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魔王討伐から凱旋した幼馴染みの勇者に捨てられた私のその後の話  作者: 海野宵人
第二章 調査

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40 二人きりの先遣隊 (1)

 私の希望を聞くと、ライナスは首をかしげて尋ねた。


「探したいものって、何?」

「私をここに転移させた、あの紫の円盤と同じものがないか探したいの」


 私の考えていることをすぐに理解して、彼は「なるほど」とうなずく。


「でも、そんなもの、ここにあるかなあ」

「わかんない。でも、あるかもしれないじゃない?」

「まあ、そうだな」


 ライナスにうながされて、私は円盤の形状や、最果ての村で見つけた場所の特徴を、もう一度詳しく説明した。


「これくらいの大きさで、ヒイラギの茂みの下にあったの」

「ふうん。ヒイラギの茂みっていうと、あんな感じ?」


 ライナスが指さす先には、確かにヒイラギの小さな茂みがあった。城門から離れた場所にそびえる大きな木の根元付近に、他の種類の灌木に混じってヒイラギの茂みがある。他の茂みに完全に紛れてしまっていて、ライナスに指摘されるまで気づかなかった。


「そう。まさにあんな感じ」


 近づいて根元をのぞき込んで見ると、果たしてそこには、あのときと同じ色味と形の円盤が隠されているではないか。


「あった」

「え? ほんと?」


 ライナスも私のすぐ隣にしゃがみ、茂みの下をのぞき込む。私はヒイラギの葉に触れないよう気をつけながら、彼にわかりやすいよう「これよ」と指さしてみせた。

 ライナスは私の指さした先を見て、目を見張る。


「ほんとだ。これを踏んだら転移したんだっけ?」

「踏んだというよりは、蹴飛ばしたんだけどね。やってみましょうか?」

「あ、ちょっと待って」


 立ち上がってからつま先で蹴り出そうとしたら、ライナスに制止された。

 素直にうなずいて待っていると、彼は門前に置いてきた荷物を拾ってきた。なるほど。確かに、もし転移させられてしまうとしたら、あの荷物を置いて行くことになるのはちょっと悲しい。


 ありがとう、とお礼を言いながら自分の分の荷物を受け取り、茂みの下につま先を伸ばす。ちょこんと蹴りつけると、足もとに魔法陣が現れた。

 思わずライナスと顔を見合わせる。


「どこへ飛ぶんだろう」

「中庭とか?」


 もちろんライナスとは、しっかり手をつないだ。どこへ飛ばされるかもわからないのに、離ればなれにされたら困る。

 そして転移した先で、私とライナスは顔を見合わせて笑ってしまった。なぜなら、そこは本当に中庭だったから。当てずっぽうで言っただけなのに。


「これ、討伐に来たときに知りたかったなあ」

「人生、だいたいそんなものよ」


 討伐のときに使えたら、それはきっと便利だったに違いない。特に、お姫さまの移送に。

 そう考えてから、中庭で見かけたクマ型の魔獣のことをふと思い出した。扉の取っ手をくわえて開けようとしていた、あの魔獣のことだ。


「でも魔獣は、これ使ってなかったわよね」

「魔法陣だからじゃない?」


 ライナスの返事に、私は首をかしげる。魔法陣なのと、何か関係があるのだろうか。


「使わないっていうか、使えないんじゃないかな。魔法陣を起動するには、魔力が必要だから」

「あ、なるほど」


 言われてみれば、ほとんどの魔獣は魔法を使わない。ごくまれに使うものもいるけれども、クマ型の魔獣は使わないタイプだ。

 人間であれば、魔法を覚えているかどうかにかかわらず、誰でも多かれ少なかれ魔力を持っているものだ。でも、魔獣は違うのかもしれない。「魔法を使わない魔獣は、魔力を持っていない」というのは、十分にあり得る話のように思えた。


 荷物を図書室に置いてきてから、中庭を歩き回ってみる。

 ヒイラギの茂みを意識して探すと、三か所に見つかった。しかも、いずれも根元に紫色の円盤がある。魔王城にある円盤は、大きさこそ最果ての村で見たものと同じくらいだけれども、地面にしっかりと埋め込まれているところが違った。つま先でつついても、蹴り出すことはできない。

 埋まっている部分にも、厚みがありそうだ。たぶんここのものは、踏みつけたくらいでは壊れることはないだろうと思う。


 中庭にある三個の円盤で転移する先は、それぞれ城門前、中層の最奥の部屋の入り口、上層の水晶の部屋の入り口だった。中層と上層の転移先の通路にも、転移用の円盤を発見した。転移した先の通路のすみに、まるで観葉植物のようにヒイラギの茂みがあり、その根元に円盤が埋め込まれている。


 通路のヒイラギは、鉢植えではない。大理石の床から、じかに生えている。紫色の円盤は、大理石の床に埋め込まれていた。


 こうして調べた結果わかったのは、城門、中庭、上層の水晶の部屋、中層の最奥の部屋は、それぞれ転移で簡単に移動できるということだった。しかも往復とも利用可能。

 上層の水晶の部屋と、往復で使えるとわかったときには、思わず脱力してしまった。


「これ、卵を運び出すときに知りたかった」

「ほんとだよな」


 結構な距離をてくてく歩いて運んだのに。しかも二往復も。

 私と一緒になってぼやくライナスも、苦笑している。


「でも、人生、だいたいそんなもんなんだろ?」

「大変に遺憾ながら、そんなものですね……」


 他にも、転移用の水晶が置かれている場所があるかもしれない。でも、その探索は後回しにする。それより先に、確認したいことがあった。指輪の転移だ。


 城門が閉まっていると、城門の中と外との間で転移ができないことはわかった。

 だけど城門が開いていても、転移できないときと、できるときがあるのはなぜだろう。それが知りたかった。


「じゃあさ、まずは中庭と図書室で試してみようか」

「うん」


 そしてあれこれ試した結果わかったのは「図書室の扉も、城門と同じように転移を阻害する」ということだ。これは私にとって、かなりの衝撃だった。だって、安全のために図書室に避難したのに、そのせいで転移ができなかった、ということなんだもの。

 私はがっくり肩を落として、うなだれた。


「もっと早く中庭に出てさえいれば、転移できてたってことよね」

「まあ、人生、だいたいそんなもんなんだよ」


 腕組みをしてしたり顔でうなずいてみせるライナスの脇腹に、ひじ鉄を入れてやった。

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