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魔王討伐から凱旋した幼馴染みの勇者に捨てられた私のその後の話  作者: 海野宵人
第二章 調査

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17 魔獣の分布変化 (2)

 伯父さまからの報告書には、国内の情報しかない。

 というのも、薬師ギルドを使って情報を集めたからだ。


 魔獣ハンターギルドなら国外の情報収集も依頼できただろうが、薬師ギルドのほうが手軽かつ安価なのだ。同じように「ギルド」と名前がついていても、薬師ギルドと魔獣ハンターギルドには大きな違いがある。


 薬師ギルドは、国内組織だ。

 だから王権の支配下にあり、国から命令があれば、それに従う。


 一方、魔獣ハンターギルドは、国をまたがった組織だ。

 したがって国家権力からは独立した存在である。もちろん、それぞれの国の法律には従う義務があるが、それを超えて命令することは、王といえども不可能だ。依頼ならできる。でも命令はできない。

 魔獣ハンターギルドなら、国外の魔獣分布に関しても調査をできるだろう。でも、あくまで依頼として受けるだけなので、すべての費用に加えて依頼料がかかり、とても高くつくだろうことが容易に想像できる。


 そんなわけで、伯父さまからの情報は国内限定なのだった。

 でも、私たちが向かっているのは、魔王城だ。魔王城のある荒れ地は、どこの国の領土でもない。だから薬師ギルドも存在せず、何の情報も入ってきていなかった。


 ただし、予想はつく。ものすごく嫌な予想が。

 伯父さまからいただいた資料によれば、王都から離れるほどに被害の程度が大きくなっている。ということは、つまり魔王城に近いほど魔獣の増加が著しいということだ。

 荒れ地はどうなっているのだろう。最果ての村は、大丈夫かな。


 翌日の朝食の席で、ジムさんは隊員たちに声をかけた。


「昨日、我が国での調査結果が出たよ」


 誰もが知りたがっていた情報なので、ピタリと話し声がやんで、食卓はしんと静まりかえる。


「局所的に増加が見られる以外は、基本的に変化がなかった」


 続けてジムさんは、魔獣の増減について概要を話し、今回の魔獣被害を非常災害に認定したことや、被害のあった地域への特別支援を行うことを説明した。

 国外参加チームの人たちは、一様にホッとしている様子だ。報告内容から考えて、おそらく彼らの母国には被害が出ていないと予想できるからだろう。


「減った地域は、何か特徴はあるのかな?」

「無作為な感じだねえ。全体的にポロポロと減ってる。ああ、食事が終わったら地図を見せるよ」

「お願いします」


 ジムさんが隊員たちの質疑に答えている間、ライナスは何か考え込むような顔をしたまま、静かに食事をすすめていた。何だろうと気にはなるものの、彼の気を散らしたくないので、私も静かに食事をする。


 いつもなら食後すぐ出発するところ、今日は少し時間を空けることにした。

 国外チームが国もとに連絡する時間をとるためだ。


 私とライナスは、集合時間まで部屋で休むことにした。

 二人きりになるのを待って、ライナスに尋ねてみる。


「ライ、どうしたの?」

「何が?」

「さっきから難しい顔をしてるから」

「ああ。面倒くさいことになりそうだなあ、と思ってさ」


 面倒くさいこと? たとえば、どんなことだろう。私がきょとんとしていると、ライナスは口もとに苦笑を浮かべた。


「この先、魔獣の数が増えたり、もっと大型のが出てくるようになるなら、連れていけないのが何人かいる」

「ああ、そういうことね」


 戦闘が激しくなればなるほど、戦力にならない人は足手まといになる。それを言っちゃうと、私も割と微妙な存在のような気がするけど。ただ、まあ、補助魔法があるから、目こぼしされている感じ。攻撃力が全然なくても、戦力のうちに数えてもらえている。

 その点、ヒュー博士は補助魔法を駆使した上で、戦闘力もそこそこある。学者なのに。


 足手まといになりそうなのは、主に国内参加の研究者チームだ。研究助手が戦力にならないのは言わずもがな、魔獣ハンターたちも国外参加のハンターたちに比べると、戦力的にはかなり見劣りする。と言うのも、国内参加の魔獣ハンターたちは、貴族の子弟ばかりなのだ。


 貴族の子弟は、片手間に魔獣ハンターとして活動することがある。たとえばご領主さまや、ライナスのお兄さまのように。

 領内で魔獣の被害があったとき、魔獣ギルドに依頼を出して討伐を待っていると、どうしたって時間がかかる。だから領民を守るために、緊急時には領主自らが動けるよう、資格をとっておくのだ。


 別にギルド員でなくても、魔獣を狩ることはできる。ただ、資格を持っていないと、ギルドの設備や情報を利用できない上、素材の取り引きでも足もとを見られがちだ。それで、領地で魔獣駆除に参加することのある貴族は、一応、魔獣ハンターとして登録しておくことが多い。

 今回、国内から研究者たちの代理で参加している魔獣ハンターたちは、そうした貴族の子弟が中心だった。


 片手間だろうと魔獣を狩った経験があるから、ライナスの出した「初級の魔獣ハンター程度の戦闘力と生活力」という条件は満たしている。でも、ハンターとして身を立てていけるほどの戦闘力はない。イーデンだけは魔獣ハンターを生業としているらしいが、それ以外は全員、ハンター稼業はあくまで片手間の人たちだ。

 魔獣ハンターとしては初級に毛が生えた程度の実力でも、貴族だから馬には乗れる。そして生粋の魔獣ハンターに比べて、書類仕事が得意だ。たぶん、そういう観点で選ばれた人たちなのだろうと思う。


 彼らは研究者の代理としては、とても優秀だ。でも大型の魔獣を前にすると、やはりどうしても戦力としては心もとない。というか、ほぼ戦力にならない。実際、旅の途中で大型の魔獣を狩るときには、この人たちに馬の番をお願いしている。


 ライナスが「連れていけないのが何人かいる」と言っているのは、彼らのことだろう。いつ、どこで別れることになるのか、そのとき馬をどうするのか、今のうち考えておかなくてはならない。ライナスの言う「面倒なこと」とは、そういうことだった。


「後で、ジムさんやリーダーたちと相談しましょうか」

「うん」


 このとき私もライナスも「何だか思ってたより大変なことになってきたなあ」と、先行きに漠然とした不安を感じ始めていた。

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