゃあいいんじやあねえか?」


 堂々と主戦場で闘えよ。


 アンには純の言葉がそう聞こえた。それは自分がひた隠していた、誰にも言われたくない言葉だった。


「、、、えーっと、ワタシの想像力ではアナタって無意味な発言の名人だと思うわぁ、まるで当たってないことを言っていい気になってる、、えーっと、えーっと、、ば、馬鹿なのよ!」


「何だと!オレっちのどこが馬鹿なんだよ?」


「分かってない、何にも分かってないから馬鹿なの!地下アイドルだって過当競争なんだよ、簡単じゃないんだから!ビッグさんにはコネもあるし、お金も貸してくれてるんだら!」


「分かった、分かった!あーうるせぇ奴だ。おめえの為に言ってンじやあねぇか。」


 そううるさそうに純は眉をしかめると遠くを見るような目をして呟いた。


「オレっちは好きだぜ。好きで格ゲーやってンだ。」

 

 好きだ、ワタシの為。思わず純の言葉をリフレインするアン・コールズだった。


つづく

人物紹介

・日乃本 純 ひのもと じゅん

 本作の主人公。高校二年生。事故で障がいを負い格ゲーでリハビリする中、自分が格ゲーのサラブレッドと知りプロを目指すことに。空手家リョウの遣い手。一人称はオレっち。


・クー子 くーこ

 純の親友マブダチ。児童クラブ時代からの付き合い。ハイカラな東京言葉を使うが、実は関西出身。本作では他ゲームからのゲストキャラ、舞妓を使う。


・花崎 蘭子 はなさき らんこ

 高慢ちきな美少女JK。純の元相棒、花崎 誇の妹。前作では純らに敵対していた。口の悪さはやまいのレベル。


・源五先輩 げんご せんぱい

 純のクラスメートの留年生で3年目の高校二年生を満喫中。どうやら女性に目がないようだ。プレイキャラは新世代の主役、ローク。


・比留多 恭介 ひるた きょうすけ

元蘭子の親衛隊長。ニヒリストを気取り文学をこよなく愛する格ゲーマー。一人称は小生。変な髪型の米兵、ゲイルの遣い手。


・日乃本 尊 ひのもと たける

 純とその姉の音々の父。格ゲー黎明期の知る人ぞ知る英雄。


・ヨウヨウ ようよう

医療法人花崎会の新事務長。丸眼鏡の美人。格闘ゲーム、ザ・ナックルのプレイ経験がある、あざといアラサー。


・花崎 誇 はなさき ほこる

 格ゲーにおける純の元相棒。あだ名はオタク族。只今、医科大学を目指して受験勉強中。アメリカンな空手家、ゲンの遣い手。


・デコ、ミッチ

 クー子の友達で純のクラスメート。

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