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三つの魔法と螺旋の星屑  作者: 長尾 驢
第2章「エリスの魔法」
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34話「相談3」

 含みを持たせたまま少しを間をおいて、

「少し特殊な世界が彼には見えるようになっているようだ」

「特殊な世界?」

「どういう世界に見えているのかはオレにはわからない。後でオークスに聞いてくれ」

 怪物は突き放すように言い切った。

「それよりも話しておきたいことがある。ヒノビのことだ」

「……聞こう」

 この場にいる誰もが求めていた情報。ヒノビの消息について少しでも知りたい。

「先生は……「人がなにもないところから出てきて、なにもないところから消える」この現象について知っていることはあるか?」

 怪物の言い方から半信半疑であることが滲み出ている件の現象。それを目の当たりにしていたはずの本人ですら、未だ信じられないという印象を受ける。

 また、怪物本人だけでなく、ピンときていない者が他三人だ。

「……知らないようだな。オレの話を信じてもらえるかはわからない。だが、事実だけを話すと今一度宣言しておく」

「一つ……確認しておきたい。どうしてそこまで俺達を信用しているんだ?」

 怪物がここまで協力的なことには疑問を抱かざるを得ない。襲われたエリス達は特にそうだとしても、知り合って間もない先生ですらその違和感を無視することはできない。

 オークスの体を借りているのなら、ある種の人質だ。人を動かせる手札を持っているのにもかかわらず、それを行使して従わせようとしてこない。それを配慮と取るべきなのか、必要なときまで温存しておき――――いや、温存させる理由がない。

 ならば、配慮と取るべきなのか? その一歩を着実に踏むためには、怪物の目的を知らなければならない。

「信用しているわけではない。オレはオレを操ったやつに復讐がしたいだけだ。最終目的が違えど、道は同じだと思った。だから、お互いに利用し会う関係を築いておきたいと思っている」

信用(・・)ではなく利用(・・)か……」

 無理に信用を押し付けられるよりもよっぽど信じられる言葉だと先生は思った。お互いの利益のみを追求する関係であれば、裏切られるということも少ない。

 また、目的が違うが向いている方向は同じというのは、非常にフラットな関係を築ける可能性がある。

 ふむ、と小さく頷いた。

「それが君の本音だと受け取ろう」

「ありがたい。では、話を戻させてもらう」

 怪物は姿勢を改めて、深く息をつく。

「ヒノビはオレとの激闘を終えた後、少しばかり地面に伏せて休憩をしていた。その時、突然髪の長い修道女のような女性が現れて、何か話し込んだ後にヒノビを連れて行ったんだ」

「修道女のような女性? どのような服を着ていたんだ? なにか特徴的な装飾品はなかったか?」

 思い当たる節がないと首を傾げる先生。エリスやロイスにもそれらしい人物は頭に浮かんできていない。

 この国だけでなく、この大陸に置いて修道女は基本的に似た服装をしている。だが、何を信仰しているのかによって多少違ってくる部分が装飾品だ。

 この世界には4つの大陸があるとされている。

 己の信念を貫き、誇り高きものに力を授ける戦いを司る神――――『漢神(かんしん)プラルスト』を信仰する『プラルスト大陸』

 様々な機構の創意と技巧・業を司る神――――『技神(ぎしん)アズマ』を信仰する『アズマ大陸』

 万物の知識と心理を求む貪欲さを司る神――――『博神(はくしん)ソロモン』を信仰する『ソロモン大陸』

 全ての慈愛と調和を司る神――――『女神(めがみ)サラティア』を信仰する『サラティア大陸』

 プラルスト大陸の修道女は胸元に、両手に長剣を持った男性のエンブレムがあり、アズマでは、ハンマーで金床を叩いているエンブレム。ソロモンは本を持った男のエンブレム。サラティアは、女性が祈りを捧げているエンブレムを備え付けている。

 もし、怪物の言っている女性が修道女だった場合、そのどれかのエンブレムを胸元につけていたはずだ。それ以外の修道女に関しては、認知していない。

「服は、白に金色の刺繍が複数入っていた。髪は地面につきそうなほど長く、顔に三本の線のようなものが入っていたのが特徴だろう」

 怪物からの返答を聞いた先生は、眉間にシワを寄せて難しく考えている様子だ。

「確かに見たんだな?」

「あぁ、肉体の方の視力は失われていたが、オレにはあまり関係ないからな」

「……」

 再び思考の渦の中へと飛び込んだ先生は、深くうつむく。

 おかしい。そんな服装の修道女がいるとは聞いたことがない。もし教会の関係者だったとしても、その答えが覆ることはない。

 修道女は基本黒の服でしか教会に出入りしてはいけない。そういう決まりがあるからだ。どの大陸であれこの決まりは共通している。

 ――――一人だけ思いついた。だが、現実的ではない人物だ。

「教皇……教皇なら、白色の祭服を着ることが許されている。加えて、金色の刺繍もある」

「教皇が!? 先生、それはかなり突飛な考えではないですか?」

「え、教皇様が疑われているんですの!?」

 そのとんでもない発言にロイスとエリスは、驚きを通り越して困惑した表情を浮かべている。

「いや、服だけで判断すれば教皇しかいないんだよ。まぁそんな人がわざわざ表に出てきてヒノビを連れ去る……なんて、常軌を逸した考えだと俺も思う」

 二人の反応を見て、自身の考えがいかに異常なものなのかを痛感する。それもそのはず、教会のトップオブトップの教皇が人さらいをするなんて考えが正常な考えではないだろう。

「その、教皇とやらには会えるのか?」

 的はずれな質問を混乱しているこの場面で投げかけるオークス(怪物)。「会えるわけ無いだろ!」と鋭いツッコミをいれる先生。場は混沌を極めている。

「はぁ、一体誰に連れ去られたんだ、ヒノビは……」

 深くため息をついて頭を抱える。現状、ヒノビの行方は不明のまま、誰に連れ去られたのかも不明で結局振り出しに戻ってしまった。

 もともと彼女が炎狐族ということもあってか、疑うべき者達が多すぎる。未だに根強い恨みを持たれていることを考えれば、その数は膨大だ。そして、そういった者達が普段は普通に生活していることのほうが多いため、砂漠から針を見つけるようなもの。不可能に近い。

「連れ去ったのなら何かしらの意図があってのことだろうが、依頼されたのではないでしょうか?」

「炎狐族を連れ去って来いって誰に頼むんだよ。誰も引き受けないだろ」

「では、偶然通りがかってくれた人が助けてくれた可能性も」

「それなら、私達のところに来るはずですわ。一年もアンブルグにいましたのに、そんなこと一度だってなかったですわよね?」

「ならば――――」

 ひとつずつ可能性のありそうなことを列挙するも、ことごとく論破されてしまう。

 一年という長い年月の間音信不通だったこと、目撃者が怪物のみで情報が少ないこと、手がかりとなるものが一つも残されていないこと。八方塞がりだった。

「情報が少なくてすまない……あとは、「使い魔」や「オズミット」といった男がいたぐらいだろうか」

「使い魔だと!?」

 先生の表情が一気に険しくなる。なにか思い当たる節があるようで、少し考え込んでいる。

「使い魔」とはどういうものなのだろうか。ロイスは疑問に思いながらエリスに視線を移す。

 ロイスの視線に気づいた彼女も、知らないと首を横に振る。

「先生、使い魔とはなんですか?」

 視線を落として深く考え込んでいる様子の先生に、声を掛ける。

 声をかけられたことでハッとした表情で軽く謝り、こほんと咳払いをした。

「使い魔とは、俺が今研究していることなんだが、簡単に言えば神の対となる存在たちを服従させた状態のことを指している。それらのことを『悪魔』と呼称し、神が万物の創造者であるとするならば『悪魔』は万物の破壊者だ」

「なら、怪物が見たという女の人は、『悪魔』を飼いならした人物だということですね……」

「そういうことになるな。俺も研究者の端くれとして、いろいろな情報を持っている方だが、実際に使い魔を連れている人がいるなど聞いたことはない。もし知っていたら、俺はこんなところでゆっくりなどしていない」

『悪魔』という存在が事実だとするのならば、神に匹敵するものを引き連れていることになる。事実上、扉を開く者(ルトプポルス)と双璧をなすものであり、地球上の敵となる可能性が浮上した。

「確かに、神と対になるような存在であれば、オレの精神支配も上書きできるわけだ」

 自分の他聖遺物への精神支配に絶対的な自信を持っていた怪物が、悔しさをにじませた言葉を吐露する。

 同情する訳では無いが、怪物は生きるために他生物に入り込んでいるため、『悪魔』は嫌らしい存在であり天敵であることがわかる。

「先生は、その悪魔についてどこまで信憑性のあるものだと確信しているんですか?」

 女性の身分について不明瞭なこの場で、『悪魔』という存在は非常に注目すべき特徴だ。仮にこれが本当だとした場合、件の女性は教会の関係者ということはなくなる。神の対になるものを服従させ、連れ歩いている人が神を信仰するはずがないからだ。

「少なくとも、偽オークスの話をからその単語が出るまでは半信半疑だった。いることの証明よりもいないことの証明をするほうが難解で、苦戦していたからな」

「え、じゃあ『悪魔』という生物はいるってことですの?」

「偽オークスの話が本当なら、いるという材料になり得る」

 確信に近い感情を瞳に宿し、この場で新たになった『悪魔』という存在。

 エリスたちにとって馴染みのないものであり、いまいちピンときていな部分もあるだろう。その存在が本当に自分たちの的なのかどうかすら。だが少なくとも、先生と怪物はその存在を敵とみなしている。

 どうにか一歩進展があったものの、未だに彼らの歩む道には霧がかかっている。目標は絞れているものの、どうやって見つけるのか。ここが一番の問題点となって、彼らの頭を悩ませていた。

「すまない。そろそろオレはオークスと変わりたい。慣れていない体は負担が大きくて疲れてしまった」

 オークスの体を借りていた怪物が息苦しそうに言った。彼の額には汗が滲んでおり、顔も少し青ざめている。

「ロイスとの約束は守った。また協力してほしいことがあれば、少しは頼ってくれ」

「あぁ、情報ありがとう」

 先生のお礼を最後まで聞かずに、怪物の雰囲気が蝋燭の炎を生きで吹き消すようになくなった。

「あ、戻りました。オークスです」

 雰囲気も顔色も声音も一気に子供らしくなり、今まで感じていたギャップが払拭される。

「無理をさせていたようだな。大丈夫か?」

「大丈夫ですよ。本当は僕のほうが限界で怪物と変わってもらったんです。何だがずっと水中にいるみたいで息苦しくなっちゃって……」

「ほら、私のミルクをあげますわ。ゆっくり飲んで休んでくださいまし」

 隣りに座っているエリスから、少しぬるくなったミルクを受け取り、一口だけ飲み込んだ。じんわりと温かな液体が喉を通るのを感じ、ホッと一息つく。

 肩の力が抜け、ようやく重荷が下りたような謎の開放感に浸る。

「ヒノビの行方は未だに不明だが、使い魔を持った女性がいることはわかった。それに、この女性はなにもないところから現れ、なにもないところへ消えたことを踏まえれば、何らかの魔法を使ったと思われる」

 今まで出てきた情報をざっと復唱し、一旦整理する。

「つまり、魔法使いで、使い魔がいて、髪が長いくて、白い服に金の刺繍が入っている女性を探せばいいわけだ」

「魔法が使えるとなると、やはり研究者の一人でしょうか?」

 当然の疑問を先生へと投げかける。

 現状、魔法を使うことができるのは、魔法の研究者と魔法学校に通っている子どもたちだ。更に付け加えれば、魔法学校はこの世界に一つしか存在していない。

 だが、姿を消すことができるような、高度な魔法をまだ生徒の誰かが使えるとは思えない。

「その可能性は高いな。それは俺が探ってみよう」

「よろしくお願いします」

 同じような研究者である先生が探りをいれる件を引き受ける。

「なら、俺達は……」

「そういえば、エリスが初めて魔法を使えたんだって? なら練習するしかないな!」

「え」

 突然エリスの魔法の話題に切り替わり、ぼうっとしていた彼女が肩をはねさせた。

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