70話「孤児院7」
シュルイ導師とは誰のことかさっぱりだが、子供の数と導師という部分だけで孤児院と何らかの関係があるのではないかと推測。なければそれまでだが、あれば多少なりと役には立つはずだ。
手に取った本を脇に抱えて、近場の椅子に座る。
さっそく本を開き、目次を一瞥し関係のありそうな題を探す。
「シュルイ導師の生い立ちからシュルイ導師の最後までが描かれてるな……伝記か?」
その本に書かれていたのは『シュルイ導師』という若くして導師となった男性の一生についてが描かれていた。
彼は幼い頃から異常なまでの宗教的教育を父から施され、青年になる頃には立派な導師として成長し、教団の中でも幹部にまで上り詰めていたエリートだった。その時になっていた活動が孤児院らしい。
シュルイ導師の孤児院とこの孤児院の共通点はわからない。この本に載っている孤児院がこの場所という可能性と導師の教えに沿って建てられたのがこの場所だという可能性など、様々な憶測はできる。
だがはっきりとしたことは書かれていない。
めくるたびに新品の匂いを鼻に感じ、この本の使用度がうかがえる。そのページに書かれていることを八割程度読みながらペラペラと進めていく。
読み慣れた魔法関係の本と比べれば内容は理解しやすい。人の一生についての物語であるため、特別脳を働かせて理解しようという工程が省かれているからだ。
「孤児院についての本だったが、この場所とは関係がなさそうだ」
総頁の三分の一を読み終えたところで見切りをつけ、そっと本を閉じ、元あった棚に戻しに席を立った。
その時、ちょうどロイスの後ろを通りがかった人と肩がぶつかり、お互いが小さく悲鳴を上げる。
ロイスは衝撃から持っていた本を床に落とし、もう一人はバランスを崩して蹌踉めいて床に手をついた。
「すみません! 大丈夫ですか?」
即座に謝罪の言葉を口にすると同時に床に伏せている影の元に手を差し伸べる。
「だ、大丈夫です」
彼女は目線を合わせずにはにかんだ。
「俺の注意不足でした。すみません」
倒れた彼女の体を労りながら、脇に散乱した本を手に取り集める。集め始めると、彼女が抱えていた本の種類に驚く。非常に文学的なものから恋愛小説などのメルヘンチックなものまで多岐にわたる本を携えていたらしい。
ロイスはそれらの本を一旦近くのテーブルの上に乗せ、倒れた彼女を介抱する。
ライトブラウンの前髪で目の殆どを隠してはいるが、隙間から真珠のように丸くきれいな瞳が見え隠れしている。ほのかに頬と耳を赤らめ、小動物が大型の動物の前で身を震わせるようにして身構えている。
怖がりな性格なのか、ロイスの行動一挙手一投足に過剰に反応して体を強張らせている様子が見られる。
「そ、その本……珍しいですね。資料棚の本を読む人はそんなにいない、ですよ」
彼女の目が小魚のように素早くあちこちを泳ぎまくっている。決して目を合わせないという意思はないようだが、合ったと思えばすぐさま逸らされる。
その様子を見て、ロイスは数日会っていないオークスの姿を思い浮かべるとひどく感傷的な感情に襲われることに驚く。
「この孤児院について調べようと思っていたんだけど、全然違ったみたいだ」
彼女の本と同様に床に落ちてしまったロイスの本を拾い、表紙を指でなぞりながら期待外れだったことに対して落胆の表情を浮かべていた。




