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魔王討伐から凱旋した幼馴染みの勇者に捨てられた私のその後の話  作者: 海野宵人
第二章 調査

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02 壮行会 (1)

 出発の一週間前から、ぽつぽつと外国からの隊員が集まってくる。

 主催国である我が国を除くと、隊員が一名の国と、二名の国がちょうど半々だ。全員がそろったのは、出発の三日前。


 この日に顔合わせがてら、王宮で壮行会が開かれた。

 面倒くさい貴族のお歴々には、この壮行会への参加はご遠慮いただいている。だから基本的に、関係者しかいない。壮行会の名目で夜会を開かれるのはライナスが嫌がったし、私も嫌だ。ただでもいろいろと忙しくて疲れているのに、出発前の無駄な精神的疲労は避けたい。


 壮行会は、まず隊員たちの自己紹介から始まった。

 最初は、主催国の隊員から。というわけで、隊長ライナスが先陣を切る。


「隊長のライナス・ローデンです。こちらは妻のフィミア」


 そう、私たちはローデンの家名を名乗っている。

 結婚式の場で、正式にローデン家の跡継ぎとして公表されたからだ。私がローデンの家名を名乗ることにしたので、伴侶であるライナスも同じ家名を名乗っている。


 二人並んであいさつをすると、なぜか外国勢の間に小さなどよめきが広がった。いったい何だろうか。不思議に思ってライナスのほうを振り向くと、彼は小さく首を横に振って肩をすくめた。ライナスにもわからないらしい。


「名ばかりの隊長ですので、面倒くさい話はすべて副隊長の王弟殿下へお願いします」

「あー、うん。ただいま紹介のあったとおり、雑用係のジムです」


 しれっと臆面もなく責任丸投げを宣言してのけたライナスに、ジムさんは苦笑を隠さない。苦労人な王子さまは諦めたようにため息をついて、ライナスに続けてあいさつをした。

 呆れた私は、ライナスの脇腹にひじ鉄を入れてやった。けれども、どこ吹く風とばかりにすました顔をしている。


「魔獣討伐の指揮なら、もちろんやるよ。でも外交が関わりそうな面倒な話は、俺に持ってこられても対処できないからさ」

「まあ、確かに」


 耳もとでささやかれた言い訳は、納得できる内容ではある。胸を張って言うことじゃないけど。

 ジムさんに続いて、国内勢が自己紹介を始めた。それを眺めていると、なぜかときおりどこからともなく強い視線を感じる。誰に見られているのだろうかと首をかしげていると、ライナスがまた耳もとでささやいた。


「あっちの人、おじさんに似てない?」

「え?」


 ライナスがチラリと視線を向けた先は、外国勢の中の、最年長の隊員だった。私もそちらへ、チラッとだけ視線を向けてみる。父よりも背が高く、どちらかというと細身だった父とは違って、体つきは比較的がっしりしていた。でも言われてみれば確かに、父に容貌が似ているような気がしないでもない。とはいえ、見るからにそっくりというほどでもない。

 視線を戻す前に、目が合ってしまった。気まずい。でもおかげで、さきほどからときおり感じていた視線が、この人のものだったらしいことがわかった。


 国内勢の自己紹介が終わり、続いて外国勢の自己紹介が始まる。

 外国から派遣されてきた隊員たちは、あまり学者っぽく見えない人が多い。自己紹介を聞いてみれば、実際に学者じゃない人が多かった。どの国も、隊員のうち一名は必ず魔獣ハンターだと聞いて、びっくりだ。学者や助手が入っているのは、隊員を二名出している国だけ。

 どうやらライナスの出した三つ目の条件「初級の魔獣ハンター程度の戦闘力と生活力を持つこと」を満たすための策らしい。


 この魔獣ハンターたちは、それぞれの国に雇われている。そして、それぞれの国の研究者たちから、調査の依頼を受けているのだそうだ。この人たちの任務は代理調査することだから、戦闘力は二の次。調査能力の高い人が選ばれている。

 とはいえ腐っても魔獣ハンターだから、「初級の魔獣ハンター程度の戦闘力と生活力」という条件は余裕で満たしているわけだ。


 それに、考えてみたら、隊員として魔獣ハンターが派遣されてくるというのは、とても理にかなっているような気がする。だって、どの国も本当に気になっているのは、魔王城そのものではなくて、魔獣の動向だ。魔獣について調査したいなら、魔獣ハンターが一番の適任に違いない。


 国外から隊員として派遣された魔獣ハンターたちは、全員が二十代だった。二十代半ばから後半にかけての年齢層なので、私とライナスよりは上だけれども、国内の隊員に比べると歳が近い。

 魔獣ハンターとしては、年齢から察するに熟練というよりは中堅どころのようだ。それでも初級の魔獣ハンターに比べたら戦闘力は雲泥の差だから、道中はだいぶ楽になりそうだ。戦闘員として動ける人の割合が、最初に思っていたよりもずっと多い。


 外国勢の自己紹介が続き、最後が私と目が合った例の人だった。


「ヒューバート・セネットです。魔獣の素材利用の研究をしています」


 やはり一番の年長者だけあって、魔獣ハンターではなく研究者だった。それも助手ではなく、研究者本人のようだ。もしかしたら、その分野では名の知れた人なのかもしれない。


 ひととおり自己紹介が終わり、主催国として国王陛下からあいさつと激励の言葉をいただいた後は、歓談の時間となった。私とライナスは、あっという間に外国勢の魔獣ハンターたちに取り囲まれる。


「勇者どのは、既婚者だったんですね」

「ローデンっていうと、あのローデン家のことですか?」

「もしかして、奥さまが聖女さまですか?」


 口々に話しかけられ、ライナスも私も目を白黒させる。

 一斉に話しかけられて混乱する私とライナスを見て、魔獣ハンターたちは互いに顔を見合わせてから笑い声を上げ、「失礼しました」と私たちに謝罪した。その中で一番年長に見える人が、他の三人に目配せしてから口を開く。


「一度に話しかけられても、困りますよね。順番にいきましょう。そちらのかたからどうぞ」


 どの人もとても人懐こく、社交性が高そうだ。「十分な協調性」という条件を満たした人材なだけのことはある。

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