表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔王討伐から凱旋した幼馴染みの勇者に捨てられた私のその後の話  作者: 海野宵人
第二章 調査

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

69/143

24 二度目の最果ての村 (4)

 翌日は、いつもより少しのんびりと一日が始まった。

 何しろ、前日の晩に遅くまで飲み騒いだおかげで、実働部隊である隊員たちがなかなか起きてこない。普段より集合時間を遅めにしておいて、よかった。


 集合場所は、宿屋の前。広場と呼べるほどではないけれども、少しひらけた場所になっている。朝食をすませて、三々五々集まってきた。けれども、なぜかその中に隊員でない顔がちらほらと混ざっている。魔獣ハンターたちだ。

 ライナスは困った顔で「場所が悪かったかな……」と首をかしげている。


 何か催し物があるとでも、勘違いされたのだろうか。

 勘違いさせたままでは、時間を無駄にしてしまって気の毒だ。声をかけてみようとしたところ、私より先にジムさんが近くにいた魔獣ハンターに声をかけた。


「おはよう」

「こんちゃ」

「何か待ってるみたいだけど、催し物でもあるのかな?」

「勇者さまが音頭とって、村の復旧作業するって聞きましたよ」


 この答えに、ジムさんは目をまたたく。

 私もやり取りを聞いて、首をかしげた。そこまでわかってて、なぜこの場で隊員たちと一緒にいるのだろう。同じことをジムさんも思ったようで、言葉を足した。


「私たちはそうだけど、君たちがいるってことは、何か別の催しと集合場所がかぶっちゃってるのかなと思ってね」

「ああ、そんなもんはないっすね。混ぜてほしいやつが集まってるだけっす」


 有志ということか。

 ジムさんはその後も、その場にいる魔獣ハンターたちと雑談を続けた。その雑談を聞いていてわかったのは、前日のライナスの「村の中では戦闘禁止」という指示に、彼らも思うところがあったらしい、ということだ。


 それまでは、あまり深く考えずによかれと思って、村の中に入り込んだ魔獣は即座にその場で始末していた。けれども、言われてみれば確かに、村の中での戦闘は村民を巻き込む危険性がある。これまでは幸いにも人的被害は与えていないが、物損は結構あったことに彼らも気づいてしまった。


 どうやら、村の出入り口の門が壊れているのも、門のすぐ近くで大型魔獣との戦闘が行われたせいらしい。今この村に滞在している魔獣ハンターたちが門を壊したわけではないそうだが、似たようなことをしてしまった自覚があった。

 それで、私たちが村の門などの復旧作業をするなら、せめてもの罪滅ぼしに参加しようと思ったのだそうだ。


 話を聞いて、私はちょっと感動した。

 ライナスの作戦が、想定以上に効いてる!

 これならもう、村の中で戦闘が行われることはなくなるだろう。


 しかも魔獣ハンターたちは、ただ復旧作業の手伝いを申し出ただけではなかった。集合待ちの間、魔獣ハンターの誰かがこんなことを言い出したのだ。


「考えたんだけど、もう昼もずっと門を閉めときゃよくね?」

「それじゃ、外から誰も入れねーだろ」


 別の誰かがすかさず指摘し、どっと笑い声が上がる。けれども、言い出したハンターは真剣な表情で続けた。


「だから、通用口を別に作っとくんだよ。門だとかんぬきを閉めない限り、魔獣が体当たりで開けちまうけどさ。扉や引き戸なら、やつらは開けられないじゃん? どうかな」


 なるほど、と私は思った。「いいかもしれないな」と同意する声が、あちこちから聞こえる。ライナスも、あごに手を当ててうなずいていた。

 ジムさんはライナスに目顔で何か合図してから、静かに集合待ちの輪から離れ、宿屋に入って行く。何だろう、と不思議に思っていると、しばらくしてから戻ってきた。そしてライナスに声をかける。


「宿屋の主人に確認してきた。できるなら、通用口を作って門を閉めたいってさ。門の修理用に資材は調達済みだそうだから、うまくすれば通用口まで作れるかもしれない」


 ジムさんの報告を聞いて、魔獣ハンターたちから歓声が上がった。


「採用されたぜ!」

「やるな、お前」


 拳を突き合わせて喜んでいる。

 そうこうするうちに、全員がそろった。ライナスが分担を告げる。


「マイクとイーデンのチームは、村の内部の修繕と、畑の復旧を頼む」


 兵士と研究者チームが、村の中の担当ということだ。兵士はともかく、研究者チームが村の中の担当なのは自然な流れだと思う。魔獣がうろつく門付近より、内部の仕事のほうが向いているのは間違いない。


「それ以外は、二手にわかれて門の修繕に当たってくれ。ジュードは西、有志のみんなは東の門をお願いしたい」


 有志の中には、大工の息子がひとりいた。魔獣ハンターを始める前に、親からひととおり大工仕事も仕込まれたそうだ。これは集合待ちの間の雑談の中で、さりげなくジムさんが聞き出していた。

 この人には、門の修繕と、通用門の製作を指導してもらうことになった。


 そしてもちろん、私とヒュー博士は結界付与だ。

 私は結界付与魔法を覚えてはいるものの、実はほとんど使ったことがない。誰にも教わっていないから、自己流なのだ。唯一、付与したことがあるのは、自宅の玄関と窓だけ。ちゃんと付与できているのか、正直、自信がなかった。


 作業を始める前に、ヒュー博士から手ほどきを受ける。どうやら私のやり方は、自己流ではあるものの、間違ってはいなかったらしい。ただ作業効率が悪かっただけで。博士に教わった方法なら、無駄なく次々と付与することができた。


 結界付与の魔法自体は、実は補助魔法の中では初級に分類されている。

 初級の魔法なので、必要となる魔力はとても少ない。でもその代わり、付与できる範囲も小さかった。そして残念ながら結界付与には、上位魔法が存在しない。ということはつまり、広い面積に結界を付与しようとすると、ひたすら地道に付与し続ける必要があるのだ。


 修繕組がわいわいと賑やかに作業しているのを横目に、私とヒュー博士は黙々と塀に結界を付与し続ける。悲しいくらいに単純作業だ。西の門から始めて南回りに作業し、昼頃にちょうど東の門にたどりついた。門の脇に、通用口の扉が取り付けられている。

 門と通用口には、特に念入りに結界を付与した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
▼ 異世界恋愛 ▼
逆襲の花嫁

▼ ハイファンタジー+異世界恋愛 ▼
魔王の右腕は、拾った聖女を飼い殺す

▼ ハイファンタジー ▼
代理の王さま
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ