夏祭り、それは君と過ごした唯一の時間
「また会えたね」
「全く、このやり取り何度目よ」
今日は年に一度の夏祭り。
境内には沢山の屋台が並び、綿菓子や金魚片手に多くの人が行き交っている。
「軽く十は超えてるね」
「ハァ。いい加減あなたの隣も飽きちゃったわ」
三段組のディスプレイの一番下、その右端が僕らの定位置だ。
ぼやく彼女を宥めていると、真ん中にいた黄色い電気ねずみが貰われていく。
受け取った男の子の嬉しそうな笑顔。君と一緒に見るこの景色が僕は大好きだった。
「今年も大人気ね」
「あれはもう鉄板だからね」
真ん中の段は人気のキャラクターが並ぶ。
先ほど貰われていったシリーズを始め、正義の味方などを中心としたエリアだ。
僕らの真上にも今年話題になった魔法少女が並んでいる。おや、ピンクの髪の子は少し不安そうだね。初めてで緊張しているのかな。
「何色目使ってるのよ」
「誤解だよ! ちょっとアドバイスしただけだって」
全く心外だな。僕には君しかいないのに。
*
ここはお面を売る屋台だ。
僕は犬で彼女は猫のお面。なんのキャラクターでもない普通の僕らは、毎年売れることなく右下のエリアを温め続けている。
「お面の顔に不安も何もないじゃない」
「長年やってると僕には分かるんだよ」
「何よそれ」
今日が終われば別々のダンボールに入れられ、次に会えるのは一年後。こんな会話も久々で、時間が瞬く間に過ぎていく。
「よっお二人さん、今年もお似合いだねぇ」
「ちょっ、何言ってるのよ!」
一番上のひょっとこが囃し立てる。
毎度真っ赤になる君が可愛くて堪らない。
「この猫さんください!」
おずおずと、けれどはっきりした声が聞こえたのはその時だった。
小さな女の子が目を輝かせ僕の隣を指差している。
ひょっとこが息を呑む声が聞こえた。ディスプレイから君が外される。嘘だろ。そんな。
「待って!」
思わず声を上げると、君は振り向いて静かに笑った。
「そんな悲しい顔しないで」
「……お面に悲しいも何もないだろう」
「あら、長年やってたら分かるんでしょう?」
分かるもんか。お別れが来るなんて思ってもみなかった。こんな終わり方ちっとも望んでいない!
「できればコイツも貰ってくれませんか?」
悔しくて悲しくて震えていると、店の親父さんの声がした。
驚く僕をよそに優しい手つきで女の子に渡される。
目の前には真っ赤になって泣きじゃくる君。
年に一度じゃなく、ずっと一緒に。
「これからもよろしく!」
僕はありったけの思いを込めて、君に口付けた。