表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
三つの魔法と螺旋の星屑  作者: 長尾 驢
第1章「始まり」
1/74

0話「プロローグ」

「この世界の魔法の進化は遅すぎる!! 一体何世代かければ、一歩前進することができるのだ!!」

 暗がりの中、幾本かのろうそくが灯る円卓。その席を激しく立ち上がり、男は声を張り上げた。

「遅い? それのどこが遅いというんだ?」

 右隣の席に座る、プラチナ色の装飾品を身につけた強面の男が、冷ややかに言い放つ。

「そもそも魔法とは、神から授けられたものであって、我々が勝手に進歩させていい代物ではないだろう?」

 その一言が場の空気をさらに張り詰めさせる。

「半永久的に光り、ほのかに熱を放つ御霊灯(みたまとう)。砂丘地帯での体温上昇を防ぎ、氷山では体温の低下を防ぐ完耐外套(かんたいがいとう)。そして、歩行を補助する滑走靴(ブーツ)。どれも生活の質を大いに向上させたではないか」

「向上?」

 男は眉をひそめた。

「確かに生活の補助においては進歩があるだろう。しかし、新たな技術が生み出されるまでに、あまりにも時間がかかりすぎているのではないか。現に、それらの発明品が世に出たのはわずか数年前のことだ。魔法が『発見』されたのはいつだったか、皆も知っているだろう?」

 円卓を囲む者たちの中で誰もがその事実を思い出した。魔法――約五百年前に「発見」されたと記録に残るその力。その起源も、初めに誰が扱えるようになったのかも、いまだ解明されていない。

「まぁ仮に魔法の進化が遅すぎるとしよう。それで、お前は今後どうしたいんだ?」

 二人の口論に割り込むように、平凡な身なりの男があきれた表情でため息をつきながら問いかけた。

「魔法専門の研究と教育を行う施設を造る」

 その一言が放たれると、円卓の雰囲気が一変する。怒気と嘲笑が渦巻き、場が重苦しさを増していく。

 男はそれらを意にも介さず、話を続けた。

「現在の研究施設では、我々の厳重な管理のもとで情報が外部に漏れないよう進めている。しかし、そこには一つ、決定的に欠けているものがある」

 視線を巡らせ、間を置いて言い放つ。

「柔軟な思考と後継者の育成だ」

 場のざわめきが止む。

「若い世代に魔法の基礎を教え、発展させる環境を与えれば、現状のような一点集中の研究体制から、多方面への発展を促すことができると考えている」

「その柔軟な思考とやらが、制御不能な危険を生み出したらどうする?」

 隣席の男が冷徹な声で質問を重ねる。その問いは場の総意であるかのようだった。

「その危険を防ぐために教育を行うのです。魔法の基礎や成り立ち、そして危険性をしっかりと教えたうえで、自由な研究を進めさせる。そうすれば、新たな視点からの発見が生まれるはずだ」

「――――それが失敗すれば?」

 静けさが訪れる。

「その時は、私の首を差し出します」

 場が凍りつくような刹那の沈黙が訪れた。それは短くも重い、一瞬で全てを飲み込む静寂だった。

「この場でその発言を撤回することはできない。承知の上か?」

 白髪の老人が静かに問いかける。その鋭い眼光は、刃物のように冷たく鋭かった。

「無論です」

 男の瞳は揺るがない。彼の決意は、場にいる誰にも伝わった。しかし、その視線が肯定へと変わることはなかった。

「……三年だ」

 老人がようやく口を開いた。

「我々が信頼する者たちを集め、試してみる。結果次第で総意を取る」

「ありがとうございます。必ずや成果を示します」

 こうして男の提案は保留とされた。だが、それは一歩の前進でもあった。

 彼の隣席の男が、ぼそりと毒づく。

「やれやれ、信者め……」

 ろうそくの炎が揺れ、部屋の陰影を濃くする。その中で、一人また一人と姿を消し、やがて部屋には静寂だけが残った。

これから毎日投稿していこうと思っていますので、どうぞよろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ