11 少しずつ馴染んでいく
ブクマありがとうございます!
読んでくださる方、いた…!!ってめちゃくちゃ喜んでます。
一緒に出かけて以来、ルベリアは毎日のように顔を出すようになった。イーヴはまた来たのかといつも眉を顰めるものの、シェイラがルベリアと会うのを楽しみにしていることを分かっているからか、黙って受け入れてくれている。
まるでお姫様のようにエルフェに世話をされる贅沢な暮らしにも、いつの間にか慣れてしまった。イーヴたちには、まだまだシェイラは遠慮しすぎなのだと言われるけれど。
イーヴの部屋で眠ったのは最初の晩だけで、それ以降は自分の部屋で眠っている。本当は花嫁たるもの夫と共に眠るべきだと思っているのだけど、一緒の部屋で眠るならイーヴはソファで寝ると宣言されてしまったので、無理は言えない。本当は少しだけ不満なのは、誰にも秘密だ。
それでもルベリアと出かけたり、エルフェやレジスのあとをついて回って屋敷の中を探検したりと、シェイラはこれまでの部屋に篭る生活が嘘のように毎日あちこちを歩き回っている。誰もが笑顔でシェイラを受け入れてくれるのが、嬉しくてくすぐったくてたまらない。
中でも屋敷の調理場は、シェイラのお気に入りの場所になった。
立派な顎髭が目を惹く料理人のアルバンは、七百歳を超えるという竜族としては老年期にさしかかる年でありながら熱量にあふれた男だ。彼はまるで孫のようにシェイラを可愛がってくれて、いつもシェイラが調理場に顔を出すたびに、ちょっとした菓子をくれる。
何種類もの料理を同時進行で一気に作り上げていく様子はいつまででも見ていられるほどで、シェイラはアルバンの仕事を見学しながらお菓子を食べる時間がとても好きだ。
イーヴと同じように、食の細いシェイラを心配した彼が調理方法やメニューを工夫してくれたおかげで、以前よりも格段に食べる量が増えた。とはいえ今もシェイラは毎日のように、イーヴにもっと肉を食えと言われているけれど。
◇
めずらしく起こされるより先に目覚めたシェイラは、ベッドから降りてうんと背伸びをすると窓を開けた。吹き込んできたひんやりとした朝の風が、シェイラの髪を優しく撫でる。太陽はまだ低い位置にあって、空の端にはまだ夜の名残の濃紺が微かに滲んでいる。
風に乗って微かにいい匂いがするのは、アルバンが朝食の支度をしているからだろうか。
シェイラは窓から身を乗り出して、調理場の方へと視線を向けた。
調理場に行って、アルバンの手伝いをするのはどうだろうか。イーヴの朝食をシェイラが準備すれば、なんだかそれはとても花嫁らしいことのような気がする。
思いついた自分の考えに満足して、シェイラはさっそく調理場へ向かうことにした。
時計を見ると、エルフェが朝の支度を手伝いに来てくれる時間にはまだまだありそうだ。いつでも呼んでくれて構わないと言われているけれど、きっとまだ休んでいるであろう彼女を起こすのは申し訳ない。シェイラは自分で簡単に身支度を整えると、エルフェに調理場へ行く旨の手紙を残して部屋を出た。