表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
三つの魔法と螺旋の星屑  作者: 長尾 驢
第2章「エリスの魔法」
70/75

69話「孤児院6」

 ☆★☆★☆★☆



 ラズが囮として捕まるまであと1日。

 今日一日は、ロイスが院内の目をつけていた3箇所をそれぞれ回ろうと思っている。

「まずは、A棟一階にある食料貯蔵庫に行ってみよう」

 5つある棟は北にA、東にBと方位に沿って広場を囲むように建てられている。そしてE棟はA棟の裏手に建てられていた。

 今回調べる食料貯蔵庫は、大人のみがはいることを許されている場所の一つだ。加えて、A棟一階の右隅の部屋で、故意に隠されてはいないと思うが最も外部の人の目につかない場所である。

 調理場と食堂を持つA棟において、重要な部屋というのは頷けるが、入口が棟の中心にしか無いことが引っかかる点だった。また、万人の子どもたちを養うための食料庫がこの場所にしか無いというのも疑問点だった。

「貯蔵庫につながる扉に見張りがいないことが救いだな。それだけ天真爛漫な子どもたちをしっかり躾けられているという証拠とも言えるが……どうにも不気味だな」

 A棟入口を通り、最低限のオイルランプと花瓶がいくつか並べられている殺風景な長い廊下を少し足早に進み、目的の扉を見据える。

 何事もなくドアのもとにたどり着きノブに手をかけ回す。しかし、その扉は開くことはなかった。

「鍵か……クソ、今まで鍵のかかった扉を見たことがなかったから鍵の存在を忘れていた」

 ロイスが育った環境では鍵を掛ける習慣がなかった。ネモのお店ですら、店終いを行うことはあっても鍵をかけることはなかった。もちろん先生の家でもだ。故に見落とした。この扉に子どもたちが入らないのが躾けられているからと思っていたが、それよりも簡単な防衛策があることを。

「持っているとしたら、大人の誰か。でも数百人はいるぞ……」

 鍵が一つだということはないはずだが、それでも持っている人は限られているはず。それであっても、見つけるのは困難を極める。とてもじゃないが、今日中に目星をつけることすら難しい。

「となれば、他の子供禁制の場所も鍵がかけられていると考えたほうがいいよな」

 A棟の食料貯蔵庫、B棟の書庫、E棟の倉庫を調査予定だったが、考え直さなければならなくなった。

 全てに鍵がかかっているという確証はないが、大人のみ入ることが許されている場所の一箇所であるこの扉が鍵付きであれば他の扉も同様である可能性は高い。

「どうしよう……扉に入る手段がない今できることは……」

 目星をつけていた3箇所の調査ができない今、ロイスができることは限られている。

 研究所の場所が特定できていない状態で下手に探し回るのもバレる危険性がある。

 ならば――――

「図書館でこの孤児委員の変遷でも調べてみるか。どんな貴族が支援をしているのか気になるし」

 ゴッドゥによる情報収集によってこの場所に研究施設がある事はわかっている。何もせず明日の夜を迎えるわけにはいかない。

 一体いつからこの場所が研究所と成り果てているのか。元々はどういう土地だったのか。何故孤児院なのかなど、情報としてほしいものは多くある。そして、今後の動きやこの裏にいるであろう大きな人物がどういう人なのか、色々と知りたい。

 現在時刻は正午を過ぎて二時間ほど経っただろうか。どういうわけか院内には時計が存在しないのか、今の正確な時間を知ることは出来ないでいる。ただ、太陽の傾きと影の関係からおおよその時間は推測できた。

 猶予は日暮れまで。クク爺と約束した以上、待たせると弁明にも時間を要することになる。

 ロイスの正体はバレてはいないと思うが、言動に関していくつか疑問を持つ瞬間が何度かある。それが研究所の件と関係しているのかはわからないが、怪しむ素振りを見せないように警戒はしておいたほうがいいかもしれない。

 そんな事を思いながらA棟から図書館のあるB棟へと移動する。道中広場の木陰を見てみると、まだクク爺は子どもたちと仲良く談笑しているようで笑い声が聞こえてきていた。

 図書館はB棟一階の中央入口から正面に続く廊下を突き当たった先にある。

 蔵書数はおよそ3万冊。算数、国語を初めとした基礎教育関係の参考書を初めとした教育関係の蔵書が4割を占め、残りを小説や絵本、趣味に関するもの、図鑑、辞書などが占めている。

 この孤児院には普通の学校で教鞭をとる先生がおらず、基本的には大人から教えてもらう程度だ。残りは自分で学習していくという、普通の学校と比べればレベルの高いことをしている。

 そんな図書館で、孤児院の変遷をたどることができる本は果たして何冊あるのだろうか。というかまず、読むことができるのだろうか。

「はぁ、ダイネの街にある図書館と比べても引けを取らないぐらいでかいな……まぁでも、子供の数を考えれば妥当とも言えるが」

 図書館の入口から入って向かいの壁までは個々に用意された丸テーブルがジグザグに配置され、それぞれに椅子が八脚セットされている。また、二階には壁に沿うようにして本棚が設置され、近くに同様の丸テーブルと椅子が設置されている。中心部は一階を見下ろせるように吹き抜けとなっている。

 本喰い虫と呼ばれるほど勉強熱心なロイスにとっては天国であるとともに、これだけの本が孤児院の子たちのみ読むことができるということに少し悔しさを覚えた。

「子どもたちもそれなりに多いし、一定数は外で遊ぶことよりもこっちのほうが好きな子がいるんだな」

 ロイスの同類と呼べるような子どもたちを見渡し、熱心に本の世界に入り込んでいる者から頭を抱えて睨みつけている者までいる。

「さて、ここに関する本は……資料棚の辺りか」

 土地や街、風土等、この地に関係するものの資料は大抵が資料棚に収められている。それが、この図書館の場合は一番奥の角に存在した。

 頻繁に読むものでもなければ、子どもたちも興味を持つような分野ではないため、目立たない場所にある。

「これ……だろうか」

 おもむろに手に取ったのは『シュルイ導師と100人の子供』という本。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ