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三つの魔法と螺旋の星屑  作者: 長尾 驢
第1章「始まり」
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2話「先生のたくらみ」

 そのままツカツカと歩いて部屋の奥へと移動し、教壇らしき場所に手荷物を置く。その様子をロイスとエリスは目で追う。

「――――まぁ、おとなしく勉強しているなんてこれっぽっちも思っていないけど……ロイスはすごい集中しているな」

「先生聞いてくださいまし! ロイスったらさっきまでこの辺を歩き回っていたんですのよ!」

「それをエリスが注意してくれて今に至るってことかな?」

 彼の性格と彼女の性格を加味したうえで、その結論に至った。

 エスパーですの!?と言わんばかりに驚いた表情で先生を見つめるエリス。その視線に応えるようにウィンクをした。

「ありがとうなエリス。だけど今から大事な話があるから、ロイスとオークスを現実に戻してくれないか?」

「わかりましたわ。ほら、ロイス、先生が帰ってきたからさっきの質問も聞けるわよ。あとオークス、目を開けていても寝ているのはわかっていますわ。早く起きなさい!」

 エリスの呼びかけにロイスは目に穴が開くほど見つめてくる。オークスに関してはゆっくりと瞬きをはじめ、重い瞼を無理に開けようとしているのがわかる。

 教科書を開いて、姿勢を正し、目を開けながら勉強している風で寝ていた。器用なことをする。

「じゃあ大事な話をするから三人ともよく聞いてくれよ?」

 少年少女たちは先生の言葉に従って姿勢を正し、顔を先生に向ける。

「お前たちには学校に行ってもらう。それも魔法専門の学校にだ」

「え――――――――っと、先生が教えるのはダメなんですか?」

「そうよ。先生に教わるのと学校で教わるのとだともちべーそんが違いますわ!!」

「……モチベーションだねエリス」

 食いかかる勢いで席を立ち、異議を申し立てるエリスと状況をのみつつ先生の真意を問うロイス。そして、エリスの微妙に違う言葉を訂正するオークス。

 三人とも顔を合わせながら不思議そうな表情で見つめあう。

「それはズバリ、お前たちに『扉を開く者(ルトプポルス)』になってほしいからだ。私の授業で得られる知識には限界があるし、お前らが感じている疑問についても、いつかは回答することができなくなるんだよ」

「でも、『扉を開く者(ルトプポルス)』って、全世界の極少数の人しかなれない偉人のことですよね。今現在でも両手で数えられるぐらいしかいない英雄たちですよ」

 ロイスは持っている知識で先生に反論をはじめた。

「それに、その称号を授けられた人たちは大抵が学びの門をたたいたといわれていますが、それは一般人以上の収入と貯蓄と名声がある人たちができることであって、僕たちみたいな下民には分不相応だと思います」

 淡々と自身が置かれている状況と、実際にその称号を持ち合わせている人たちとの差異を説明した。

 それに同意するようにオークスは首を縦に振っている。エリスはよくわからないのか、呆けている。

「極めつけは、その称号を得るには何らかの大きな功績を残さなければいけないですよね。近年は魔法が発見されてから世界各所で目覚ましい発展を遂げていると話に聞きます。そういった街を大きく変えるほどの発明や実際に街を発展させたと認められた場合に授けられるものだと本で読みました」

 豪邸に住んで召使がいて、毎日違う洋服を着ることができ、満足のいく豪勢な食事をとることができる。そんな生活を夢見ている三人にとって、対照的な存在だ。コネも金もない。

 先生の目指してほしい人物像は無謀と言わざるを得ない。それはロイスとオークス、少年ですらわかりきったことだった。もう一人は、途中から理解するのをやめた。

 先生はその指摘を受けて少し眉を顰めてはいるが、しかし、若くして博識かつ論理的に考えることができる生徒に育ったことに満足そうな表情をしている。

「ロイス、お前は非常に賢い。それだけ多くの知識を持ち、現状を正しく理解している。だが、未来については誰にもわからないことだ」

「どういうことでしょうか?」

「お前たちには、()()扉を開く者(ルトプポルス)になってもらう」

「え……?」

 先生からの思いがけない一言にロイスの思考が一瞬フリーズする。その横で、びくっと肩をはねさせ、わずかに震えているエリス。

「確かに、急激な街の発展、道具類の発展、衣服の発展、農業の発展など様々な分野で今までできなかったことができるようになってきている。しかし、魔法の分野だけはほとんど変化はしていない。魔法の分野だけはお前たちでも可能性はあると俺は思っている」

「で、ですが、先生、魔法分野に足を踏み入れると普通の生活に戻れないと……」

 不安げな顔で手を挙げたのは、小さく震えているエリス。

 彼女の不安を塗りたくった表情を見て――――

「魔法は、使用する人の心意気によって変化するものだよエリス。その点においてエリスは問題ないと思っている。君は面倒見がよくてとてもやさしい。時には厳しくロイスやオークスたちを注意できる素晴らしい心を持っている」

 先生は、コンプレックスとなっている固い表情をできるだけ柔らかな表情に変えて彼女に応えた。

 この部屋にいるほかの二人がこうやって話をしっかりと聞けるのも、エリスが日ごろ注意をしたり叱ったりしている成果だった。それだけ色々言われていても、エリスを嫌うそぶりがない二人の様子から、彼女がどれだけ他人に気を遣えているかの証拠になっている。

「魔法を使えばどんなことでもできると錯覚し、道を踏み外してしまう可能性がある。だが、エリスが魔法を使うのなら、それはきっと他人を助けるためだと俺は確信している。だから、エリスはきっといい魔法使いになるはずだ」

 先生からの返答を聞いたエリスは、いつの間にか治まった震えを忘れて涙を滲ませていた。しかし彼女は決して涙をこぼすことなく、元気よく「ありがとうございます」と言って二カッと笑った。

 そして、彼女の隣に座っていたオークスは、机に顔をつけたまま左手でそっとエリスの頭を撫でた。

 オークスの意外な行動に驚いたエリスは、頬を赤らめながらオークスのこめかみにデコピンをくらわせる。不意なデコピンを受けたオークスは「ぐえっ」と言葉を漏らして後ろにのけぞった。

 二人のほほえましいやり取りに目を向けることなく、一心不乱に考え込んでいるロイス。何について考えこんでいるのかは彼にしかわからない。

 三人それぞれの行動の愛らしさをかみしめながら、一呼吸ついたころ合いで先生は口を開いた。

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