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魔王討伐から凱旋した幼馴染みの勇者に捨てられた私のその後の話  作者: 海野宵人
第二章 調査

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16 魔獣の分布変化 (1)

 三日目以降も、最初の二日と同じような日々が続いた。

 ただし、三日目からは少し旅のペースを上げた。小さな村は、昼の休憩で寄るだけにする。宿泊するのは、原則的には宿屋がある村。


 ペースを上げられたのは、回復魔法と補助魔法を常用できるとわかったおかげだ。補助魔法の「俊足」と回復魔法の「体力回復」を馬にかけてやると、通常の移動の三倍くらいの速度で移動ができる。


 もちろん、私ひとりでは無理だ。

 二十頭の馬に、二つの魔法を常にかけ続けるなんて、さすがに無理。でも、ヒュー博士が補助魔法を分担してくれることになった。回復魔法だけなら、余裕とまでは言わないけど、何とかなる。


 ただ、予定が変更になることは、少し心配だった。旅程に合わせて宿泊の手配をしてあったはずだから。そこで、定期連絡のために集まったときに、ジムさんに尋ねてみた。


「ジムさん、宿の予約は大丈夫なんですか?」

「うん。王都から変更かけてもらってるから、心配いらないよ」


 定期連絡で、手配の変更まで要請してあったらしい。

 ギルドとはまた別に、国は国で通信用の小鳥を持っているのだそうだ。


 移動速度が上がった分、魔獣と出くわす頻度も上がった。移動時間のうち三割から四割くらいは、魔獣の駆除にかけている気がする。その代わり、討伐の回数が増えるにつれて、連携の練度も上がった。おかげで討伐一回当たりにかかる時間が減っているから、討伐数が増えても、全体の時間はあまり変わっていない。


 魔獣狩りだけでなく、王都への定期連絡のやり方も定型化してきた。

 二日目でライナスに心配をかけてしまった反省から、原則的に王都からは五分以内に戻ることにした。短いようでいて、案外これで足りている。


 時間を計るために、伯父さまが五分の砂時計を用意してくださった。砂が落ちきったら時間切れ。たとえ用事が済んでいなくても、時間が切れたらライナスのところに戻る。必要であればその後、改めて伯父さまのところに転移することにした。

 二度手間にはなるけれども、逆にそれがよかった。そのおかげで、できるだけ一回で済むよう、事前にしっかりと報告書をまとめるようになったのだ。それに、必要に応じて往復の回数を増やすほうが、密な連絡ができる。


 五分以内で戻るとわかっているから、ジムさんもわざわざ自分の部屋へ戻らなくなった。部屋で時間をつぶして私を待ち、王都から持ち帰った情報を軽く共有してから部屋へ戻る、というのが習慣化した。


 そして王都を出発してちょうど一週間が経過したこの日、私は調査隊の誰もがとても知りたがっていた情報を持ち帰った。国内全域の魔物の出現状況だ。


「ただいま」

「おかえり。それは何?」


 出迎えたジムさんは、私が持ち帰った紙束を目にして、手を差し出してきた。


「お待ちかねの魔獣情報です」

「おお、どうなってるって?」

「それがね、どうも私たちの予想とは、全く食い違ってるみたいなんですよ」

「そうなの?」


 調査結果は、伯父さまが二部用意してくださった。そのうち一部をジムさんに渡し、もう一部をライナスと一緒に目を通す。魔獣の出現状況に変化があったかどうかが地域ごとに記載され、一覧になっている。


「なんだこれ。減ったところもあるのか」

「そうなんです。特に大型魔獣の変化が大きいみたいですね」


 私はテーブルの上に地図を広げてみせる。これは一覧とはまた別に、魔獣の増減を地図上に色分けで示したものだ。


「一覧より地図のほうがわかりやすいんですけど、ここを見てください」


 魔獣が増えたと報告のあった村を赤色で、減ったと報告のあった村を青色、変化なしと報告のあった村を黄色で示してある。私たちは国内全土が赤色で染まるだろうと予想していたのに、調査の結果、ほとんどが黄色だった。黄色の中に、ちらほらと青が混じる。


 もちろん、私たちが自分たちの目で実際に見てきたように、魔獣の増えた地域もある。でもそれは、とても限定的だった。驚いたことに、まるで私たちの旅路を待ち伏せしているかのように、ほぼ経路に沿って増えているのだ。


 ジムさんは難しい顔をして地図と一覧をにらんでいたが、やがて気を取り直したように封筒から手紙を取り出した。私が書類と一緒に手渡した、王宮からの手紙だ。


「今回の魔獣被害を、非常災害に認定したってさ」


 読み終わった手紙を、ジムさんは封筒に戻さずにテーブルの上に放り出した。これって、機密文書じゃないの? そう思って見ないようにしていたら、にこやかに「読んでいいよ」と言われた。

 許可が出たので読んでみたものの、何だか小難しい言い回しが多くて、今ひとつ概要がわからない。


「非常災害に認定されると、どうなるんですか?」

「国から特別支援をすることになるね」


 特別支援って、何だろう。ライナスと顔を見合わせていると、ジムさんが説明してくれた。


「具体的に言うと、討伐のために軍を動かしたり、被災地に支援物資を届けたりするってことだよ」

「なるほど」

「今回の調査のおかげで被災地が絞り込めたから、いろいろと手が打ちやすくなった」


 国から派遣するだけでなく、被災地を抱えた領主も兵を動かすことになるそうだ。

 さらに軍を動かすのと並行して、魔獣ハンターギルドにも魔獣の分布に変化があったことを通達してもらっている。そして期間限定で、ギルドに対していくらか国から補助金を出す。被災地で魔獣を狩った者には、その補助金を上乗せしてギルド報酬に色をつけるのだと言う。


 近隣にいる魔獣ハンターの中で腕に覚えのある者が、割増しの報酬を目当てに集まってくることを期待している。あまり遠くからだと旅費で相殺されてしまうくらいの、絶妙な設定だ。

 近隣からしか集めないのは、もともと大型魔獣の出る地域からハンターが減っても困るから。もともとそちらで活動している者は、そのまま活動してもらいたい。でも近隣でのんびり過ごしているベテランたちがいれば、報酬で釣ってでも働いてほしい、というわけ。


 すっかり施策に感心してしまったけど、これから私たちが向かう先は、その施策の恩恵を得ることのできない地域なのだった。

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