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魔王討伐から凱旋した幼馴染みの勇者に捨てられた私のその後の話  作者: 海野宵人
第二章 調査

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36 魔王城内の調査 (1)

 翌日は朝食をとってから、まずは上層の調査を開始した。

 探索を開始してすぐに気づいたのは、以前と違ってあちこちに大型魔獣がいること。大きめの小部屋はどこも、魔獣の巣となっていた。巣というか、魔獣の幼体が隙間もないほどに詰め込まれている。まるで、魔獣の飼育場みたいだ。


 飼育場となっている小部屋の付近には、成体の魔獣が何体もいることが多い。

 最初の小部屋の入り口では、いきなりトラ型魔獣が三体も現れた。あわてて「麻痺」や「速度低下」などの弱化魔法を連発したら、物陰からさらに追加で四体が現れ、パニックに陥りそうになってしまった。群れる魔獣じゃないはずなのに、なんでこんなにいるの。


 そのとき、ライナスの鋭い指示が飛んだ。


「いったん引く。こっちだ」


 ライナスに先導されて、通路を走る。かなり走り、角を曲がったところで、やっと止まった。どうやらヒュー博士が冷静に、七体全部に弱化魔法を打ち込んでくれてあったらしい。追いつかれることなく、無事に振り切れた。私ひとりだったら、そんな芸当ができた気がしない。七体もいると、どれに何の魔法を使ったのか、全然わからなくなる。

 なのに、ヒュー博士は打ちもらしがない。さすがだ。


「マイク、釣ってきて。二、三体まとめてでいいから」

「了解」


 弓使いのジムさんがいないので、少しずつ釣ってくるのはマイクの役割だ。マイクは防御力が高い上に「挑発」スキルを持っているので、こうした役割に向いているのだそうだ。「挑発」を使うと、相手の注意を自分に引きつけることができると言う。


 私たちの目の前まで釣ってきた後、くるりと魔獣の向きを変えるのが見事だった。必ず魔獣が私たちに背を向けるようにして、マイクだけが正面に立つ。こうしておけば、魔獣の攻撃は基本的にマイクだけが受けることになり、他のメンバーは攻撃に専念できる。


「イーデン、スキルは控えめで」

「もちろん」


 ライナスがイーデンに注文を出すと、イーデンは笑って応じた。

 イーデンは、マイクとは逆に攻撃力特化型で、多彩な攻撃スキルを習得している。博士と私が図書室に立てこもっていたときに、外から聞こえた爆音は、イーデンのスキルだったそうだ。


 あれはイーデンの持つスキルの中で、最も攻撃力の高いものだったらしい。周囲にも被害を及ぼす可能性の高いスキルなので、普段は自重していた。だから私はこれまで、イーデンにそんなスキルが使えるなんて知らなかった、というわけだった。

 でも魔王城の門前なんて場所なら、何を破壊しようが誰の迷惑にもならない。だから調子に乗って連打したところ、木の枝が中庭まで吹き飛ばされて来たのだった。そう聞くと、普段は控えておくのが無難だというのは、よくわかる。しかも今は屋内だ。そんなものを使ったら、危ないに決まっている。


 こんな調子で、小部屋という小部屋で魔獣を駆除しながら調査を続けた。

 そして、最後に奥の部屋にたどりつく。紫色の円柱型の水晶が置かれた、例の部屋だ。相変わらず円柱型の水晶は、まがまがしく脈動するように明滅をしていた。しかも、あろうことか、ライナスと二人で中庭に持ち出して捨てたはずの卵が、戻されているではないか。


 私はライナスを振り返り、卵を指さしてみせた。


「ライ、見てこれ。戻されてる」

「うん。なんでだろう。魔獣かな……」

「たぶん。だって、他にいないものね」

「だよな」


 ヒュー博士たちは、私とライナスのやり取りをもの問いたげな顔で見ている。ライナスは三人に向かって、以前の出来事を説明した。つまり、私とライナスがここであやしげな卵を発見し、円柱型の水晶から引き離すべく中庭に運んで捨ててきた、という話だ。


 にもかかわらず、これがまたこの場所に置かれているということは──。その先は、ヒュー博士が言葉にした。


「つまり、わざわざ魔獣たちがここに戻したということだよね」

「そうですね」

「やつらにとっては、ここに置いておきたいものなんだろう」


 ヒュー博士の推論に異を唱える者はいない。だって、誰が考えてもそうとしか思えないから。そして魔獣たちがわざわざ運び込んでまでここに置きたいものだとすれば、ここに放置しておいてよいわけがなかった。しかも、卵の中身はヒト型に見えるのだ。魔獣というより、魔王に近いものがこんなに大量に卵から孵ったら、世界はいったいどうなることか。

 イーデンが両手を打ち鳴らし、明るくかけ声をかけた。


「よし、捨ててきますかー!」


 さっそくそれぞれ手持ちの毛布を広げて、卵を包む。

 以前、ライナスと二人で運んだときには二往復したけれども、今回は十分な人手があるので一度で運び切れた。


 運びながら、ふと疑問に思ってライナスに尋ねる。


「ねえ、遠征で来たときって、どうしてたの?」

「どうって、何のこと?」

「ほら、何百人もで来てたんでしょ? 魔獣との戦闘になったら、ぞろぞろ行列になってる人たちが詰まったりして、危なくなかったの?」

「ああ。大半は外で待たせた」


 遠征隊の過半数が非戦闘員だったという内部事情を知るマイクは、苦笑いして聞いている。でも詳しいことを知らないイーデンとヒュー博士は、ごく常識的な回答を聞いたかのような顔でうなずいていた。


 そのときマイクは、突入部隊のひとりだったようだ。

 魔王城の中に限らず、それまでの道中での露払いでも、よくライナスと行動を共にしていたらしい。道理で気心が知れているわけだ。


 この日は、上層の調査だけで終わりにした。

 図書室に戻って、食事と休憩をとり、就寝する。この日の不寝番は、ヒュー博士とライナスが務めることになった。私も交代で務めようと申し出たのだけど、即座に却下された。一番体力がないからおとなしく寝ておけと言われてしまうと、返す言葉がない。

 二人ずつで二交代だから、そんなに大変じゃない、とみんなが言うので、素直に甘えることにした。


 無事にライナスと合流できて、私は少し気が緩んでいた。

 やたら魔獣狩りが多かったり、水晶の部屋に卵が戻っていたり、少々想定外の事態もあったけれども、上層を一日で調査し終えたわけだから、成果としてはまずまずではないだろうか。

 それなりに色々あったけど、そこそこ順調だ──と、このときはまだ思っていた。

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