25 予想外に甘い
何度も何度も、角度を変えて重ねられる唇を受け入れながら、シェイラは思わずイーヴの服を掴んだ。
キスを交わすたびに身体の力がどんどん抜けていく。唇が離れる合間に息継ぎをするけれど、それだけでは足りなくて呼吸が荒くなる。
「ん……っ待っ、イーヴ……、息、苦し……」
「ごめん、つい」
厚い胸板を叩いて訴えると、慌てたようにイーヴが離れていく。呼吸を整えていると、困ったようなため息が降ってきた。
「ずっと我慢してたから、自制が効かなくなりそうだ」
「我慢?」
「隣で気持ちよさそうに眠ってるシェイラに、どれだけ触れたかったことか。毎晩、忍耐力を試されてたよ」
「我慢なんてしなくて良かったのに。私も、ずっとこうしたかったです」
ぎゅっと抱きついて胸元に頬を擦り寄せると、小さく笑ったイーヴが頭を撫でてくれた。そのぬくもりに微笑みつつ、シェイラはイーヴを見上げた。
「あのね、前にイーヴは言ったでしょう。性行為というのは好きな相手とするものだって」
「え? あぁ、そうだな」
「だから、私はイーヴとしたいです。痛いのだって、平気です。こう見えて私、結構丈夫なんですよ」
胸を張ってみせると、苦笑を浮かべたイーヴと目が合う。
「それはまた、おいおいな」
「……だめなの?」
「まずはちゃんと食事をして、睡眠をとれ。昨日から寝てないんだろう」
その言葉に急に眠気を感じて、シェイラは大きな欠伸をした。お腹も空いているけれど、それより先に眠りたい。
「確かにそうですね、万全の態勢で臨まないと。睡眠も食事も大事だって、身に沁みました」
「そこまで気負わなくてもいいけど」
笑いながら、イーヴが横になるようにと促す。頭を撫でてくれた手を、シェイラは離れて行かないように捕まえた。
「眠るまで、そばにいてくれますか?」
「もちろん。どこにも行かないから」
その言葉を示すようにイーヴは指を絡めて手を繋いでくれる。ぬくもりを逃さないようにぎゅうっと握りしめて、シェイラは目を閉じた。一人だとあんなに寂しくて心細くて、凍えてしまうほどに冷たかったのに、イーヴのぬくもりがあるだけで安心できる。
握りしめた手に一度口づけを落として、シェイラはあっという間に眠りに落ちた。
◇
いい匂いが鼻をくすぐって目を覚ますと、まず視界に入ったのはイーヴの姿。手は繋がれたままで、ずっとここにいてくれたのだろうと思うと、胸の奥があたたかくなる。窓の外は暗く、月が見えているのでかなりの時間眠っていたようだ。
「おはよう、シェイラ。よく眠れたか」
「おはようございます。すごくすっきりしました。やっぱりイーヴのぬくもりがないと、眠れない」
「さらりとシェイラはそういう可愛いことを言うから困るな」
困ると言いながらも、イーヴの表情は明るい。繋いだ手に引っ張ってもらって身体を起こすと、テーブルの上には食事の準備が整っていた。いい匂いがしたと思ったのは、これだったようだ。シェイラが好きだと言ったものばかりが並んでいて、きっとアルバンにも心配をかけたのだろうなと申し訳なくなる。
「丸一日何も食べてないだろうからと、アルバンが食べやすいものを用意してくれた」
「美味しそう!」
並べられた料理に目を輝かせるのと同時に、空腹を主張するように胃が大きな音を立てたから、シェイラは真っ赤になってお腹を押さえた。
「食欲が戻ってよかった」
くすくすと笑いながら、イーヴがシェイラを抱き上げるとテーブルへと移動する。そのまま彼は椅子に座ると、膝の上にシェイラを乗せた。
「イーヴ、あの」
「まだ体力が戻り切ってないだろうからな。食べさせてやる」
「で、でも」
これまでとは違う距離感に、シェイラは戸惑いを隠せない。顔はずっと赤くなったままで、恥ずかしくてたまらない。
「シェイラを甘やかしたいんだ。本当はずっと、こうしたかった。だめか?」
「だめじゃないけど……何だか、恥ずかしくて」
「俺は重たい男だと言っただろう。いやというほどシェイラを甘やかしたいし、こうやって色々と世話をしたい。俺なしではいられなくなってほしいとすら思うのに」
イーヴの言葉に、シェイラの身体はどんどん熱くなる。こんなにも態度で気持ちを示してくれる人だったなんてと驚くけれど、シェイラだってそれが嫌なわけではない。
「まだちょっと恥ずかしいけど、頑張って慣れるように……します」
羞恥心を堪えて、食べさせてとねだって口を開ければ、満足そうに笑ったイーヴがスプーンを口に運んでくれた。




