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魔王討伐から凱旋した幼馴染みの勇者に捨てられた私のその後の話  作者: 海野宵人
第二章 調査

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47 第二の門 (1)

 食事をしながら、ライナスから今後の予定を話した。


「明日から、城門の内側に、さらにもうひとつ門を建設をすることになった」


 そうなのだ。伯父さまに渡された書類には、魔王城の城門の内側にもうひとつ門を作る計画が書かれていた。私たちは城門を閉めることばかりを考えていたけれども、城門を閉められないなら、自分たちで自由に開閉できる門を別に作ってしまえ、というわけなのだった。


 伯父さまのこの計画書を目にしたとき、自分の視野の狭さに気づいて、目まいがしそうになった。どうしてこんな簡単なことを、自分で思いつけなかったんだろう。恥ずかしい。

 私が自分にがっかりしている間にも、ライナスは分担を告げていた。


「博士とフィーは結界付与を頼む。マイクとイーデンは、俺と一緒に魔獣駆除と工事手伝い担当」

「工事は誰がするの?」

「王都から、信頼できる人員を派遣するってさ」


 ヒュー博士たち三人も、信頼できる人物として選ばれている。「裁きの書」の転移スキルを明かしても、他言しないと思われているらしい。マイクはもちろん王宮の兵士として守秘義務があるし、イーデンも契約上の守秘義務があるだろう。

 ヒュー博士に関しては、伯父さまが血縁者として人物を保証した。


 話をしながらも、マイクとイーデンはいいペースでワインを飲んでいる。二人とも酒好きらしい。イーデンはご機嫌でグラスを揺らしている。


「こんな上等なワイン飲むのは、久しぶりだなあ」

「俺、ワインなんて初めて飲むわ。うまいな」


 ワインを飲んだことがないと言っているのは、マイクだ。確かにあまり庶民の飲み物ではないかもしれない。そう言われてみれば、旅の間はエールばかりだった。私は、エールはあまり好きじゃない。だから旅の間、ほとんどお酒は飲まなかった。

 甘いりんご酒なら好きなんだけど。と思ったら、抜かりなくりんご酒も一本バスケットに入っていた。さすが伯父さま。


 翌朝、書類に書かれていた指示どおり、いつもより一時間ほど早く伯父さまのところに転移した。すると転移先はいつもの書斎ではなく、屋外だった。

 目の前に、伯父さま以外に三人の男性の姿がある。たぶんこの人たちが、伯父さまの言う「信頼できる職人たち」なのだろう。私もびっくりしたが、それ以上に彼らのほうが驚いていて、ぽかんと口を開けて目を見開いていた。


「ついに天使のお迎えが来ちまったか……」

「違います」


 三人の中で一番年配に見える職人がおかしなことを言い出したので、私は否定しながらも吹き出した。


「うん、天使ではないね。でも限りなく天使に近い、聖女だよ」

「ちょっと、伯父さま。嘘はいけません」

「嘘じゃないさ。聖女なのは本当だろう?」

「その前の『限りなく天使に近い』なんて部分が大嘘でしょ!」

「両親と弟が天使なんだから、実質ほぼ天使じゃないか」


 伯父さまはにこにこと、屁理屈をこねて反論する。

 確かに両親と弟は、天の遣いになっていた。でも、それとこれとは全然別の話だと思う。なのに職人たちときたら、すっかり伯父さまの話を真に受けていた。そして今にも拝み出さんばかりに、畏敬の念に満ちあふれた視線を向けてくる。どうしよう。

 困り果てた私は、話題を変えた。


「伯父さま、冗談を言っている時間はありませんから、ちゃんと紹介してください」

「ごめんごめん。彼らが昨日話した職人たちだよ。こちらが親方」


 伯父さまは声を上げて笑いながらも、紹介してくれた。年長の職人が親方だそうだ。


「では、さっそく移動しましょうか」

「よろしく頼みます」


 三人に手を重ねてもらい、その重ねた手を私が握って、指輪で転移した。

 職人たちは「おお……」と感動に浸っている様子だけれども、残念ながらそれに付き合っていられる時間がない。


「ただいま」

「おかえり」

「この人たちが職人さんですって。こちらが親方。私は資材を運びに、また行ってくるね」

「うん」


 ライナスに声をかけてから、すぐまた「裁きの書」で伯父さまのところに転移する。

 そしてそこに積んである資材を運ぶ予定だった──のだが、とんでもなく悪戦苦闘する羽目になった。なぜなら、私が非力だから。女性としては決して非力なほうではないと思っているけれども、資材を持てるほどの腕力はなかった。


 一番上に置かれたものに手を置けば、運ぶことは可能だ。でも、転移先では宙に浮いた状態になるから、当然の結果として落下する。持てないほど重たいものが落下したとき、もしも誰かの足がその下にあったりしたら大惨事だ。

 仕方がないので、職人二人に荷物持ちをお願いした。私は彼らと手をつないで転移するだけ。でもやはり、片手をつないだ状態で大きな荷を運ぶのは、なかなか大変らしい。


 私たちが四苦八苦しながら危なっかしく運ぶのを見て、ライナスが申し訳なさそうにぼやいた。


「俺が行って来られればなあ」

「そうだ。行けるかも」

「無理だろ」


 ライナスに言われるまで思いつきもしなかった。でも、行ける気がする。だって「裁きの書」のスキルは「ローデン家の後継者がこの書を最初から最後まで読み上げたとき、ローデン家当主のもとに転移する」というものなのだ。私の夫なんだから、ライナスだって後継者のはずだ。

 直系の後継者に限るなんて但し書きは、どこにもなかった。「裁きの書」のスキルによる条件判定は「かなり」どころではなく、ものすごく大雑把だ。何しろ「最初から最後まで」とあるのに、最初と最後だけを読んでもスキルが発動するくらいには大雑把なのだから。


「試してみてよ」


 私がライナスに「裁きの書」を押しつけると、彼はいかにも気のない様子で最初と最後のページを小声で早口に読み上げた。


「ほら、やっぱりダメだよ」

「まだよ。本を閉じて」


 毎日見ていても、自分のことじゃないと手順は頭に入っていないらしい。本を閉じたタイミングでしかスキルは発動しないのに。私の指示に従ってライナスが本を閉じると、彼の体がふわりと浮き上がった。

 私はにっこりと笑顔で、ライナスに手を振って見送る。


「いってらっしゃい」


 力自慢のライナスが往復できるようになると、荷運びが終わるのはあっという間だった。

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