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魔王討伐から凱旋した幼馴染みの勇者に捨てられた私のその後の話  作者: 海野宵人
第三章 究明

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04 ダーケイアの特別依頼

 翌日、私とライナスは村の魔獣ギルドを訪れた。掲示板を確認するためだ。


 ダーケイアの特別依頼は、一番目立つ場所に張り出されていた。一級魔獣ハンターに対する旅費の助成金については、下のほうに小さい文字で書かれていた。


 イーデンによれば、この制度を利用する一級魔獣ハンターは多くないと言う。そもそも、一級の資格を持つ魔獣ハンター自体が極めて少ない。加えて、ダーケイアの特別依頼と同じような施策は、各国がそれぞれとっている。わざわざ時間と旅費をかけて他国へ赴かなくても、自国内で同じように稼げるのだ。


 だから、よほどの物好きでもなければ、あえてこの制度を利用したりしないらしい。そしてその酔狂な一級魔獣ハンターが、イーデンというわけだった。


 ライナスは利用可能な船について説明している部分を読んで、感心したような声を出した。


「本当に、全部船で行けるんだな」

「うん、そうみたいね」


 私たちがギルドで確認したいことは、二つある。ひとつは、特別依頼が出されている場所。もうひとつが、そこへ船で行けるかどうか。


 ダーケイア内で特別依頼が出されている場所へは、すべて船で行けることは確認できた。


 次に確認すべきは、どこで特別依頼が出されているのか。ライナスはポーチから地図を取り出し、広げた。隣からその地図をのぞき込む。地図には、封印水晶が目撃された地点に赤いバツ印が付けてある。


 すると、やはりというか、私たちの予想どおり、ダーケイア内で特別依頼が出されている場所と、赤いバツ印が付いている場所が、完全に一致した。つまり私たちが目的地に行くのにも、ここに書かれている船が使えるということだ。私たちには旅費の助成金を受ける資格がないし、たとえあったとしても受けるつもりはないけども。


 実を言えば、ライナスも魔獣ハンターの資格は持っている。ただし、初級。


 ご領主さまやお兄様と一緒で、一応登録してあるだけなのだ。だから当然、昇級試験なんて受けていない。勇者としての実力と実績があるから、申請さえすれば無試験で一級の資格が得られるとは思う。


 でもライナスには、魔獣ハンターを生業とするつもりがない。だから申請なんてしていなかった。一級の資格があったらあったで、逆にいろいろ面倒くさそうだし。


 それに一級の資格を持っていたとしても、助成金を受けようとは思わない。だって、船室が二等以下に限定されているんだもの。一応は新婚旅行のつもりなので、貸し切りまでは望まないけど、さすがに相部屋は勘弁してほしい。二等以下は相部屋なのだ。


 後は体面の問題もある。曲がりなりにも貴族なので。イーデンは貴族出身ではあるけれども、跡取りではなく、もう家も出てしまっている。だからそういうところは、あまり気にしていないらしい。


 特別依頼の張り紙を確認した後は、ギルドの受付に行った。


「すみません、もしご存じなら教えていただきたことがあるんですが」

「何でしょう? 守秘義務のあること以外なら、知っていればお答えしますよ」


 そこでさっそく、魔王の封印水晶が目撃された地点を尋ねてみた。けれども残念ながら、回答は芳しいものではなかった。


 というのも、目印のあるような場所ではなかったからだ。


 どうやら初級の魔獣ハンターが、狩りの途中に目撃したらしい。そして、命からがら逃げ帰ってきたのだとか。水晶だけなら逃げることもなかったのだろうけど、水晶のすぐそばに大型魔獣が二体いた。初級ハンターには手も足も出ない相手だ。


 その初級ハンターは村に帰還後、すぐにギルドに報告をした。それを受けてギルドからは、ギルドメンバーに注意喚起した。また近隣の町村にも情報を流した。


 その後、国の施策のおかげもあり、大型魔獣は無事に討伐されるようになった。ただし封印水晶が目撃されたのは、初級ハンターが報告したときだけだったのだと言う。そしてその初級ハンターはあわてて逃げ出して来たくらいなので、目印を付けたりする余裕などなかった。だから、はっきりした地点は誰にもわからない。


 受付の男性は使い古した周辺地図を取り出して、私たちの前に広げてみせた。広げた地図の中の、ある地点を指で示す。


「だいたい、このあたりです」

「この地図は、ギルドで販売していますか?」

「こちらでも取り扱ってますよ。ご入用ですか?」

「はい、一枚お願いします」


 すると彼は、私たちの前に価格表を差し出した。


「縮尺が何種類かありますが、どれにしましょう? 縮尺別の価格はこちらです」

「じゃあ、この一番大きいのをください」

「かしこまりました。少々お待ちください」


 ライナスは価格表の一番下にある、一番値段の高いものを指さす。受付の男性は席を立ち、奥から地図を一枚出してきて広げてみせた。


「こちらになりますが、よろしいですか?」

「はい」


 先ほど見せてくれた使い古しの地図は、縮尺が中くらいのものだったらしい。大きな地図上での位置を再度、指さして教えてくれた。


 ギルドで調べられることは、これで全部だろう。ライナスは受付の男性に会釈して礼を言った。


「いろいろありがとう。助かりました」

「いえいえ。勇者さまのお役に立てたなら、大変光栄です」

「え」


 返ってきた言葉に、ライナスも私も目を丸くした。どうして勇者だってわかったの? 名乗ってもいないのに。不思議には思ったものの、心当たりはひとりしかいない。


「もしかして、イーデンから聞きました?」

「おや、イーデンさんとお知り合いでしたか」


 むむ。この反応から判断するに、イーデンから聞いたわけではないらしい。


 では、いったいどうして────と首をかしげていたら、受付の男性が種明かしをしてくれた。なんと驚いたことに、国から通達が出ていたそうだ。「勇者が調査に回る予定なので、訪ねて来たら協力するように」と。


 私たちからは、ダーケイアに予定を連絡したりはしていない。つまり、他の誰かが知らせたということだ。通達を出す権限を持つような国の上層部に連絡を取れる人物なんて、限られている。思い当たる人と言えば────。


「ジムさんか」

「だろうな」


 私はライナスと顔を見合わせて苦笑した。調査に協力が得られること自体は、とても助かる。だけど当初私たちが思っていたほど、のんびりした旅にはならなそうな予感がした。

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