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魔王討伐から凱旋した幼馴染みの勇者に捨てられた私のその後の話  作者: 海野宵人
第二章 調査

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46 勇者、門番になる (2)

 それからは、同じような日々が続いた。

 食事だけは贅沢なものの、寝るのは相変わらず椅子を並べた簡易ベッド。でも、狭いのはもう慣れた。人間って案外、適応力が高いものだ。王都から厚手の毛布を持ち込んだおかげで、寝心地もだいぶ改善している。


 王都へは一日三回、朝八時、昼十二時、午後四時に転移している。

 調査隊と同行中は夜に一回転移するだけだったけれども、今は転移の目的が報告というより、食事の調達となってしまった。何しろ、報告できるほどの状況変化がない。


 それでも諦め悪く、地道に内部を見て回ることをやめられずにいる。

 中層の最奥にある魔王の寝室らしき部屋など、まるで家捜しする勢いで、戸棚という戸棚をすべて開けて中身を引っ張り出してみたりもした。でも、新しい転移水晶は見つかっていない。

 そもそも、魔王の寝室には生活感が皆無だった。見た目だけ貴族邸宅の寝室風にしつらえてあるだけで、戸棚はほとんど空っぽだ。


 そんな日々が十日ほど続いたある日、ひとつの変化があった。

 お昼に王都へ転移したとき、伯父さまから渡されたバスケットが二つもあったのだ。


「伯父さま、量が多すぎます」

「うん。まとめてだと重そうだから、分けておいたんだよ。片方は夕食用だから、とっておきなさい」


 さっぱり意味がわからなかったが、「わかりました」とうなずいておく。

 魔王城に戻ると、二つのバスケットを見てライナスも首をかしげた。


「あれ、今日は多いね」

「そうなの。片方は夕食用ですって」

「へえ」


 ライナスは私からバスケットを受け取り、「妙にずっしりするな」とさらに首をかしげた。ナプキンをめくって中身を確認してみれば、ワインのボトルが何本も入っている。道理で重たいわけだ。でも、どうしてだろう。

 私もライナスも、お酒はそれほど飲まない。伯父さまもそれをご存じだから、今までワインを持たされることがあっても、ボトル一本だったのに。それだって、せいぜい数日に一回だ。


 不思議には思ったものの、代わり映えのしない日々が続いたせいで、私たちは二人ともすっかり気が緩み、油断していた。「裁きの書」で転移するときに、周りに人がいないことを確認するなんてこともない。だって、魔王城には私たち二人しかいないとわかっているから。


 だからこの日、午後四時に転移するときにも、いつもと同じように早口に「裁きの書」の最初と最後のページを読み、ライナスが聖剣を城門の鍵穴から引き抜いたのと同時に本を閉じた。もはや慣れた作業だ。いつものように、魔法陣が現れる。

 そして城門が開き、転移する直前に見えたのは、私の目の前で目を丸くしているヒュー博士、イーデン、マイクの三人の姿だった。


 私はあわてた。

 動転するあまり、伯父さまの前に転移するなり、言葉足らずに訴える。


「伯父さま、どうしましょう。見られちゃいました」

「どうしたね? まずは落ち着きなさい」


 伯父さまに優しくたしなめられて、少し冷静になった。


「城門前に人がいないことを確かめずに転移してしまって……」

「もしかして、もうヒューたちが到着してたのかい?」


 言い当てられて、私は目を見開いた。

 伯父さまは、私の様子を見て苦笑いを浮かべる。


「それはすまなかったね。日暮れ近くになるだろうと聞いていたから、すべて準備してから伝えるつもりでいたんだ。ヒューたちなら見られても問題ない。気にすることはないよ」

「そうだったんですか」

「詳細は紙にまとめてあるから、帰ったら読みなさい」

「はい」


 伯父さまからは、再びバスケットを二つ渡された。いつもよりかなり大きい上に、昼のものよりずっしり重い。バスケットの上には、書類入りと思われる大判の茶封筒が載せられていた。


「明日から忙しくなるよ。今日はしっかり食事をして、ゆっくりお休み」

「はい」


 私は伯父さまの言葉にうなずき、バスケットを両手にしたまま、ライナスのところに戻る。ライナスは「助かった」と言わんばかりに、あからさまにホッとした顔で、私からバスケットを受け取った。

 私はヒュー博士たちのこの上なくもの問いたげな視線に気づかなかった振りをして、三人に声をかけた。


「とりあえず、図書室に移動しましょう」

「あ、ああ。そうだね」


 転移水晶まで歩きながら、私は博士に尋ねた。


「博士たちは、どうして戻ってきたんですか?」

「隊長指示だよ」


 その答えに、頭が混乱しかける。ライナスの指示? 思わずライナスの顔を見てしまったが、すぐに思い違いに気づいた。ヒュー博士の言う「隊長」とは、ジムさんのことだ。今はジムさんが隊長代行をしているのだから。

 博士たちが戻ってきた理由はわかったものの、なぜジムさんがそんな指示をしたのかは、さっぱり見当がつかなかった。


 図書室に戻り、封筒から書類を取り出してライナスに渡す。


「詳しいことは、これを読みなさいって」

「わかった」


 ライナスはさっと書類に目を通すと、「はい、どうぞ」と私に手渡した。相変わらず、読むのが速い。

 ヒュー博士たちが荷物を置いて、円卓についてからライナスは簡単に説明した。


「さっきのフィーの転移は、『裁きの書』という神聖具のスキルだったんだ。今のところ国家機密だから、口外無用で頼みます」

「なるほど、そういうことか」

「やっぱり」


 ヒュー博士とマイクが納得してうなずいている横で、イーデンは「え、どういうこと?」ときょとんとしている。そこでライナスがさらにかみ砕いて説明した。


「『裁きの書』で王都へ転移して、結婚指輪で戻ってくることができるんだ」

「ああ、やっとわかった。つまりあのときのバスケットも、遠征のときの置き土産なんかじゃなくて、本当は王都から持ってきてたんだな」

「うん、そういうこと」


 どうやら、伯父さまはヒュー博士たち三人が戻ってくるのをわかった上で、食事を用意してくださったらしい。食器類はちゃんとすべて五人分あった。昼にワインを持たされたのも、ヒュー博士たちのためだろう。

 私はバスケットから料理を取り出しながら、声をかける。


「ちょっと早いけど、せっかくだからお料理が温かいうちにいただきませんか」

「うわ、すごいな」

「豪華だ」


 ヒュー博士は黙ったまま眉を上げ、マイクとイーデンは歓声を上げた。

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