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魔王討伐から凱旋した幼馴染みの勇者に捨てられた私のその後の話  作者: 海野宵人
第二章 調査

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10 最初の宿泊地 (5)

 翌朝、早めの朝食を済ませて、荷物をまとめる。

 出発できる支度をして、ジムさんとライナスと一緒に村長に別れのあいさつをしに行くと、二人の男性を紹介された。


「案内は、こちらの者に頼みました」


 どちらも日焼けしていて、ひとりはがっしりして大柄な壮年の男性、もうひとりは中肉中背の青年だ。私たちと顔を合わせると、二人とも深々と頭を下げた。


「昨日はポーションを、ありがとうございました」

「まともに動けるようにきちんと治って、本当に感謝しています」


 この感謝の言葉に、私は目をむいた。ちょっと待って。

 この人たちは、昨日のポーションを使った人たちってこと? なんで回復したばかりで、案内なんかしようとしてるの? いくら上級回復ポーションを使ったと言っても、あれは単にけがを治すだけのものだ。体力まで回復したわけじゃないんだから、ちゃんと休んでないとだめでしょ!


 瀕死の重傷を負ったなら、血だって相当失ってるはず。しっかり栄養をとりながら休んで、少しずつ日常に復帰してほしい。

 そう説得を試みたのに、二人とも頑として首を縦に振ろうとしない。


「ご心配ありがとうございます。でも、おかげさまで、ご覧のとおりすっかり元気です」

「案内するなら、魔獣に出くわした当事者が一番確実ですから」


 困り果ててジムさんとライナスのほうを振り向くと、二人とも肩をすくめて首を横に振った。ライナスは困ったような顔をしながらも、村人たちの肩を持った。


「見たところどちらも顔色は悪くないから、本人が大丈夫と言うならお願いしてもいいんじゃないかな」


 確かに顔色は悪くない。後遺症が残っている様子もない。

 一応、念のため、けがの状況を聞き出した上で、本当に後遺症がないかを確認した。どうやら、けがをしてからまだほんの数日しか経っていないことが、幸いしたようだ。そのおかげできれいに治ったらしい。よかった。


 だからこれ以上、反対するのはやめることにした。

 だって魔獣に遭遇した人に案内してもらうのが、一番確実なのは間違いないから。


 出発前から案内人にびっくりさせられたけど、集合場所には、さらなる想定外の事象が待ち受けていた。南口でたむろしている人数が、妙に多いのだ。兵士チームにしか声をかけていないから、全員でも六名のはずなのに、明らかにその倍以上の人数がいる。なんで?


 近づいてみて、理由がわかった。

 研究者チームも、国外チームも、全員が勢ぞろいしているのだ。

 いぶかしそうに視線を向けてくるライナスに、私は全力で首を横に振った。断じて伝言ミスではない。だって、間違いなくちゃんと「研究者チームはお留守番」と伝言したもの。

 ジムさんのほうを見ると、困ったように首をかしげていた。


「おかしいな。終わったら知らせるから、それまで村で待っててって伝えたんだけど」

「私もですよ」


 集合場所まで歩いてから、ジムさんは研究者たちに声をかけた。


「わざわざ見送りに来てくれたんですか?」

「まさか。見送りのわけがありませんよ」


 ジムさんの問いに笑って答えたのは、ヒュー博士だ。見送りのつもりがないのは、見ればわかる。だって、全員、馬の手綱を引いているから。誰の目にも明らかに、一緒に討伐に行く気満々だ。

 一方で、私たちは徒歩で出かける予定でいた。人数的に考えて、馬の番をする要員を割く余裕がないからだ。


 ジムさんは戸惑ったように言葉を返す。


「村で待っていてくださいと、伝えたはずですが……」

「こういうことは、手が多いほうが安全でしょう。希望者だけ来るよう伝えたら、全員来てしまいました」

「でも、これは我が国の問題であって、調査とは別件ですから」

「いやいや。魔獣の分布に変化があったってことでしょう? つまりこの討伐は、今回の調査の延長線上の話なわけですよ。私たちも、調査に参加させてください」


 こうまで言われては、もうジムさんには国外チームを断るなんてできようはずもない。

 さて、それでは国内の研究者チームは、どうしたものだろう。チームリーダーのイーデンに尋ねてみようとしたら、私が口を開く前に、彼のほうから話しかけてきた。


「馬の番も必要でしょ。まさか、歩いていくつもりじゃありませんよね?」


 まさに、その「まさか」なんだけど。

 歩いていくつもりだった私たちは、返事に詰まって顔を見合わせた。


 目が合うと、ライナスは諦めたように力の抜けた笑いをこぼしてから、大きく手を打ち鳴らした。


「馬を連れてきてない人は、馬を連れて来よう! すでに馬連れの人には申し訳ないけど、もう少しここで待ってて」


 こうして結局、全員で出発することになった。

 案内の村人たちは馬を持っていないので、兵士の馬に同乗する。


 戦力が倍増したおかげで、魔獣の討伐はとても円滑に進んだ。

 実を言うと、国内の兵士チーム六名より、国外チームの魔獣ハンター四名のほうが、魔獣討伐においては戦力が上だったりする。なぜなら魔獣ハンターは、装備が魔獣狩りに特化しているからだ。

 一方で兵士たちの装備は、どちらかというと対人戦向きだ。特に武器に違いが出ると聞く。魔物の種類によって器用にいくつもの武器を使い分ける魔獣ハンターとは違い、兵士たちは基本的に武器はひとつしか持ち歩かない。ただし攻撃力では魔獣ハンターに劣る反面、防御面では兵士たちのほうが優れている。


 もっとも、身も蓋もないことを言ってしまうと、兵士と魔獣ハンター全員を束にしたよりもさらに、戦力だけならライナスひとりのほうが高かったりする。でも彼は、少なくとも今のところは、人目のある場所ではスキルの使用を控えていて、全力が出せる状態ではない。だから主に同行者を守るという意味で、兵士や魔獣ハンターたちの存在を頼りにしていた。


 クマ型の魔獣は、村人の案内どおりの場所に見つかり、つつがなく駆除を完了した。それ以外にも中型と小型の群れを、目につく限り狩り尽くした。というか、目視が難しいものまで含め、ライナスが見つけたものを根こそぎ始末した。

 王都からの道中でも感じたことだけど、少々数が多いような気がする。以前は、こんなにいなかったと思うのに。


 すべて狩り終わった後は、案内役の村人たちを村に送り届けてから、私たちは次の目的地へ向かう。村人を降ろしただけで、すぐに出発だ。

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