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魔王討伐から凱旋した幼馴染みの勇者に捨てられた私のその後の話  作者: 海野宵人
第一章 帰還

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27 裁きの天使 (4)

 父は光の柱の中に浮いたまま、「兄さん、久しぶり」と伯父さまに声をかけたそうだ。


「ウィリアムなのか」

「うん。家のことを全部投げ出した挙げ句、ずっと連絡もせずにいてごめん」

「それはいい。お前はそうするしかなかったのだから。それより、死んでしまったと聞いたが本当なのか?」

「本当だよ。だからこうして天の遣いに選ばれたんだ」


 予定外の出来事に呆然としている伯父さまを前に、父は「結局あの人に殺されたようなものだな」とつぶやいてから続けた。


「でも今は、そんなことよりもっと大事なことを頼みに来た」

「私たちの娘と、その伴侶の保護をお願いします」

「あの子たちには失敗できない使命があるんだ。よろしく頼みます」


 父と母は、伯父さまに向かって口々に私たちの保護を要請した。

 それに対して伯父さまが「まかせなさい」と返事をした途端、光の柱がさらにひときわ光り輝いたと思ったら、父と母の間に年端もいかない少年が立っていた。少年は両親の手を取って引っ張りながら、声を張り上げた。


「はい、おしまい! お父さん、お母さん、もう時間切れだって。おしまいだよ、帰ろう!」

「わかったよ、ティモシー。それじゃ兄さん、頼んだよ!」


 父は苦笑いしながら少年の頭をなで、三人は手をつないだまま光の柱の中を通って天に還って行ったのだそうだ。


 この光景の目撃者は、伯父さまと案内の侍従だけではなかった。何しろ両親たちが現れたのは、王太子さまの居室のすぐ前でのことだ。王宮内で働く者たちの人通りもそれなりにあったし、王太子さまの居室からも何ごとかと扉を開けて外へ出てきた人々がいた。そこには王太子さまご自身も含まれる。

 両親が天から降りてきたときに通った光の柱の一部は王太子さまの居室の内部にもかかっていたため、常識から考えてあり得ない現象を目にして、室内にいた人たちはギョッとして部屋から飛び出したらしい。


 伯父さまが両親と話している間は固唾をのんで見守っていた人々も、両親が天に還っていくのを見届けた後は騒然となった。王太子さまがその騒ぎを治めた後、伯父さまはもともとの用事だった王さまの病状報告をして、辞去して馬車止めまでやって来た。

 そこへ忽然としてライナスと私が現れた、というわけだった。


 伯父さまの話を聞き終わったライナスと私は、顔を見合わせた。

 伯父さまと話したのは、私たちではない。ならば、本物の両親だったということ……? 私は伯父さまに、最後に現れたという少年について尋ねてみた。


「ティモシーは、どんな子でした?」

「このくらいの身長で、子どもの頃のウィリアムとそっくりだったよ。暗めの金髪で、目の色は薄い青色だった」


 伯父さまは「このくらい」と言いながら胸のあたりの高さを手で示した。


「ティムだな」

「ティムっぽいわね」


 子どもの頃の父の姿を知らないから似ているかどうかは判断できないけれども、特徴を聞く限りは弟とよく似ている。本当に両親と弟だったのだろうか。もし、そうなら────。


「会いたかったな……」


 ぽつりと私がこぼすと、ライナスは軽く首をかしげ、少し思案してから口を開いた。


「ティムはともかく、おじさんとおばさんは俺たちのところにも来てたかもしれない」

「え、いつ?」

「んー」


 ライナスは難しい顔で、言葉を探すようにしてゆっくりと説明した。


「あそこで話してたときにさ、言おうと思ってもいない言葉が、ひとりでに自分の口から飛び出てきたことがなかった?」

「あったかも」

「俺もあった。あれ、おじさんたちが話してたんじゃないかな」


 言われてみれば、あまりライナスらしくないな、と思ったことがあった気がする。でもあのときは真似もうまいのかと感心しただけで、特に不思議にも思わなかった。


「それに、本の内容も不思議だった」

「どこが?」

「最初に集計値を読み上げてたけど、前に俺が中身をざっと確認したときにそんなものは書かれてなかったんだよ」

「うそ」


 ライナスの言葉を聞いて、私は本を開いてみた。

 それをライナスが横からのぞき込んで「やっぱりな」としたり顔でうなずくので、何が「やっぱり」なのかわからない私は眉根を寄せる。


「ほら、この字。おじさんの字だろ?」

「あれ。本当だ」


 ライナスに言われて筆跡をよく見てみれば、確かに父の字だった。見慣れた走り書きとは違って、ていねいに書かれた字だ。でも言われてみれば、父の筆跡に間違いなかった。走り書きでも父の字はきれいだったけれども、この本に書かれている字はまるで書き取りのお手本のように美しく整っていた。


 私たちが話しているのを正面の席に座って黙って聞いていた伯父さまは、「どれ」と身を乗り出して私の手もとの本をのぞき込んだ。手跡を確認すると、懐かしそうに目を細める。


「ああ、確かにウィリアムの字だ。几帳面そうなところは全然変わってないな。兄弟の中で一番きれいな字を書くのがあいつだったんだよ」


 伯父さまと二人で、本のページを繰りながらしんみりとしてしまった。

 ライナスは私と伯父さまの様子をしばらく黙って見ていたが、やがて言葉を続けた。


「ここへの転移も、おじさんたちだと思う。俺は何もしてないから」

「じゃあ『許すことができない』って言ってたのも、お父さんたちだったのかな」

「そうじゃないかな。俺も自分の口が言ってるのを聞きながら、なるほどって思ってたよ」


 私たちと王さまの間の詳しいやり取りまではご存じない伯父さまが怪訝な顔を見せたので、ライナスが会話内容を話して聞かせた。伯父さまは「そうか」と呆れたような笑みを浮かべた。


「今さら謝罪されてもな」

「そもそもその謝罪が口先だけでしたよ。後悔したとしても反省なんてしてませんね、あれは」


 私も伯父さまに苦々しく同意する。

 だけどたとえそうだとしても後悔させることができたのなら、まずまずの成果と言ってもよいような気がした。天からの手助けあっての成果ではあるけれども、望みうる限りの最上ではないだろうか。

 そんな感想を私が口にすると、ライナスがぼやいた。


「手助けするなら封印もしてくれればいいのに」

「してくれないから勇者がいるんでしょ」

「うん、そうだよね……」


 今回は聖剣の代わりに本を授けられた、ということなのじゃないかと思う。父や母が姿を現したのは、天からの支援としたら破格の大サービスだ。父は伯父さまに、私たちのことを「失敗できない使命がある」と言っていたそうだから、失敗させないための支援なのかもしれない。


 読むともなしに本のページをめくっていたら、はらりと小さなものがページの間から落ちた。

 足もとに落ちたそれを拾ってみると、押し花で作ったしおりだった。子どもの頃に母が作り方を教えてくれたしおりだ。押し花にされているのは「幸運」の花言葉を持つ、白い野花だった。

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