第103ターン オレっち、ジェンダーを超克する?
格ゲーマーの始祖、日乃本 尊。その息子・純が格闘ゲームのプロを目指して歩み出す。涙と感動の格ゲー青春小説第二弾!
「ちょ、ちょっとタンマ!何、防衛省?ハナシが頭に入ってこえへんわ!」
ヘッドコーチむ〜どの耳打ちに頭脳明晰で鳴らすmakoが混乱モードに迷い込む。それもそのはず、格ゲーの大会に防衛省が何の関係があるのだ。
「経産省は格ゲーの世界への売り込み、例の粗忽なクールジャパンの類。厚労省はDr.木浪の格ゲーリハビリ?医療介護分野への応用か。そして文科省は、う〜ん何だろ、おそらくは教育分野、とりわけ集中力や問題解決能力の向上への期待感からか。」
む〜どが首を振って大きくため息をつくmakoに続ける。
「が、分からない。どうして防衛省の職員が来ているのか、、、」
「先輩、そのハナシは確実?見間違ってない?」
「いや、間違いない。それぞれがご丁寧にも首からぶら下げているストラップで一人一人確認した。今日は休日出勤だろうから経産省なんかはカジュアルな風体だけどネックストラップは必須だ。」
その辺りはどこまで行ってもお役人らしいところ、、む〜どはそううそぶきながら来賓席に向かい目を細め凝視する。
「残ったほうがいい、そうしたほうがいいよ。」
む〜どは自分に言い聞かせるようにそう呟いた。
「じゃ純坊、一応残ることにする?」
とはいえ何より本人の意向が最優先とばかりにmakoが純に水を向ける。すると純からはイイぜ、乗っかかった舟だしよぉ、付き合ってやるさ、と二つ返事。
「オイッ!クー子、おヌシも残れ。退屈でしかたねえよ。」
「なんナノダ、アタイは暇つぶしの相手ってか?マッタク、貴重なイブの日にだってのにさ。」
クー子が口を尖らせてこぼして見せると、どーせ暇なくせにと純からのツッコミ。バレたかとカラカラ笑う下町の太陽。このやり取り、まさに誰も触れない二人だけの世界だ。
「まぁ、そういうことなら、アタクシも残ってあげて良くってよ。数多あるイブのお誘いを断った挙げ句の東京だから。」
ファンの皆様に申し訳ないですわぁ!ア〜、ハッハッハ!!と喚き始める花崎 蘭子。蘭子とて、純とクー子のジェンダーを超克した関係性はすっかり承知しているが、やはり二人がつるむのは面白くない。
そして今一人、純とクー子のタッグチームへの複雑な心境を独特の表現で吐露する乙女がいる。
「ワ、ワタシの想像力では、純クンは彼女の低俗なハナシに飽きてると思うの。ワタシなら知的なユーモアのある会話で彼を退屈させないわ。」
二回戦に勝ち進んだ格ゲー常任理事国のエースプレイヤー、赤毛のゴスロリことアン・コールズだ。が、これが純には聞こえていないのか、好敵手の比留多 恭介と年上の同級生源五先輩に声をかける。
「ニヒル、パイセン、どうする?」
すると二人は既にハナシをつけていたのか、我々はここで失礼する也と返答する。
そして、何があっても最後まで闘ってくれ、とクールが信条の比留多が珍しく目に力を込めて純にエールを送る。彼もまたこの大会にただならぬものを感じているのだろう。
比留多と源五先輩は元帥記念公園に背を向けるとそれぞれがシブヤとアキバ方面に消えていった。
つづく
人物紹介
・日乃本 純 ひのもと じゅん
本作の主人公。高校二年生。事故で障がいを負い格ゲーでリハビリする中、自分が格ゲーのサラブレッドと知りプロを目指すことに。空手家リョウの遣い手。一人称はオレっち。
・クー子 くーこ
純の親友。児童クラブ時代からの付き合い。ハイカラな東京言葉を使うが、実は関西出身。本作では他ゲームからのゲストキャラ、舞妓を使う。
・花崎 蘭子 はなさき らんこ
高慢ちきな美少女JK。純の元相棒、花崎 誇の妹。前作では純らに敵対していた。口の悪さは病のレベル。
・源五先輩 げんご せんぱい
純のクラスメートの留年生で3年目の高校二年生を満喫中。どうやら女性に目がないようだ。プレイキャラは新世代の主役、ローク。
・比留多 恭介 ひるた きょうすけ
元蘭子の親衛隊長。ニヒリストを気取り文学をこよなく愛する格ゲーマー。一人称は小生。変な髪型の米兵、ゲイルの遣い手。
・日乃本 尊 ひのもと たける
純とその姉の音々の父。格ゲー黎明期の知る人ぞ知る英雄。
・ヨウヨウ ようよう
医療法人花崎会の新事務長。丸眼鏡の美人。格闘ゲーム、ザ・ナックルのプレイ経験のある、あざといアラサー。
・花崎 誇 はなさき ほこる
格ゲーにおける純の元相棒。あだ名はオタク族。只今、医科大学を目指して受験勉強中。アメリカンな空手家、ゲンの遣い手。
・デコ、ミッチ
クー子の友達で純のクラスメート。




