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アンリミテッドアイズ  作者: リンクん
第1章 リベンジオブパスト
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第10話「俺たちはアンリミテッドアイズ」

全開のあらすじ

遅咲明は愛理とともに、アンリミシグナルを送った天子のもとに駆け付けるのだが!?

「ココが8階だから、この階段の先が屋上だ」


 野外の非常階段を使って、俺たちはそこへと向かう。


「私はしばらく食べてなくて、久しぶりにお菓子食べたらこのありさまだ。壁を伝いながら歩くのがやっとだ。一緒に行くと言った後で申し訳ないけど、手遅れになる前に先に行っててくれ」


 愛理がそういい、俺は頷いて階段を上る。辛い時、俺が良く逃げていた場所の一つ。それがまさか、今こうして、緊迫したシチュエーションを作る要因になるとは。


「天子、どこにいる!?」


 ドーム状に盛り上がったガラスの天井を囲うようにして、足の踏み場が形成されている。とはいえ、運動場の六レーンくらいの幅はあり、歩くのに困ったことはない。問題なのは、屋上にフェンスがついていないこと。見晴らしは良くなるが、危険でもある。


「シグナルの表示は、この裏」


 そこまで行き、ついにおれは彼を見つけた。しかし彼は、茶色い錆びたデザインの剣と、虫がまとわりつくようなスーツを着ていた。ダマスカスに乗っ取られた衣装だ。だがそれを男性の肉体で来ているものだから、原作を見ていた俺からすれば違和感がぬぐえないが。


「ふふ、待っていたぞ。アンリミテッドアイ」


 座っていたそいつは立ち上がり、剣をこちらに向けて言う。


「俺様はダマスカス、人の心を洗脳する悪い怪人だ」


 俺はその行動に、何の意図があってのものなのか問いかけた。


「待てよ、何する気だ」


 その剣を俺に振りかざしてきた。間一髪でよけると、ガラスドームに当たり、ひびが入る。この力の入れよう、本気で俺を殺しにかかっている。


「お、落ち着けよ天子。なり切りすぎだろ!」


 すばやい身のこなしで次々と斬撃が飛んでくる。間一髪でそれらをよけながら、俺は天子に向かって叫び続けた。


「ご、ごめんな。高校生の時のこと!」


 返事はかえって来ず、不意打ち気味に男の弱点をけられて膝を付く。俺はそこを抑えながら目の前に立つ彼を見上げる。


「なあ、なんか答えてくれよ! どうして何も言わないんだ」

 

 彼は剣を振り上げ、おろそうとする。しかし、今度は開いているほうの拳で俺のヘルメットを殴る。ひじをついて後ろに倒れ、逃げられないよう上に乗っかられる。


「頭に振動が。話も通じないし一体どうすれば」


 彼は役に入り切っている。いや、意識的に役に逃避し、自分を殺しているのかもしれない。まるで、あの日何もできなかった自分を認めきれず、逃げていた俺のように。だからどんな言葉をかけても、耳をふさいで拒むのかもしれない。それなら、


「私もアンリミテッドアイを演じよう」


 彼の拳を開いていた手で押さえ、彼女の肩を掴んで横に押し倒し、距離を取って難を逃れる。そして、アンリミテッドアイの言葉で、天子もとい、ダマスカスに問いかける。


「ダマスカス、お前の目的は一体何なんだ!」


 ダマスカスは、マスクから見える口角を上げ、答えた。


「地球侵略だ、すべての人間の心を支配し、俺のものとするのだ!」


 そういった後、彼は俯き、ぼそっと小さな声でつぶやいた。


「そうすれば世界も人も、私を1人にしない」


 そういって、再び剣先を向けてこっちに突っ込んできた。たった今、彼が素に戻ったなかでの発言。きっとそれが、彼の本心だ。


「寂しいのかい、天子君」


 ずるいセリフを俺は発した。俺も今、アンリミテッドアイを演じていて、芥ではない。

それを利用した発言だ。彼がつきだした剣先は、何とか両手でとめる。そしてそれ以上何かさせたくないから離してたまるか。


「寂しいか、だと? 貴様の周りには仲間がいる。そいつらが応援してくれる! だが俺様はいつも1人だ、今でさえ孤独だ! 自分を出さず、ひたすら演じ続けているんだよお!」


 仮面の下から、口元へ雫が流れる。その表情を見て、つい力を緩めてしまった。きっとこれは、彼がセリフに交えた本心。


「確かに仮面の下の早崎天子は逃げた! 何故なら男になりたかったからだ!」


 彼はしゃっくりをして、自分の境遇を語った。


「男になりたいのに、女として、貴様を好きになってしまったからだ!」


 その仮面越しの形相と、自分のしてしまったことの罪悪感に心臓を掌握される感覚を覚えた。


「天子は後悔しているぜ! アンリミテッドアイ部が終わる直前のあの瞬間に、自分の中の性別をカミングアウトできていたらってなあ! でもその時は過ぎた! もう、あの日の話は終わったんだよお!」


 のしかかる罪悪に、冷たい仮面越しの視線に、俺は立ち上がれなくなった。すべてが真っ暗な闇の中に飲み込まれ、息すらもできなくなっていく。だがそこに、なじみのあるその声がこだました。


「しっかりしろ! 遅咲明」

 

 声が聞こえてきた。その主は、天子の背後の階段の上に、壁を支えにして立っている愛理だった。


「考えろ! 天子がどうして電話を使わず、アンリミテッドシグナルを出したのかを! 君にはそれができるはずだ!」


 雫のようにして浮かび上がった天子の顔。彼はもがきながら、苦しみながら、泣いている。そんな気がした。


「気づいてやれなくてすまなかった」


 自然と、その言葉がこぼれた。そうだ、前提として天子は助けを求めていたのだ。でもどうしていいか分からず、また勝手な思い込みをするところだった。だから今度こそ、彼が本当は俺にどうしてほしいのかを読み取るべきなのだ。


 彼女が望んでいたのは、あの時の再演。だから屋上を選び、俺に来させた。


「もう、涙を流さなくていい」


 答えは初めから、天子自身が俺に提示していた。彼女はわざわざ、ダマスカスのスーツを着て、ここへきたのだ。ならばきっと、これが俺のできる最善手。


「俺がその洗脳を解いてやる!」


 現実と空想が、演技と実際が混とんと渦巻くその空間で、天子をダマスカスの専横から解いてやると、俺は言い放った。もうその境界線はなくなり、まるでダマスカスが現実に現れたように、言葉を語りだした。


「貴様に天子を開放できるかなあ?」


 俺と天子が作り出した、屋上の上のこの舞台。体にぴしゃりと雫が当たり、その量が次第に多くなり、辺り一帯が見えなくなるほどの土砂降りへと変わった。その中で、俺とダマスカスは互いをまっすぐに見て、互いの攻撃を繰り出した。俺はパンチで、奴は剣で。


「ラブソリュートパンチ!」


 木刀だが一撃一撃は痛いから、すぐさま先端を両手でつかんで腕を左に傾ける。俺のこじつけだけど、他に選択肢は思い浮かばない。アンリミテッドアイなら、きっとこうするはずだ。


「確か、本体は剣だったよなあ!」


 ゆっくりと慎重に、刃を左へと湾曲させていく。ダマスカスの腕にも力が入り、そうはさせまいと反対方向へ腕を傾け、まっすぐに戻そうとする。だが、強風の吹いた向きが、俺と同じ。風が見方をする。しないがメキメキと音を立て、次第にその裂け目が加速していく。俺は彼と顔を向き合わせ、聞こえるように叫んだ。瞬間、その剣は中心部から綺麗に真っ二つに折れ曲がった。奴が呆然としている間にそれを取り上げ、叫んだ。


「飛べええええええええええ!!」


 屋上から下へ、野球のピッチャーのフォームで、なるべく遠くに向かってぶん投げた。その剣が見えなくなるまで、俺は目を離さなかった。けど途中から雨にかき消され、見えなくなった。


「あっくん」


 呼ばれた方を見ると、彼がよろめきながら近づき、俺の真正面で膝をつく。唇を艶めかせ、俺のヘルメットを外して地面に置いた。天子の瞳は、俺をまっすぐに映している。


「天子!」


 俺もまた彼女の顔を見つめている。その表情へ、何かを言おうとして、セリフが重なった。


「「大切なこと、言わないでごめん」」


 雨の勢いが弱くなっていく。それが完全になくなる前に、誰かの目に映ってしまう前に、俺たちはそっと体を近づける。そうして俺たちは次の瞬間、心残りのないように、あの日のすべての埋め合わせをするように、優しくキスをした。それは瞬きと同程度の刹那のことなのに、ベタついていてしつこくて、後にも苦味が残った最初。通り雨のようにすぐやってきて、すぐ去ってしまう最初であった。


 曇天模様が引き裂かれ、裂け目から光が漏れる。そのころにはもうそこに、俺の好きだった早咲天子はいなかった。彼は天子であり、天子ではない。だがそれは、天子からしても同じ。きっと互いに、あの頃見ていたお互いを失ってしまったのである。


「芥、天子! 大丈夫か?」


 愛理が座ったまま、俺たちに聞いてきた。俺と愛理は口々に答えた。


「心配しないで。僕、遅咲に手加減してたし」

「俺だって手加減してたし」

 

 お互いにお互いをにらみつけたが、そこの間に愛理が入って収まる。


「愛理、明君、天子ちゃん! そしてアライグマ君!」

「芥です。わざとやってますよね」


 階段を上ってきたのは、優さんと緑先輩だ。緑先輩は俺たちと順に目を合わせ、あきさんの肩をポンと叩いていった。


「天子ちゃんからのシグナルがあったからどうしたものかと思ったけど、大丈夫そうだね」


 あきさんは顔を赤くし、そっぽを向いてこういった。


「別に、私が心配したんじゃないわ。緑先輩が言うから渋々ついてきただけよ。勘違いしないでよね」


 緑先輩が「はいはい」と笑顔で言った後、天子がいきなり、二人に頭を下げ始めた。


「長い間、顔を出さないでごめんなさい」


 それを見た愛理も、今度は天子に頭を下げた。


「私も演劇サークルを一週間さぼってごめん! 迷惑かけちゃったよね」


 天子は愛理の方を見て、首を横に振っていった。


「僕が悪いんだよ愛理、僕が君に対して強く当たりすぎてた」

「天子」

「愛理」


 愛理といい雰囲気になってやがる彼には腹が立つが、でもサークルのみんながわだかまりを解きほぐしていくその様子に安心している自分もいる。


「天子と芥君が雨でびしょ濡れね。風邪ひかないように風呂に入ってきた方がいいわよ」


 ゆうさんにせかされ、俺はすぐさま駆け下りようとした。すると、天子が俺の手を掴み、引き留めた。


「何だよ天子、俺のキスがこいだだだだ!」

「竹刀折ってぶん投げたよねー。弁償だから」


 間髪入れずに激痛と脅しがやってきたので、俺はそそくさと足を速めるが、今度は愛理がその手を掴み、提案をしてきた。


「何だよ愛理も?」

「今日の夜、サークル室に集合ね。パーティしよう」

「やったぜ! わかった」

 

 俺は元気よく返事をし、急いで自分の7階の寮に降りる。


 着替えを終え、お菓子やらなにやらを袋に詰めて、寮の鍵を閉めて寮を出る。荷物が重いのでエレベーターを使い、二階まで降りてちょっと歩く。そうしてサークル室に入ると、愛理と緑先輩がアーチを作り、ゆうさんがパソコンをカタカタして、そのリズムと同時に部屋のあらゆるものが光った。


「えっと、これは何をしようとしているんだ?」


 背の低い緑先輩が、けなげに天井に飾りをつけようとしてたので、それを取って代わりに取り付けながら聞く。


「ありがとう。天子ちゃんの歓迎会の続きをやろうと思ってね」


 そんな会話をしていると、横からすべてを破壊する、ものすごい音が響いた。


「あ、みんなごめん!」


 飾りつけにしようとしてた、折り紙を切ってわっかにしてつなげたそれが、愛理をミイラのように巻いていた。何をどうしたらこの大惨事を引き起こせるのだろう。


「うーん、芥君。愛理を手伝ってあげて」と緑先輩は表面上言い、耳元ではこうささやいた。


「愛理と距離を縮めるチャンスだよ」


 なんだか胸の内からやる気がみなぎってきた。俺は愛理に手を貸し、引き上げて座ってもらった。


「一緒にやろうぜ、愛理!」

「おう、宜しく頼む」


 愛理の体を支えながら、一緒に飾りつけをしていく。いろんなところが当たってドキドキしたけど、悟られんようにポーカーフェイスを貫いていた。


「そういえば芥って、好きな人とかいるのか?」


 一気にポーカーフェイスは崩れ、肩車をしていた俺はぐらつき、愛理を危うく落としそうになった。バランスを崩してしまうから、上を向いて愛理の顔を見ることはできない。


「それは……ノーコメントで」

「何だ、残念だな」


 愛理は心なしか、声の調子が下がったような気がした。


 そしてその夜は、忘れられないパーティーになった。最初のうちはみんなでキャラゲーをしたり、アンリミテッドアイを見たりして楽しんでいた。後半、深夜帯には、俺と愛理は相変わらずの人形遊びをして、緑先輩と天子は何を話して盛り上がったのか知らんけど、大きな笑い声をあげていた。その様子を人形遊びの傍ら、俺は見た。


「なんか今、俺の周りがにぎやかだ」


 小学、中学、高校と、俺には特別な居場所がなく、しいて言えば家のひとりぼっちの空間しかなかった。友達を作る時間をおろそかにしてきた。夏休みの日記には、知らない誰かと遊んでいる俺を書いたっけ。


「芥君」


 緑先輩が近寄ってきて、俺にこう問いかけた。


「このサークルに入ってよかった?」


 賑やかな皆の顔を見て、いろんなことを思い出す。エレベーターで突如、愛理に声を掛けられてから三か月、自分にとってはこれまでのいかなる時間よりも目まぐるしくて、忙しくてたのしかった。


「もちろんじゃないですか」


 そう答えると、彼女は息を吐き、にっこりと笑っていった。


「ならよかった。これからもこのサークルをよろしくね、明君」


 俺は頷き、その場にあおむけになって寝っ転がった。小さな窓から見える夜空には、たくさんの星々が見え、もう寂しくない。


「芥」

 

 愛理がみんなが囲むテーブルを指す。その前方のホワイトボードには、天子や緑先輩が頭を抱えながら、名前を書いてはうなっている。


「今、みんなでアンリミ研究サークルの新しい名前を考えているんだ。天子がもっとかっこよくしたいって言ってて。それもそうだなって話の運びになったんだよ」

「いや本当にぼーっとしてた! そんな大事なことしてたのか!」


 急いで候補欄を一応見てみると、どれもこれも長すぎたり、変な感じだ。


「遅咲君よ、眼鏡買ったら? ホワイトボードが見えないんですけどー」

「あい、さーせん」

「君後で覚えとけよ」


 とは言いつつ、俺はそこをどかず、一旦上端っこに、自分の思ったサークル名を書いてみることにした。実はずっと考えていたことではあったのだ。このサークルは研究という固いイメージではない。もっと自由で、もっとヒーローみたいなサークルなのだ。それを踏まえて、俺が温めに温めていた、秘密のとっておきのサークル名がこれだ。


「アンリミテッドアイズ……あ、勝手に書いてすいません」


 みんなに罵倒されるかと思いきや、みんなの視線が一気にこちらに集まり、愛理からは「おお!」という感嘆詞を頂いた。


「ちなみに、どうしてアンリミテッドアイズか理由を聞いてもいい?」


 と天子が訪ねてきたので、俺は端的にそれを離して差し上げた。


「最後のズは、複数形のS! だから、みんながアンリミテッドアイをアイ(愛)せる場所になればいいなって願いを込めてみたんだ。それで、アンリミテッドアイズだ」


 天子は静かになり、しかし、手を合わせ、その動作を速めて拍手に変え、大きな声で同意した。やがて周りのみんなも拍手をした。そして緑先輩がホワイトボードの前に立ち、みんなの前でこういった。


「異論なしだね、それじゃあ今日からここは、アンリミテッドアイズ! みんな前に囲うようにして集まってえ」


 みんなで手をかざす。緑先輩は俺に掛け声を促す。


「君が考えたサークル名だ、掛け声を頼むよ」


 俺は息を大きく吸って、ゆっくりと吐いて自分を多少なり落ち着ける。一人一人と目を合わせてうなづき、セリフを発した。


「アンリミが好きで好きで、アンリミを愛してやまない俺たちはああ、」


 紆余曲折合ってたどり着いた俺の居場所で、きっと俺は今日も、大切な仲間と一緒に活動をする。さあ始めよう。だから今、願いを腹直筋に込め、空に届くように俺らは叫ぶ。


「「「「「アンリミテッドアイズ!」」」」」


 暗闇から抜け出したその先には、4人の仲間が待っていたのであった。


 

 

                     続

 

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