61話「救出に向けて2」
煌びやか笑顔と共に星を飛ばしていそうなウインクを披露する。おまけに舌を鳴らして指パッチンまでついてくれば、女性はメロメロになるだろう。イケメンなのだから。
「とはいえ、まだ詳しくはわからない。施設全体が実験施設なのか、孤児院の敷地の中にある建物の一つが実験施設なのかは相手が大きすぎて調べきれなかった。孤児院としてしっかりとした勲章や謝状も多く受けていることから、活動としては真っ当なのは確かだが……」
「それらは貴族が授けるものであって、必ずしも正当なのもとは限りません。資金面を援助できる相手としては、貴族が真っ先に思いつきますから」
「確かに、貴族が魔法の研究に関与していてもおかしな話ではないですな……」
貴族の真似事でもしているのか、無い顎髭を触る仕草をしながらロイスの意見に納得する。
一般的には、商売や事業が大成して資金面が潤沢な家柄のことを『貴族』を称する。支援をすることができるということはそれだけ余裕がなければ出来ないことだ。また、寄付とは違い支援をしているということは何かしらの関心事があってのことだ。
証拠がないためどれだけ考えたところで推測に域を超えることが出来ない。一度思考を改め、孤児院の件へと戻る。
「それで、ロイスくん、どうやってエリスって子を助けるんだい?」
「俺が潜入して助ける。それだけです」
「ふむふむ、ずーいぶんと単純な作戦だね?」
「これ以外で思いつきませんでした」
場所が孤児院だとわかった瞬間、この作戦でしか成功しないと直感した。孤児に紛れて潜入すればバレないはずだ。
あとは成り行きに任せて事を遂行しつつ院内で情報を集めて、エリスの場所を特定し、救出の手立てを探る。
「木を隠すなら森の中作戦だね。でもそれだと、ロイスくんだけが危険にさらされていないかい?」
「そこで私の出番です」
二人の会話の間に手を上げて存在を主張するラズ。
「私が、わざと研究員達に捕まります」
「囮をするってのかい!? ラーちゃんが!?」
あらゆる作戦を考えた結果、一人が潜入し一人が囮となって捕まることで研究所の場所を特定する方法。
ラズの顔は研究員に割れているため、潜入には向いていない。しかし、囮としては適している存在だろう。
「反対だ。ラーちゃんは知っているはずだよ、彼らの情報収集能力を。もしラーちゃんが囮となるなら、王族であることもバレてしまう。それは絶対に避けるべきことだ」
「えぇ、わかっています。ですが、王家の汚点となっている私の存在を世間一般に知られるような情報を残しているとは思えません。ですので、逆に情報不足で怪しまれるとロイス様が考えられました」
大陸の頂点となる一家の4番目の子供であっても、王家の血筋に違いはない。その肢体は爪であっても闇市で売られれば豪邸が建つほどの金額で取引される。
言い伝えを過度に信じている上流階級の家々は、不幸を特に嫌っている。当たり前のことだが、家が傾く可能性のある出来事はなるべき避けたいだろう。王家であってもそれは例外ではない。また、4番目の子供は死ぬことで家に不幸が戻ってくると考えられている。
つまり、死なないように活かして家から追い出さねばならない。これが一家の弱みとなり、汚点となる。
王家であれば最も隠しておきたい情報だ。安々と漏洩させるような情報統制はなされていないと踏んで、ある作戦を立案する。
「そこで、ゴッドゥ様には、私の偽情報を拡散していただき、身分を偽りたいと考えています」
「ほーう、なーるほどね? すごいことを考えるものだロイスくん」
ため息のように吐く感嘆の言葉と称賛をロイスに向ける。
情報がないのなら作ってしまえばいい。白紙ならば勝手に書き足して絵を完成させれば、それが作品となるのと同じように、情報であっても書かれたものが本物となる。
ゴッドゥの手にかかれば、それぐらいのことは造作もないことだ。
「ボクチンなら、情報収集している手前、広めることだってできる。そして、確かにそれはボクチンにしか出来ないことだネ」
「お願いできませんか?」
ゴッドゥは腕を組みながら思考の渦に飛び込み、しばらくすると目を見開いて「よしっ!」と一声と共に膝を叩いて立ち上がる。
「報酬次第だロイスくん。君は、何を差し出せるのカナ?」
悩む素振りを見せてはいるが、元々考えてついていた展開だと言わんばかりに頬が緩んでいる。
「そうですね……魔法についての自論なんてのはどうでしょう?」
これを提示すれば乗ってくると確信を持った目でゴッドゥを見つめる。
「自論……良いねぇ、ボクチンの大好物だ。よし、引き受けよう」
「ありがとうございます! では、明日の朝から俺は孤児院に向かいます」
「私も、魔法らしい事件を起こす準備をします」
「なら今夜のうちにラーちゃんの情報を完成させて、広めていこうと思う。実際、この餌にどれくらいで引っかかるのかはわからないが、それまでバレないでくれよロイスくん」