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粉雪




 諦めようか。

 傾いていた気持ちはけれど、諦めないに勢いよく動いた。

 雪女も、赤鬼も。

 諦めない、諦めたくない。

 鬼を氷漬けにして栄養をたらふく奪い取るんだ。

 豆をたらふく当ててもらって福神に変化するのだ。

 そのために。

 あの赤鬼が必要だ。

 あの豆を集中的に当ててくれた子が必要だ。


 巫女は走り出した雪女へと、豆がたらふく入った袋を投げた。

 諦めればいいのにばかね。

 笑顔で受け取った雪女を、軽く手を振って見送った。

 赤鬼もまた、桜に言ってくると言い置いて、走り出した。

 そうして、お互いに求める心が奇跡を起こした。


「赤鬼!!!」


 狐でも狸でもない。

 雪女は妖怪としての力を信じた。

 疑わない。

 この赤鬼は、鬼だ。


「豆を当ててくれたやさしい子!!!」


 豆を集中的に当ててくれた子だ。

 顔も姿かたちもほとんど覚えていないけど、絶対にこの子だ。

 赤鬼は己の直感を信じた。

 この子は、己を福神へと導いてくれる子だ。


「赤鬼!!!」

「豆を当ててくれたやさしい子!!!」


 雪女は立ち止まって、巫女からもらった袋に手を突っ込んで豆をがっつり掴んだ。

 赤鬼は立ち止まって、両腕を大きく広げた。


「鬼は~~~」

「よっしゃ」

「そとおおお!!!」

「ばっちこーーーい!!!!」


 雪女は投げた。豆を投げて投げて投げまくった。

 赤鬼は受け止めた。豆を受け止めて受け止めて受け止めまくった。

 結果。


「「うえ~~~~~ん!!!」」


 雪女も赤鬼も声を上げて大泣きした。

 雪女は悲しくて。

 赤鬼は嬉しくて。

 泣いて泣いて泣きまくっていた。


 雪女は妖力を籠めて豆を投げ続けた結果、妖力が空っぽに近い状態になってしまったのだ。つまり、氷漬けができる妖力は残っていなかったのだ。

 しかも。


「うえ~~~ん!!!」


 赤鬼は雪女の妖力が籠められた豆を受け止め続けた結果、見事、赤鬼から変化したのだ。

 福神。

 ではなく。

 福良雀に。


「鬼を氷漬けにして栄養をたらふく奪い取りたかったのに!!!」

「え?え?あ。ごめんな!あの。わし。鬼ではなくなったけど。福良雀でも栄養あると思うから。どうぞ。な」


 福良雀へと変化した赤鬼は、ちゅんちゅん雪女の周りを飛び跳ねてのち、雪女の視線の先で立ち止まった。雪女は恨めし気な目線を送った。


「妖力ないからできないし、小さい動植物からは栄養は奪い取らないようにしているからもうあなたを氷漬けにはできない」

「あ。あの。ごめんな」

「………いいわ。やっぱり、鬼は諦めろって事なのかも」


 涙はもう流していないが、雪女の充血した目を見た赤鬼は胸を痛めた。

 雪女のおかげで、福良雀へと変化できたのだ、恩返しがしたい。

 幸い、まだ赤鬼としての妖力は残っている。

 明日、明後日までならまだ、赤鬼に戻れそうだ。

 それまでに雪女の妖力が戻れば、お互いに願いが成就できるってわけだ。

 よし。

 赤鬼は福良雀から赤鬼へと戻ると、明後日までなら赤鬼でいられると言った。

 それまでに妖力が戻れば、己を氷漬けにしていいとも。


「ほ。本当!?」

「ああ」

「わ。私。早く妖力を戻すために、雪山に行ってくる。ここで待っていて!すぐに戻ってくるから!」

「ああ。気をつけてなー」


 赤鬼は大きく手を振って、飛翔する雪女を見送ったのであった。


 一日後。

 完全復活した雪女は赤鬼の氷漬けに成功。

 栄養をたらふく奪ってのち、氷漬けを解いた。

 赤鬼は福良雀へと変化した。

 このまま福良雀へと変化したままでいれば、本当の福良雀へとなれる。ような気がする。

 そして、どうにかこうにかして、福神になれそうな、気もする。

 期待に胸を、いや、羽毛を膨らませた赤鬼は喜色満面の笑みで雪女を見上げた。


「どうだ?満足したか?」

「う~ん~。身体は栄養をたらふく取り入れられて満足しているけど。味が、あんまり私の好みじゃなかったから。鬼はもういいかな。でもありがとう。願いが成就できてとっても嬉しい」

「わしこそ。篤く礼を申し上げる。おまえのおかげで福良雀になる事ができた。このあとも頑張って、福神になる」

「じゃあ、来年は福神のあなたに会えるのね。楽しみにしているわ。もしよかったらまた氷漬けにして栄養をたらふく奪い取らせてね。福神はどんな感じなのか気になるし」

「ああ。じゃあ。また」

「ええ。来年」


 雪女は福良雀へと変化した赤鬼の嘴にちょこんと触れて、空へと浮いた。

 福良雀へと変化していた赤鬼もまた、両翼を羽ばたかせて空へと浮いた。




「「ありがとう」」




 雪女と赤鬼を祝福するように、粉雪が静かに降って来たのであった。











(2024.2.2)




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