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三つの魔法と螺旋の星屑  作者: 長尾 驢
第2章「エリスの魔法」
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75話「孤児院12」

振り返ると立っていたのは女の子。最近見知ったばかりの女の子だった。

「こ、こんばんは。ナベルさんもお散歩ですか?」

視線を少しだけそらしながら彼女が聞いた。

「そうだよ。さっき魔法の話で盛り上がったせいなのかな、熱が冷めなくてなかなか寝付けなくて」

「私もそうなんです! あれから図書館の司書さんに魔法に関して書かれている本があるのか聞いて、今は表に置いていないけど裏にあるから、明日読ませてもらえるんです。だから、楽しみで、眠れなくて……」

アリスは嬉々とした表情とそれを話す気恥ずかしさから視線をあちこちに泳がせながら、見えない尻尾を振っている。もちろんそんなものはないが。

「じゃあ、明日は良い一日になりそうだね」

「とっても楽しみ! あっ、なんです……」

共感してもらえた喜びからついついロイスの手をつかんでその場で少しジャンプをした。

その行動にロイス自身も一瞬だけ驚いた表情を浮かべたものの、すぐにそのかわいらしい行動にくすっと笑ってしまった。

「本当はもう寝なくちゃいけないはずなんですけど、どうしても寝付けなくて……外に出て月でも見ていれば眠くなるんじゃないかなって思ったんです」

「あの中庭……の木かな?」

「そうです。みんなはあの木を『お菓子の木』って呼んでます」

「『お菓子の木』?」

聞き慣れない、というより、木に付ける名前にしてはずいぶんとファンタジーな気がして思わず聞き返す。

「子供たちの誰かが誕生日になったらあの木の下にたくさんのお菓子が落ちてきてるんです。だからみんなそう呼ぶようになってて」

「面白い話だね。俺にもその場に立ち会わせてもらう機会があるといいな」

「きっとすぐですよ! ここにはたくさんの子供たちがいますから」

アリスは笑った。とてもかわいらしく、純白な笑顔で。

ロイスにとっては、その笑顔がエリスの笑った表情と合わさって見えた。

忘れていたわけではないが、今夜しか自由に動ける時間がない。まだ、夜明けまで時間があるとはいえ、手掛かりが一切見つかっていないのだから、少し焦燥に駆られているロイスは足早にその場を去ろうとした。

「じゃあ俺は……」

「まって!!」

アリスから視線を外し、向かおうとしていた道に振り返った瞬間、背中に声がかかった。

「ナベル君も……行くんでしょ? 」

彼女がさしている場所はどこのことだろうか?

至極当然な疑問がロイスの頭に浮かんだ。

「私がこの施設で育ってから、何人も友達がいなくなったの」

「……」

「変な話かもしれないけど、いつも突然友達の姿が見えなくなるの……。本当に気づいたらいなくなって、ふとした時にあの子と最近会ってないなって思ってからいなくなったことに気付くの」

「それって―――」

どうにも嫌な予感が厭らしく背中をなぞる。だがその予感はおそらく当たっている。親友が―――大切な仲間の一人が連れ去られたばかりだから。

「こんなこと言うの変かもしれないですけど……今日は私と一緒にいてください! 今日知り合ったばかりだけど、友達のナベル君が今からいなくなりそうでとてもじゃないけど一人で部屋に帰りたくありません!」

彼女は悲痛に叫んだ。先ほどとは違い、しっかりとロイスの目を捉え、表情は真剣そのもの。詭弁を口実にしてロイスを引き留めているわけではないということがひしひしと伝わってくる。

アリスの感じている不安と以前の体験からくる恐怖心は、ロイスが何を言ったところで理解してもらえるものではなさそうだ。「大丈夫」という言葉こそ彼女にとっては禁句となりえる。

ならば彼女の提案に乗るのかといえばそうはいかない。

「……」

腕を組んでロイスは深く考える。どうすれば彼女が納得する形で別れてもらえるのだろうか。

しばらく考えながら、ちらちらとアリスの様子を窺ってみるが相手側が折れる様子はなく、まっすぐな瞳を寸分も揺らすことなくロイスを見つめている。

「わかった……事情を話すから、ついてくるかはアリスが決めてくれ」


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