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魔王討伐から凱旋した幼馴染みの勇者に捨てられた私のその後の話  作者: 海野宵人
第二章 調査

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37 魔王城内の調査 (2)

 次の日は、中層を調査することになった。

 朝食をすませ、図書室を出る。


 通路を抜けて中庭に出ようというところで、小さな異変に気がついた。

 中庭に続く扉が開いているのだ。前日、間違いなくきちんと閉めておいたはずなのに。


 異変に気づいたライナスは、無言で片腕を横に上げて、足をとめた。ライナスの声なき指示に従って、全員が足をとめる。

 ライナスが前に足を踏み出そうとしたところを、ヒュー博士が腕に手をかけて止めた。怪訝そうに振り向いたライナスに、博士は無言のまま自分の胸を親指で指してみせる。ライナスはほんの一瞬だけ考えを巡らすような顔を見せてからうなずき、道を空けて博士を通した。


 博士は音もなく静かに扉に近づき、そっと外をうかがう。そして、さっと何か魔法を使った。たぶん「麻痺」だ。それから扉を大きく開き、私たちに手招きをしながら外へ出た。博士に続いて、私たちも中庭に出る。


 中庭には、一体のクマ型の魔獣がいた。

 魔獣の足もとには、卵が一個、転がっている。魔獣は、上層に続く扉の取っ手をくわえるような姿勢で、固まっていた。


「なるほど。こうやって扉を開けたのか」


 マイクがため息とともにつぶやき、先陣を切って魔獣に向かって走って行った。それを合図にして、全員が魔獣に攻撃を開始する。


 私は辺りを見回し、馬たちが無事でいることを確認した。魔獣に襲われた様子はなく、三頭とも魔獣を避けるようにして、中庭の端に身を寄せていた。念のため、「体力回復」の魔法を三体ともにかけておく。この魔法は体力の回復速度を向上させる回復魔法で、副次的な効果として、気持ちを安定させることができる。


 危なげなく魔獣を倒してから、ライナスは腕組みをして首をひねった。


「うーん。どうしようかな」

「魔獣は扉を開けない前提だったのに、それが崩れちゃったよねえ」

「そうなんだよな」


 イーデンの言葉に、ライナスがうなずく。

 開けている現場を見てしまった以上、あのクマ型の魔獣が扉を開けたのは間違いない。しかも足もとに卵が落ちているところから考えて、あれを運び込もうとしたのだろう。

 少し考えてから、ライナスが指示を出した。


「一応、上層をもう一度、ざっと見てこよう」

「そうだね」

「ただし、今回は二手に分ける。マイクとイーデンは、中庭で待機してくれ」


 マイクとイーデンを中庭に残すのは、調査済みの上層に魔獣が入り込むのを防ぐためだ。魔王城の上層、中層、下層を行き来するには、必ず中庭を通る必要があるので、ここを押さえておけばよい、というわけだ。


 内部の調査は、私、ライナス、ヒュー博士の三人で行う。調査と言っても、実際にやることと言ったらただの魔獣駆除なんだけど。

 だから実のところ、攻撃力特化型のイーデンが抜けることで、進みが遅くなることを覚悟していた。でも、それは杞憂だった。遅くなるどころか、速くなった気さえする。イーデンとマイクの手前、ライナスが攻撃力を抑えていたとしか思えない。


 補助魔法は博士が使うので、私の出番はとんとない。博士もたぶん、他のメンバーがいるときには、私も戦闘に加われるように魔法を控えめに使っていたのだと思う。遠慮なく使う博士の魔法の、素早いことと言ったらない。ライナスの動きに合わせて、使う魔法の種類も適宜変更する。一級の魔獣ハンターが使う本気の補助魔法は、すごかった。


 だから私は基本的には体力回復とか、あってもなくても割とどうでもいい回復系の魔法ばかり使っている。いや、「どうでもいい」は言い過ぎかも。自分ひとりに限って言えば、とても役立っていたから。ライナスと博士の移動速度についていくには、回復魔法と補助魔法を駆使しないと、ちょっときつかった。


 かなりのハイペースで調査を進め、午前中の割と早い時間に上層の確認作業は終えてしまった。すぐに中層に移り、午後には最奥の部屋に到着する。ライナスが封印されていた、あの広間だ。広間とその奥の寝室めいた部屋には、なぜか魔獣がいなかった。

 ざっと部屋の中を確認して周りながら、以前から不思議に思っていたことをライナスに質問してみた。


「ねえ、ライ」

「うん?」

「魔王と戦ったのって、ここなのよね?」

「うん」

「この部屋の中だけ?」

「そうだよ」

「どうしてなんでしょうね」


 私が不思議でならなかったのは、どうして魔王はライナスがこの部屋に到達するまでに仕掛けてこなかったのか、ということだ。道中を襲うこともなく、魔王城に到着しても魔獣を仕掛けるだけで、魔王自身はただじっと最奥の部屋で待っている。


 ライナスにとっては「そういうもの」だったようで、私の疑問に対しては困ったようにただ首をかしげるだけだ。

 でも、やっぱり不思議なのだ。普通、そういうときって奇襲をかけない?

 なのに、この部屋に到着するまで魔王には一度も遭遇することがなく、魔獣しかいなかったと言うではないか。やっぱり不思議だ。どうしてなんだろう。きっと何か理由があると思うんだけど。


 私が首をひねっていると、ヒュー博士が部屋の中を見回しながら考察した。


「戦う場所をここにしないと、魔王にとって何かしら不都合があったんじゃないかな」

「不都合、ですか」

「そう。たとえば、この場所なら回復力が上がるとか、攻撃力が上がるとか、何か理由がありそうだろう?」


 そう言われて、私はあの紫の水晶の存在を思い出した。この部屋の奥にある寝室には、紫の水晶で飾られたシャンデリアがあったはずだ。そのシャンデリアは、上層の部屋にある円柱型の水晶とつながっている。そしてその円柱型の水晶の部屋には、魔獣の卵が置かれていた。

 こうしたことを考え合わせると、あの水晶には魔獣の卵や魔王にエネルギーを与えることができるのかもしれない。


「言われてみれば、戦闘中も魔王は絶対に部屋の外には出なかったな」

「そうなんだ?」

「うん。なるべく外で待ってるメンバーに被害を出さないよう、死角になる場所でスキルを使うようにしてたんだけど、手前の角におびき出しても、すぐにあの玉座のほうにもどっちまうんだよな」


 ライナスの言う「玉座」とは、この部屋の中にある唯一の調度品のことだ。まるで玉座のように飾り立てられた重厚な椅子で、入り口から見て正面の壁に背中をつけて、中央あたりに置かれている。

 戦闘する中で、玉座付近では魔王がスキルを連打してくる、というのも経験則として学んだと言う。なるべく手前の左右どちらかの角におびき出すようにしたのは、スキルの使用頻度を下げる狙いもあったらしい。


 奥の寝室との位置関係を調べてみたら、玉座が置かれているのはシャンデリアに一番近い位置だった。やはりあの水晶は、放置しておいてはいけない、何かよろしくないもののような気がする。

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