OPENING DAY② 仙台スパークスVS埼玉フィッシャーズ①
OPENING DAY その2です。
今回も前後半あります
ドルフィンズがマッハトレインズとの試合を開始する同時刻。
埼玉フィッシャーズの本拠地・さいたま森林スタジアムで、仙台スパークス対埼玉フィッシャーズの試合が行われていた。
『さぁ、まもなくプレーボールです! ここで改めてスターティングラインナップを紹介いたしましょう。まずは仙台スパークスから』
スターティングラインナップ
仙台スパークス
1番 レフト 綱井・キハダ・真紅郎
2番 ライト 趙雷招(台湾出身)
3番 ファースト 生不稔
4番 指名打者 ジェイコブ・アーノルド
5番 セカンド 猪頭波嵐
6番 サード 石井京介
7番 センター 柊圭
8番 キャッチャー 阿古屋慧珠
9番 ショート 花房咲
先発投手 椎名河積
『開幕投手は予告通り椎名選手ですね。3回目という数字は今年の開幕投手の中では最多の回数です。そして次に打線。これについて解説の高島さん、どう思われますか?』
『以前と比べてもかなりオーダーの見栄えが良くなりましたね。去年のタイトルホルダーが3人、メジャーを経験した事のある外国人助っ人が2人、プラチナグローブ賞が1人。その他にも優れた選手がスタメンに名を連ねていますね。俊足巧打のドラフト1位の柊選手や、昨季の盗塁阻止率で断トツの数字を記録した阿古屋選手。個性的なメンツが揃っているので、対戦する側としてはかなり怖い打線になってきたと思いますよ』
『ありがとうございます。では次に、ホームチームの埼玉フィッシャーズのスターティングラインナップを確認していきます』
スターティングラインナップ
埼玉フィッシャーズ
1番 ライト 浜町千尋
2番 センター レナード・グレース
3番 指名打者 ルイス・ギルメット
4番 サード 金師有世
5番 ファースト 眞栄田天空
6番 セカンド 梶木岳
7番 キャッチャー 西村累
8番 レフト 武田竜平
9番 ショート 丹生千里
先発投手 ピーター・バーンズ
『こちらの開幕投手は新外国人投手のバーンズ選手です。しかし高島さん。フィッシャーズの打線もスパークスに負けず劣らずの破壊力ですね』
『そうですね。オープン戦でも勝ちを重ねていましたし、打線の威力でいえば去年から劣るどころかパワーアップしていますね。不安と言えば、内野はともかく外野守備の負担がグレース選手に偏ってしまうところでしょうか。浜町選手も武田選手も肩は良いですし、守備に関しても下手というほどではないんですけど、まだ判断力であったり、若さが目立つ部分があるので。このオーダーを続けていくのであれば、センターがどれくらい頑張れるかにかかっていると思いますよ』
『開幕投手を任されたバーンズ投手についてはどう思われますか?』
『左の投手であそこまで制球よく投げ抜けるピッチャーというのは中々いないですし、妥当だと思いますよ。フィッシャーズは絶対的なエースが今のところいないので、競争させながらといったところだったんでしょうけど。練習やオープン戦の結果を見て決めた形でしょう。実際、開幕投手を公言するのはフィッシャーズが最も遅かったですから』
『ありがとうございます。さぁ、いよいよプレイボールです!』
アウェーの地で、スパークスの選手たちは円陣を組んでいた。
その中心に立っていたのはリードオフマン・綱井だ。
「みなさん、緊張とかしてないですよね! 開幕戦なんて一年に一度! こんなのもう、楽しむ以外の選択肢なんてないですよねぇ! ここ勝って、幸先の良いスタートを切りましょう! さぁ、行くぞォ!!」
おう!! という全員の返事の元、円陣は解散する。
綱井は気合を入れるそぶりを見せながら、右のバッターボックスへと歩いていく。
自分の体が正常通り動くか確認のため、その場でぴょんぴょんと跳ねてから打席の中に入った。
審判の力強い声で試合開始が宣言される。
バーンズが投球動作へと入る前に、綱井はバットをゆらゆらと上下左右に揺らした。
昨シーズンの経験を通して、プロとして活躍していくためには足だけでは生き残れないという事が強く分かった。
そのため、打撃の確実性を上げるために取り入れたのがこの動きだ。
どれだけ盗塁や走塁が上手くできたとしても、出塁できなければ活きる事はない。
だからまず、出塁する能力を増やそうというのはいたって自然な考えだ。
バーンズが上半身を軽く引いてボールを投じた。
右打者の胸元からストライクゾーンへわずかに変化するボールは、球審によりストライクがコールされる。
この投手が好投手と呼ばれる所以はこういうボールがあるからだ。
日本にやってくる外国人投手としては珍しい、緻密なコントロールと手元で微妙に変化するボールが持ち味のピッチャーだ。
しかもリリースも球種ごとに癖が無いと来たから、余計打者としてはやりづらい。
際どいコースのボールを投げつつ、2ボール2ストライクまでカウントは整う。
投げる側も打つ側も、ここが狙い目だろう。
バットの持ち方は変えない。
『さぁバーンズが向き直って……投げました!』
また微妙に変化する球かよ……ッ!
明らかにクリーンヒットではないその打球は叩きつけるようなバウンドで一塁方向へと飛ぶ。
脇目も振らず綱井は一塁方向へと駆ける。
『これは打ち取りましたバーンズ! 一塁の眞栄田が取って……これは競走になりそうだ!』
悔しい、けどアウトを宣告されるまでは終わりじゃない。
だからこそ俺は今駆けている!
距離は投手の方が有利。されど。
―――その距離のアドバンテージなんて、速さでひっくり返してやる。
『さぁ眞栄田がトスする! 後はバーンズと綱井の競走だ! どうだ! ……セーフだぁ! 綱井、今シーズン初めての安打は足でもぎ取りました!』
『いやぁ、完全に打撃では打たされた形でしたけどねぇ。これをセーフにされるのは綱井の怖さでしょう』
セーフである事を確認した綱井はバッティンググローブを咥え、走塁用の物と入れ替える。
さぁ、俺にとってはここからが花道だ。
『フィッシャーズとしては嫌なランナーを嫌な形で出してしまいました。ここは盗塁も警戒しながらの守備になりますね』
『警戒するのは勿論そうなんですけど、次の打者も打者ですからね。走者を警戒しすぎて打者に対しておろそかにならないように気を付けなければいけません』
感触を確かめるようにスパイクで軽く土を蹴り、綱井はじりじりとリードを広げていく。
スタートはいつでも切っていい、というサインだ。
次の打者の趙は昨年までばりばりにプレーしていた生粋の元メジャーリーガーだ。
しかしプライド的にも許容範囲なのか、打席中の盗塁に関しては寛容どころかむしろドンドンやってくれと言われた。
初球、いきなり走る……という《《ふり》》だけで様子を見る。
案の定バッテリーは警戒してかボールを打者の手の届かない位置に投げた。
張りつめた空気を肌で感じながら、綱井はぺろりと舌を出す。
盗塁のコツは、ギリギリまで動きを《《悟らせない》》事。
ふーっと息を吐き、呼吸のリズムを投手のバーンズと合わせていく。
……。
…………。
Go!
『さぁ綱井選手がスタートを切った!』
ほぼ完璧なスタート!
盗った!
そう思った綱井の耳に打球音が響く。
打球は盗塁阻止のために動いたセカンドを嘲笑うかのうように一二塁間を抜ける。
しっかりとバウンドしたことを確認した綱井は二塁に到達した勢いそのままにベースを蹴って三塁まで陥れた。
『抜けたぁー! 趙、来日初安打はライト方向へ鋭く抜けるヒット! スパークスが初回から引っ掻き回します!』
(なるほど、そういう事ね)
さすが、元メジャーリーガーは伊達ではないって事か。
これは出塁さえ出来れば単独で盗塁する場面も減りそうだ。
その後、生不は注文通りのセカンドゴロでダブルプレーとなるも、綱井はその隙に生還。
初回からスパークスが1点を奪った。
◇
スパークスの初回の攻撃を1点で終え、今度はフィッシャーズの攻撃にうつる。
スパークスの先発・椎名は1番2番を遅いボールを駆使しながら凡打に仕留める順調なスタートを切る。
しかし3番のギルメットには遅い球を逆に引きつけて打ち返され、一塁線を破ってツーベースヒットに。
ランナーを得点圏に抱えたところでフィッシャーズの4番・金師に打席が回る。
気怠ささえ感じさせるようなゆったりとした歩み方、のんびりと体を伸ばしてバットを構えるのは金師の通常運転だ。
この一連の動きだけでも投手に畏怖を覚えさせるのは打者としての凄みゆえだろう。
そんな金師だが、レフトを守る綱井から見ても去年と比べて大きく異なる事がある。
バットの長さだ。
今までのバットもそこそこ重かったとは聞くが、長さに関しては通常の域を出ない程度の物だった。
それが現在では規定の長さギリギリのものへと変えている。
ある程度遠目で見ても持ち主が分かるレベルのバットだ。
守る側としては同点にされるのを避けたいが、生憎ウチは「当たって砕けろ」の精神が強いチームだ。
守備位置はそのまま、持てる力を駆使して抑えに行く姿勢だ。
初球、椎名はカーブを選択。
最速でも100km/hに到達した事の無い、『カセキカーブ』と呼ばれる独特のスローカーブだ。
これで打ち取られたバッターも多い。
『いきなりカーブで来た! しかし金師、冷静でした! ここは見逃します』
『いい判断だと思いますよ。しかしいきなりカーブを選択するバッテリーもすごい度胸ですよ』
『さぁ二球目、今度は何を選択するか! ……投げました!』
球速からしてカーブではないが、変化球であろうという事は何となく分かった。
椎名の事を考えるに、打者の手前で大きく沈むスクリューボールを選択したのだろう。
体勢を崩して凡打を狙うボール。
しかしそれでも、昨季の本塁打王はぶれなかった。
強靭な下半身と長いバットで捉えた打球は強い回転をかけながらレフト方向へと飛んでくる。
ライナー性の、ちょうど判断に困る打球が守備位置の横くらいに落ちようとしている。
打球に対して真っ直ぐ、最短距離で追いに行って取れるかどうか。
俺のスピードなら届く! 多分!
……いやこれ、普通に無―――。
快足を飛ばして懸命にグラブを伸ばすが、あとグラブ一個分届かなかったボールはフェンスにぶつかって転がる。
だ―――!! ちくしょうこんにゃろーめ!!
『レフトの横を破ったぁ―――!! さぁ綱井がボールを追う間に悠々とランナーは生還! 金師は……2塁でストップ!! さぁ今年もやられたらやり返します、フィッシャーズ打線!』
『いやぁ、ははは。相変わらずフィッシャーズの試合は見ていて飽きないですね』




