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アンリミテッドアイズ  作者: リンクん
第1章 リベンジオブパスト
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第2話「一緒に行こうぜ芥!」

この小説を読むときは、部屋を明るくして、画面から離れてね!

緑先輩とのお約束だぞ★

 黒いトートバックに、スーツや小道具を隙間のないように入れていく。最後のマスクを入れ終わった後、頬にひんやりとした冷たいものが当たる。


「今日はお疲れ、手伝ってくれてありがとう!」


 アンリミテッドアイをやっていた愛理であった。彼女はスーツを脱いだため、黒い袖なし一枚と半ズボンと言う肌の露出が多い格好になっている。しかもその格好で、俺の隣に座りこんできた。彼女を見ているだけでも頭の中が忙しいのに、たくましい健康的な腕が俺の肩に当たってくる。このままだと理性が無くなりそうなので、要件を言ってしまおうと考えていると、唐突に彼女は俺の手を掴んでこう言った。


「そんなことよりも芥、アンリミ研究サークルに入ってみないか?」


 突然の申し出に一瞬戸惑ったが、同時に胸の高鳴りを感じ、勢いよく俺にこういわせた。


「なっていいのか? そっちの仲間に」


 その俺からの問いに彼女はこくりと頷き、こう答えた。


「アドリブ上手だったからさ」


 なんだか自分の演技力をほめられているようで、むず痒いような嬉しいようなそんな気持ちになる。そうして俺が何も言えず、彼女から顔をそらすと、今度はその視線の先に、緑色のスーツをつけた背丈の低い女性が、しゃがんでこちらをじっと見ていた。


「ふふふ、新たな風の予感ね」


 不敵な笑みを浮かべているその人に対し、俺の背後から愛理が彼女に報告をする。


「小道具の収納終わりました。次は何をしたらいいでしょうか」

「もう大丈夫かな、みんなが手伝ってくれたおかげでね」


 彼女の手の指す方向を見ると、先ほどまであった垂れ幕や舞台の装飾物が無くなっていた。誇らしげにしている何人かが代わりにいた。


「またなんかあったら呼んでくれよ緑」

「僕たち駆けつけるから」

「ダーリンさすが、私もついていく」


 よく見たら、朝に見かけたカップルが混じってる。はぜろ、マジで。だが冷静に考えておよそ7から8人はいるこの集団は、全員が緑先輩経由で集まったのだろうか。だとしたら彼女、相当のコミュ力をお持ちのようだ。


「いつもありがとう。良かったらこれみんなで食べて」


 彼彼女らに、クーラーボックスから取り出したアイスを出してみんなに配った。物で釣っているとも取れるけど、たかがアイス1本のためにやってくれはしないだろう。やはり彼女の普段の行いによるものと思われる。彼女はその後、解散命令でもしたのか、ちりぢりにばらけ、その人たちだけどこかへ行った。

その後、残った俺たちのところへ緑先輩が向かってくる。


「君たちもどうぞ」


 アイスの箱の開いた部分をこちらに向け、俺はソーダ味を、愛理はいちご味を選んだ。そしてあとからやってきた金髪の女性がレモン味を取り、俺とは反対側の愛理の真横に座った。彼女は身を傾けて、俺の顔を見ながら言った。


「愛理から話は聞いてたわ。優一君だっけ、あなたの振舞、エンタメ性にあふれていてとても素敵だったわ」


 雰囲気的にツンデレキャラかと俺はまたしても顔をそらしてしまう。


「私は喜納優一(きなゆういち)。ゆうさんって呼んでくれると嬉しいわ。よろしくね明君」


 俺はその手を握ろうとするが、間に愛理がいてまた体を密着させそうなので、半回転してあきさんの隣に来たのち、再度握手をしていった。


「改めて、遅咲芥です。よろしくお願いします」


 その握手に、緑先輩が加わってこう言った。


「私は仲間緑(なかまみどり)、4年生でこのサークルの部長。仲間に入れてね!」


 その後、なぜか愛理も手を俺たちに合わせた。そして緑先輩が高らかにこう宣言する。


「アンリミテッドアイが好きな私たちの名は!?」


 愛理はノリよく、あきさんは顔を赤くして顔を背けながら、手を重ね合わせる。俺もあわててそこへ手を重ねると、掛け声が上がった。


「「「アンリミ研究サークル!」」」


 彼女は「さて」と言い、歩きだす。


「私たちの部室、案内するね」


 俺は彼女たちについていく。歩けば歩くほど、この学校の立ち寄らない教室とかが見れる。音楽室に科学研究室、美術室にパソコン室、そして冷たい風が教室から漏れ出てくる。

そういった特殊な教室の集合地帯を過ぎ、階段を上がって2階、3階と階段を使って上る。


「うええ、エレベーター使おうよお」


 と俺は言ったが、みんな「足腰が鍛えられる」とか、言ってたので観念して一段ずつ地道に駆け上がる。四階まで上がってすぐの教室で立ち止まり、鍵を取り出した。息が切れ、心臓が押しつぶされそうになる。


「芥君が大変だ、クーラーをつけよう」


 鍵を回し、ドアノブを押して中へと入る。ピッという機械音が聞こえ、緑先輩が手招きをする。


「さあさあ、お立合いお立合い。ここがかの有名なサークル、アンリミ研究サークルの巣窟なり~」


 中へ入ると、そこには目を見張る、様々なグッズがおかれていた。原作のアメコミのイラストポスターに、京都のお土産とコラボした絶版のお菓子のパッケージ、そしてなんかの付録についていたアンリミのクラフトフィギュア。しまいにはアンリミの等身大フィギュアも置いてある。


「うおおお、生まれてよかったあ!」


 興奮しすぎて、語尾が変になってしまった。辺りの超合金でできた武器に、コミカルテイストのタイツみたいなスーツも、きちんとハンガーにかけて添えてある。


「触ってもいいっすか!?」


 俺のテンションの変わりように目を見開き、ものすごい勢いでみんなうなづいた。俺はあちらこちらのフィギュアを触って感触に浸り、嗅いでソフビ特有の映画館みたいなフレーバーを楽しむ。そして、そのソフビを二対取って、戦わせてみる。


「やりたい放題なとこ悪いけど、傷つけたら許さないからね」


 ゆうさんの低い声で、圧を感じた俺は人形を置いた。すると、愛理がソフビを取って俺に言った。


「我はドロドイド、泥の肉体を生成し、使役する怪人だあ」

「くそ、本体が泥だから打撃が効かねえ」


 反射的に反応し、気が付けばいい年こいてソフビで俺は、今度は愛理と人形劇を始めていた。やがて、緑先輩も1体怪人の人形を持ってきて、この世界へとやってきた。


「先輩も混ぜてえ」


 そうか、これはそういう部活。


「人形遊びを通して、部員との親睦を深めていくっていう趣旨のサークルか!」

「んなわけないでしょ!」


 平べったい物で頭をたたかれ、緑先輩と愛理も同様に食らう。多分全員、この世界に帰ってきた。


「遊ぶ前にまず、活動の説明をしてください、緑先輩と愛理!」

「「はい、すいません」」


 一緒になってあそんでた俺が言うのもだけど、大丈夫か? このサークル。そう思っていると、愛理が話を始めた。


「オホン、簡潔に言うとボランティア活動だな。ヒーロー自体が見返りのないそれだからね。例えば子どもたちにああいったショーを見せたりするとかかな」


 それを聞き、楽しそうだと思って入った企業が実は自分の肌に合わず、ブラック企業だったというような気分になった。


「実は、面白い機能がこのサークルにはあるんだ」


 愛理は胸ポケットから赤色のバッチを2つ出し、裏にある小さなボタンを俺に見せた。


「このバッチの名前は、アンリミ・シグナル! このボタンを押した人の場所が、スマホのマップに表示されるハイテク機能なのだ! これを困っている人が押せば、アンリミテッドアイのマークがマップに表示されるから、いつでもどこでも即座に駆け付けられるぞ! 1つあげる」

「ありがとう。でも、普通に電話してもらった方がいいのでは……」


 受け取りながら俺がそういうと、俺以外の3人がため息をつき、それぞれねちねちと言い始めた。


「かの有名なアメコミダークヒーローを知らないのかしら」


 俺は即座に謝って許しを乞う。


「わ、分かったよ。俺が悪かったよ」


 そんな感じでいると、突如、愛理のズボンのポケットから、ゆうさんの胸ポケットから、緑先輩の短パンから、独特のアラームが流れてきた。


『問題発見、問題発見、至急現場へ出動せよ。依頼者、学長!』


 愛理が目を輝かせ、すぐさま隅っこのスーツ着用室と書いてあるところに入った。その行為について、緑先輩が説明を行う。


「こんな風に、助けを求められたら応えるってのがメインの活動よ」


 なるほど、まさにアンリミテッドアイの探査能力を元にした、画期的なボランティアサークルだ。


「おそらく校門の清掃ね! みんな、広場に集合よ」


 なんともまあ、急な話であり、まさか奉仕活動も含めてサークル活動とは思わなかった。

でも今日は、彼女らと親睦を深められるチャンス。なぜならみんなで同じことをすると、そのチームの中が深まると、教科書に書かれてあった(気がする)からだ。


「さあ、アンリミ研究サークル出動だ!」


 ジャージに着替えて出発する。校庭に囲まれた非常に広い緑色の芝生空間へ、息を切らしながらなんとかたどり着く。すぐさま彼女が手に持っていた箒を俺に渡して言った。


「芥君は箒で正門の下を履いてね。ちなみに頑張ったら、とってもいいことがあるよ!」


 それが何かは分からないが、俺はその先のいいことのために頑張ることにした。正門まで行き、落ちているごみや葉っぱを履き、愛理が持っている塵取りに入れる。そうして集めたごみを、ゆうさんが開いているごみ袋へと入れていく。


「あの、このアンリミ・シグナル、困った人がいたらいついかなる時もなるんですか?」


 俺が気になって、正門の表札を磨いている緑先輩に聞くと、彼女はこう答えた。


「さすがに毎日ではないよ。土日休みの完全週休2日だよ。時間帯も午後三時から午後六時までだし。まあその間は、いつシグナルが鳴るかわからないけど」

 

 それを聞いてため息をついた俺の足を、ゆうさんが踏んで脅しをかけてくる。


「すいません頑張ります」


 ああ、学科だけでなく、入るサークルも俺は間違えてしまったのかも。


「そういえば愛理、明日行くところのチケットは取れているの?」


 緑先輩がふと、愛理に話を振った。彼女はなり切っているため、スーツを着るのみならず、アンリミテッドアイの口調で、「ばっちりだ、緑君」とグットサインを送る。そしてゆうさんが「明日が楽しみね」と返した。

 言われたところの掃除を終え、学長からはご褒美として図書カードを貰った。しかしまあ、やり終わって思い返せば、何とも言えぬ充実感が俺を満たしていた。と油断をしていたら、今度は愛理がこんなことを言い始めた。


「さてと、同じ姿勢で作業してたから体が変な感じだ。調子を整えるために筋トレがしたいぜ!」


 ただでさえつかれているのに。誰も賛同するなと切に願うも、ゆうさんの返事で希望が無くなった。


「大賛成、みんなで体を動かしましょう!」


 そういうわけで、今度はトレーニングルームへと足を運ぶ。愛理が片手で四十キロのダンベルを上げ下げしながら、講義終了後の疲れた俺に言ってきた。にしても、愛理の引き締まった体格と、正面に張った乳が強調される黒インナーのせいで、彼女がダンベルを上げ下げするたびにそっちに目が行く。俺は近くのベンチに乗っかって腹筋を始めたが、五回が限界。ちなみにゆうさんと緑先輩は一緒にジョギングをしていた。


 筋トレの後、汗をかいたみんながそれぞれ自販機にコインを入れ、飲み物を買う。愛理はプロテイン、ゆうさんは水、緑先輩はクリームソーダという炭酸飲料を買おうとして、アキさんが先に水が出てくるボタンを押した。愛理がそれを見て苦笑しながら言う。ベンチに横たわり、その空間を遠くから見つめている自分に、ふと既視感を感じた。それは、またしてもあの頃の記憶。だんだんと、楽しかった場所が遠のいていくような。


「明?」


 愛理と緑先輩の間に割って入った。そして、精いっぱいの一言をしぼりだした。


「俺も仲間に入れてくれ」


 とたんに、胸でつっかえていたものが流され、砕け散り、霧散した。他の2人もこちらを見ていた。やがて、今度は霧散したそれが汗に変わり、俺の首筋から流れ出て、そこの熱はついに顔にまで伝導した。冷静に今言ったことを頭で反芻してみれば、まるで砂場遊びを一緒にしたいと懇願する子どものよう。自分で自分が嫌になる。それを聞いた3人は顔を合わせ、それぞれに思い思いの、統一しない表情を浮かべた。


「ば、馬鹿にしているのか!」


 愛理は首を横に振り、鞄から一枚の紙きれを差し出した。それによって、憂鬱な気分はすべて吹っ飛んでしまった。


「これ、アンリミテッドアイ展覧会のチケットだ!」


 発売前から予約殺到で、しかも抽選で当選した人しか買わせてすらもらえないっていう貴重な奴である。それを俺に渡したってことは、俺にくれるってことなのか。でも、そんな当選確率の低いチケットを貰うわけには……


「それを君に、サプライズプレゼントをしたくてさ」


 思考は一時止まり、3人の方に向き直ると、財布や懐から同じチケットを出した。彼女は相も変わらない笑顔を浮かべて言う。


「一緒に行こうぜ、芥」


 清掃の時間に話していた明日のこと。それはこのチケットのことだった。ということは、彼女たちは決して俺を省きものにしてなんてなかったということか。俺は全身全霊でお辞儀をし、大声ではっきりと伝えた。


「ありがとうございます!」


 仲間外れにされなくて安心した。入ったばかりの俺のことをいろいろと考えてくれていた。彼女たちはこんな俺を、アンリミテッドアイズとして受け入れてくれた。だから俺は、自分の心の閉ざした扉を、たった今開くことにした。


「緑先輩、ゆうさん、愛理、」


 決めた。俺はこのサークルで変わる。アンリミ研究サークルで変わるのだ。だから心を込めて、その気持ちをみんなに伝えよう。


「俺は今を持って、アンリミ研究サークルに入ります! よろしくお願いします!」


 鏡に、窓から差し込む光が反射する。それは俺の体を突き抜け、奥の方まで伸び、俺たち四人の影を映していた。それがいつかかけがえのない思い出になるのだろうなと言う、実体のない、しかしなおも眩しい期待が目線の先にはあった。

                続 


この作品に出てくる「アンリミテッドアイ」はフィクションです。作中でもフィクションです。

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