変化
(おかしいわ)
雪女は困惑していた。
よもや目に見えぬ結界でも張っているのだろうか。
豆をこれでもかと当てているのに、弱っている様子がまるで見受けられないのだ。
むしろ、どんどん元気になっているような気がする。
身体を色為す赤がますます濃く、ますます艶やかになっているような気がする。
さわやかな笑みがどんどんどんどんさわやかになっているような気がするのだ。
おかしい、おかしすぎる。
もしや、鬼ではないのではないだろうか。
変化の術を使う、狐か狸の類ではないだろうか。
もしくは。ここの神官の力がよほど弱い。とか。
(いいえ。それはないわ。強い。はず。あの巫女が務めている神社だもの。しかも。節分と名の付く神社だもの。神官の力が弱いはずがないわ。だったら。考えられるのはやっぱり。狐か狸)
雪女は落胆した。
もしかしたら、いいや確実に、あの赤鬼は、あの時氷漬けした赤鬼ではなく、贋者の赤鬼。
狐か狸か。
栄養はあるだろうけど、求めている栄養はない、狐か狸。
恐らくは、豆と餅とピーナッツ目当てで鬼に化けているのだろう。
神官は姿を消している鬼も、人間に化けている鬼も見分けられるのだ。
神官は豆をまきながら、鬼に豆を当てるものなのだ。
(っは。そういえば!あの赤鬼に誰も豆を当てていないわ!)
雪女は衝撃を受けた。
そうだそうだ、巫女も神主も誰もあの赤鬼に豆を当てていない。
つまり、あの赤鬼が鬼ではなく、変化した贋者だと気づいていたのだ。
(2024.2.1)