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7 最初の夜

 食事を終えたシェイラは、再び自室に戻ってきた。

 大して汗もかいていないのに浴室に案内され、その豪華さに目を見張ると、またエルフェに痛ましげな表情で見つめられてしまう。

 どうもシェイラのラグノリアでの生活は、竜族の人々にとっては酷いものと捉えられているようだ。シェイラ自身はあの生活に不満を覚えたことはないけれど、こうしてエルフェやイーヴに優しくしてもらえるのは嬉しいと思う。


 入浴を終えたシェイラは、さっぱりとした気持ちでソファに座った。ゆっくりと湯に浸かるのは初めてだったけれど、うっかり眠ってしまいそうなほどに心地よかったし、たっぷりの泡で身体を洗ったので、石鹸のいい香りが今も身体を包み込んでいる。

 ラグノリアでも週に一度はシャワーを浴びていたけれど、使える水の量は限られていたし、石鹸もこんなにいい香りではなかった。

 ここでは何をするのも贅沢なものばかりで、嬉しい反面まだ少し落ち着かない。いずれはこの贅沢にも慣れるのだろうか。


 ふうっとため息をつきながらソファに身体を預けたシェイラは、エルフェが淹れてくれた冷たいお茶を飲む。爽やかな香りのお茶は、入浴で少し火照った身体に冷たく沁み渡っていくようだ。

「慣れない環境で、お疲れでしょう。今日は早めにお休みくださいね」

 うしろで髪を梳かしてくれながら、エルフェが微笑みかける。マリエルと同じ長さにするようにと、切ることを許されなかった髪は、腰近くまでの長さがある。傷んで広がるのが密かな悩みだったのに、今日は随分と落ち着いている。身体を洗うものとはまた別の、甘い香りの液体石鹸のおかげだろうか。

 今もエルフェは、何やら髪に香りのよい油を塗り込んでくれている。

 まるでマリエルのような、お姫様のような扱いだなと、少しだけくすぐったい気持ちになった。


 

 促されるままにベッドに入ったシェイラは、灯りを落とした部屋の中でぱちぱちと瞬きを繰り返す。見るもの全てが初めてで、神経が昂っているのか眠気は全然訪れない。

 それに、今日はここに来て初めての夜。形だけとはいえ、シェイラはイーヴの花嫁だ。だから今夜は、初夜なのだ。

「そうよ、今夜は初夜じゃない。のんびりこんなところで一人寝てる場合じゃなかったわ」

 それに気づいたシェイラは、身体を起こした。このまま眠るわけにはいかない。

 マリエルにもらった本で、幾度となく読んだ初夜のシーン。まさかそれが自分にも訪れるとは思わなかったけれど、花嫁としての務めを果たさねばという気持ちがむくむくと湧き起こってくる。

 シェイラは、そっとベッドから降りた。

 エルフェはすでに部屋を出ているらしく、薄暗い中をベッドサイドにあったランプを手にドアを目指す。

 部屋を出る前に、シェイラはふと自分の格好を見下ろした。

 寝衣として着せてもらったのは、淡い緑のロングワンピース。胸元からまっすぐ下に向かって金の糸で刺繍されたデザインが華やかだが、肌の露出は少ない。本で読んだ初夜では、もっと薄い下着を身につけるのが一般的だったみたいだけど、これしかないのだから仕方ない。

 小さくため息をつくと、シェイラはドアを開けた。




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