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魔王討伐から凱旋した幼馴染みの勇者に捨てられた私のその後の話  作者: 海野宵人
第二章 調査

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19 襲撃された大神殿 (1)

 王都を発ってから早くもひと月以上が経過し、国境を超えて荒れ地に入った頃、伯父さまからとんでもない知らせがもたらされた。

 私は伯父さまへの別れのあいさつもそこそこに、急いでライナスのもとに戻って叫ぶ。


「ライ! 大変なことになった!」


 たぶん私は、すっかり顔色が変わって青ざめていたと思う。ライナスは「落ち着いて」と声をかけて、私をソファーに座らせた。正面で目を丸くしているジムさんを見たら、少しだけ頭が冷えた。

 私が腰を落ち着けて深呼吸をするのを待ってから、ライナスは尋ねた。


「何があったの?」

「魔王が消えた」

「は? どういうこと? 消えるも何も、封印されてるよね?」

「うん。封印水晶ごと消えたんですって」

「何だ、そりゃ……」


 うん。わかる。何だそりゃって思うよね。私も思った。


「封印した水晶って、どこに置いてあったんだろう」

「いつ消えたの?」


 ライナスとジムさんは、口々に質問してくる。それに対して、私は順に答えた。


「封印水晶を保管していたのは王都の大神殿で、消えたのがいつかは不明です」


 伯父さまから聞いた話によると、封印水晶は大神殿の地下に保管されていたそうだ。神殿の関係者以外、立ち入ることのできない場所で、もちろん礼拝者の立ち入りは許可されない。儀式に使用する道具を保管する部屋の一角に、置かれていた。


 封印水晶が消えていることが発覚したのは、大神殿が魔獣の襲撃を受け、その被害の後始末をしているときのことだった。実は、私たち調査隊が王都を出発した後、王都は何度か魔獣の襲撃を受けていたと言うのだ。

 王都の中でも、外れに近い位置にある大神殿は、この魔獣の襲撃により壊滅的な被害を受けた。


 最初は、襲撃と呼ぶほどの規模ではなかったそうだ。

 小型の魔獣が、ちょこちょこと王都内に侵入するようになった。それまでは人間の居住地域にまで入り込むことなんて、よほどのことがない限りなかったのに。通常であれば、誰かが引きつれてくる以外には、魔獣が自分から人間の居住区域に入り込んでくることはない。

 だから最初のうちは、誰かが引き入れたのではないかと疑われた。


 けれども、もし引き入れた人が本当に存在するのだとしたら、魔獣を引きつれている現場を誰かしらが目撃していないとおかしい。だが、そんな目撃者はついぞ現れなかった。

 それに、誰かが引きつれてきたにしては、出現箇所が広範囲に及んでいて不自然でもあった。こうして、人為的に魔獣が引き入れられたという説は、否定されることになる。


 いずれにせよ、このときの被害の程度は、比較的軽微だった。というのも、王都のそこかしこに出没したのは、小型の魔獣の中でも特に小型の、ネズミ型の魔獣だったからだ。決して害がないわけではないけれども、他の魔獣に比べると弱いし、攻撃的でもない。それでも倉庫や食料庫を荒らされて、王都全体で見ると、金銭的な被害はかなりの額にのぼったようだ。

 子どもでも倒せるくらいに弱い魔獣ではあるものの、逃げ足は速いし、小さくて捕まえづらいし、駆除には苦戦したそうだ。


 その次に現れたのは、中型の魔獣。

 何でも、王都の外から群れをなして入り込んできたらしい。まるで中心部を目指すかのようになだれ込んできたので、市民は大混乱に陥った。人々は家の中に避難して、魔獣がいなくなるのを待つしかできない。


 王家からは兵を出し、魔獣の駆除にあたる。大神殿からも神殿騎士を派遣して、駆除の支援をした。でも、これが裏目に出た。王都内の戦力が総出で中心部の魔獣駆除にあたった結果、王都の周辺部が手薄になってしまったのだ。

 駆除が終わらないうちに、大神殿が大型魔獣に襲撃された。にもかかわらず、神殿騎士はいない。神官だけでは手も足も出ず、ただ逃げ惑うばかりだったそうだ。


 襲撃を受けたのが昼の時間帯だったのも、被害が大きくなった一因だ。礼拝の人たちを迎え入れるために、入り口の扉は大きく開け放たれていた。おかげで大型の魔獣も入り込み放題だった。


 中心部の魔獣駆除が終わり、神殿騎士が大神殿に戻った頃には、すでに半壊というより全壊に近い状態となっていた。逃げ遅れて犠牲になった神官も、少なくない。

 ようやく大型魔獣が討伐されたのは、状況を知らされた王家から兵が派遣されてからのことだった。


 何とかすべての魔獣の駆除を終え、神殿内を片づけていくうちに、封印水晶が消えていることに気づいたというわけだ。最後に封印水晶が目撃されたのがいつなのかは、大神殿の関係者に犠牲が多すぎて、判然としないらしい。何でも、封印水晶を目にするような立場の人が、のきなみ犠牲になってしまったと言うのだ。


 私が伯父さまから聞いてきた話を伝え終わると、ジムさんは両腕を組んで深くため息をついた。


「あれがこうなるとはなあ」

「え? 何かご存じだったんですか?」

「ああ。ネズミ型の魔獣が出た件は、聞いてたんだ。でもまさか、その後にさらにこんなことが起きるとは、予想もしていなかったよ」


 ジムさんは、この件は私たち調査隊には何の関わりもないことと判断して、あえて知らせていなかった。それなりに被害があったとはいえ、主に金銭的な被害だ。人的被害はほぼなかった上、数日内に収束したので、そこまで問題視していなかった。だから、わざわざ隊員たちに知らせることもしなかったのだそうだ。


 けれども、今回の件はそれとは違う。

 被害の程度が大きいし、魔王を封印した水晶の紛失という、とんでもない事件も同時に起きている。調査隊の任務に直接影響があるとは今のところまだ言えないものの、大きな事件であることには違いない。

 途方に暮れた私は、ライナスに尋ねた。


「この話、どうする?」

「どうするって、どういう意味?」

「隊員たちに話す? それとも伏せとく?」

「うーん……」


 ライナスも判断しかねた様子でうなり、考え込んでしまった。

 魔王を封印した水晶が消えてしまったなんて、とんでもなく重大な事件ではある。でも、それを公表して人々を不安に落とすのと、秘密裏に解決策を探すのと、どちらがよいのか、私にはとても判断がつかない。

 悩む私たちとは対照的に、この件に関してジムさんは、あっけらかんと結論を出した。


「もちろん話すよ」


 あ、そうなの?

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