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三つの魔法と螺旋の星屑  作者: 長尾 驢
第2章「エリスの魔法」
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52話「ゴッドゥ様」

「こんな時間に一体だ――――れ、ラーちゃん!」

「お、お久しぶりですゴッドゥ様……いてて」

 男性は見知った姿を見つけると歓喜にあふれる表情を浮かべる。

 外見はスラリとした高身長の男性。頭髪が派手な金色に染められ、ボサボサだ。服装は対象的に白色の動きやすそうなシャツと余裕のある黒いズボンで質素なスタイル。

 ただやはり特筆すべきなのはその口調。ほとんど会話をしていないが、見た目の印象とかけ離れすぎていることに違和感を覚える。

「と、どなたですかな?」

 不格好に床に伏せているラズの横で、これまた奇っ怪なポーズとなって痛みを訴えているロイスに目が向けられる。

「こんな格好ですみません。ロイスと申します」

 格好をどうにか奇怪なレベルまで下げるように、身だしなみを整えながら自己紹介をする。

 パタパタと服をはたき、ズレた眼鏡を直し、足を挫いて立てなくなっているラズに肩を貸す。

「ロイス……ふむふむ、いい名前ですな! GJ部(グッジョブ)!」

 ゴッドゥの軽快な声とはっちゃけた動き、聞き取れるが理解できない言葉が暗い地下通路に響き渡る。

 そして静寂が訪れた。

 おそらく彼は良い人なのだろう。それはなんとなく言動で読み取ることができるが、もし夜道を歩いている最中に出くわすと誰もが真っ先に逃げ出すような……不気味な雰囲気もある。

「ゴッドゥ様、中に入れてもらえますか?」

「もちろんだお! ほらほら、二人ともはいりな菜」

 悪びれることもなく、ゴッドゥの言葉に無反応を示したラズに、ロイスは素晴らしくきれいな会話のスルーを見た。

 反応すべきだったのは俺かも知れないが、なんと反応すればいいのか困っていたのは事実。何も反応を示さないとうのは考えていなかった。

 新たな処世術を目の当たりにして、勉強になったと感心する。

 部屋の中は思っていたよりも広く、天井が少し低いような気もするが十人程度であれば余裕で入ることのできるスペースがあった。

 壁際には、その無機質な材質を隠すように多数の蔵書が本棚に整頓されて、しまわれている。背表紙には読めても意味のわからないタイトルや様々な学術に精通するような教本や専門書を初めとして、絵本、文芸書、標本図鑑や辞書など数百冊はある。

 入口から入って右手には四人がけのソファーが4つとそれに囲まれたテーブルがあり、客人をもてなす時はこの場所が使われるのだろう。左手には乱雑に放られたゴミが袋にまとめられて積み上がっている。

「この人が、ラズさんの言ってた……人で合ってる?」

 ゴッドゥと呼ばれる男性の後ろをついていくロイスが、肩を貸しているラズに耳打ちする。

「そうです。ゴッドゥ様です。独特な話し方をされますが、慣れると可愛らしい方です」

「俺は……そうは見えないけどな……」

 相容れない意見に思わずジト目で先導する男の背中を見る。

 外見だけを見ればいわゆる「イケメン」に分類される男性だ。見た目を重視している女性になら是非と太鼓判を押して紹介するところだが、中身を重視している女性には少し待ったほうがいいと言うだろう。

 人に慣れるという意味だけで言えば、今まで出会ってきた人の中で一番難しいのではないだろうか。あくまでこれはロイスの憶測だ。なんの根拠もないただの直感だ。

「二人とも、飲み物はミルクティーでいいかな?」

「甘めでお願いします」

「ふひっ、ラーちゃんの要求は知ってるよ〜。久しぶりだからって忘れるわけ無いでしょ。ロイスくんはどうだい?」

「じゃあ俺もラズさんと同じもので」

「おや、おやおや? 君も甘党なんだね〜」

 にたりと笑ったイケメン顔がロイスを向くと、その顔がひどく不気味に見えた。ラズはその顔を気にもとめていないが……一体どういう環境で彼女は育ったのか、心底疑問だった。

「さっそく作ってくるからYO、そこの椅子に座って待っててくれYO」

 急に陽気になったかと思えばノリノリで奇妙なダンスを踊り始める。

 もうこの人を理解するのはやめようと思ったロイスは短く息を吐いた。自分の常識や今まで培ってきた知識では、補えない領域があることを知った。

「椅子って……どこだ?」

 示された場所を見やっても、そこには本が奇跡のバランスで積み立てられている。とても、座れるような場所があるようには見えなかった。

「本をどけて、座りましょう」

 支えられていた腕を解き、テキパキと本を空いたスペースに移動させていく。ラズの行動を見てロイスもそれを手伝う。

 本棚を見て感じたが、ゴッドゥという人はなにかの研究者なのだろうか。だが、いくらなんでも幅が広すぎる。今どかしている本だけでも、「詩を解説している本」と「線形代数学の応用」、「ダイネの地歴書」、「世界の神々」と多種多様だった。

 ロイスが個人的に読みたい本もあり、何度もその誘惑に打ち勝って本を移動し終わると、形は歪だがベンチが姿を表した。

「すごく……なんというか、複雑な形をしているな」

「こほん。さぁ、気にせず座って待ちましょう」

 ラズはどこかよそよそしい様子で隣りに座ることを急かしている。

 本を移動させる際に腰を酷使したため、その様子を特に気にすることなくベンチに腰掛けてゴッドゥが来るのを待つ。

 しばらくして、紅茶の芳醇な香りとミルクを入れたことによるまろやかな甘さが漂ってくる。

「おっまたせ〜。あっ、本出しっぱだったね、ゴメソゴメソ」

 目の前の丸テーブルに2つのティーカップが置かれる。

 二人が座っているベンチを見たあと、本の位置が変わり整頓されている様子を一見して、思い出したように謝った。

「いや〜知りたいことが多いとどうしても片付けをあとにしちゃってね」

「いいんですよ。いつものことですから」

 出されたミルクティーを口に運びながら、ラズは軽くあしらった。

「そいじゃ、二人がここに来た理由を詳しく聞こうか」

 ゴッドゥはどこからか持ってきた一人用の椅子に座り、二人に向き合った。

「ゴッドゥ様、すでにお耳に挟んでいることと思いますが、今日はロイス様の友人であるエリス様が研究員達に連れ去られた件で来ました」

「ふーん? 上DE騒がれてたね。それDEそれDE?」

「エリス様が今どこにいらっしゃるか、わかりませんか?」

「もう結論を言ってもいいかい?」

「はい」

「わからない」

「そうですか……」

「はっきりとはね」

 結論の補足に含みを持たされたことで少しムッとした表情でラズはゴッドゥを睨む。

「ごめんねラーちゃん。でもね、魔法の研究所っていうのは公にされていないし、徹底的に情報を隠されているんだよ」

「それは、なんとなく分かります。魔法の商品は時折市場に出てきても、それがどこから出荷されたものなのかは販売している商人ですら知らないらしいですし、かなり閉鎖的ですから」

 一年に一度程度、魔法の能力を有した商品が出回ることがある。今までも、生活のちょっとした事が便利になるような物がいくつも販売されたが、その殆どは非常に高額で庶民には手の届かないほど高いものだった。

 そんな商品を販売するのは、もちろん商人の仕事だ。誰かから仕入れたものを販売し、収益を得る。そして、ものを商店まで運ぶというのも商人の仕事の一つだ。しかし、魔法の道具がどこから運ばれてきて店に入るのか、誰から仕入れているのか、いつ仕入れたのか、その全てが伏せられているのだ。

 良い商品は独占して販売するのは鉄則だ。お金だけではない戦いが水面下では繰り広げられている。そういった戦いをしていれば、少なからず情報が漏れ、他店で同様の物が販売されることはしょっちゅうある。

 それが魔法商品に関しては一切ないという奇妙な話だ。

「ロイスくん、さーてーは、頭いいね? 最近興味のある分野はなんだい?」

「え、最近……そうですね。『魔法』ですね」

「おー! いいね! すべての学問の頂点と言われている最難関分野だね」

 手を叩いてロイスを褒めるゴッドゥ。

 彼になにか通ずるものを感じ取ったゴッドゥは握手を求める。

 その様子を眺めながらため息をついてラズは軌道修正を試みる。

「ゴッドゥ様、話が逸れてきてますよ」

「ごめんねラーちゃん。同士がいて嬉しくなっちゃってどうし(・・・)ようもなかったんだ……」

「どうしてそんなにつまらない人になったですか?」

 氷のように冷え冷えとした言葉とゴミを見るような目で冷徹に突き放す。

 ロイスも、ゴッドゥのあまりにも空気の読めない発言に、少し親近感を覚え始めていたがその気持も一気に冷める。

「ごほん。では、話を戻して、エリスの居場所のことなんだけどね? ボクチンには3つの可能性があると思ってる。1つ目に、近くの研究所で研究されている。2つ目に、近くの研究所で一時的に研究されて、今後より大きな研究所に移される。3つ目に、4つのどれかの大陸の端に隔離され、簡単には追ってこれないようにしている」

「俺は、1つ目が濃厚だと考えてます」

「ほう、どうしてかな?」

「理由は単純で、追ってくる可能性があるのは子供だけだということです。相手が組織単位であれば、厳重な警戒が必要かもしれませんが、たかだか三人の子供に人員を割くのもおかしな話だと思うからです」

「ふひっ、いい推理じゃないかな」

 再び手を叩いてロイスを称賛する。

「ボクチンもね、1つ目が濃厚だと思ってるよ。子供はナメられやすいからねぇ〜」

「なら、一番近くの研究所ってどこにあるんですか?」

「そ・の・ま・え・に、どうしてエリスって子が研究員に連れ去られたんだい? ボクチンはその理由が知りたいな」

 興味を惹かれる情報を前にして、目をキラキラ輝かせながら体を前のめりにしながら迫ってくる。

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