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魔王討伐から凱旋した幼馴染みの勇者に捨てられた私のその後の話  作者: 海野宵人
第三章 究明

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41 可動体の話 (2)

 これまでの勇者と聖女は、ほんの二、三人の仲間とともに旅していたものだ。勇者に擬態したところで、聖女と二人きりで接触する機会はなかなか訪れない。ところが今回は、数百人もの仲間を連れているという。


 そればかりか今回の勇者ライナスは、聖女グロリアーナを避けている。勇者に擬態さえすれば、聖女には接触し放題ではないか。


 今回の聖女ことグロリアーナ王女は、これまでの聖女の誰よりも美しく、純粋で、そして愚かだった。


 なんと彼女はこれまでの聖女たちと違い、勇者に擬態した私を、初回の接触時に見抜けなかったのだ。これならば封印水晶の奪取も簡単かに思われた。しかし、そううまくは事が運ばなかった。


「姫、安全のために封印水晶は現地まで預かりましょう」

「いいえ。気持ちはうれしく思います。ですがこれを持ち運ぶのも、わたくしのお役目なのです」


 愚かなグロリアーナ王女は、しかし、このことに関してだけは頑なだった。決して封印水晶を渡そうとしない。だから私は、何度も繰り返して接触を図った。親しくなれば油断も生まれるかと思ったのだ。だが、封印水晶は得られなかった。


 それでも私にとって、この接触は楽しいものだった。聖女の美しい容姿が気に入っていたし、愚かであっても裏表のないグロリアーナ王女の言葉は心地よかった。


 グロリアーナ王女の機嫌をとるために、私は彼女の言葉に異を唱えることはない。


「わたくし、結婚後は領地ではなく王都で暮らしたいわ」

「もちろん姫の望むように」


 グロリアーナ王女の中で、勇者ライナスとの結婚はすでに決定事項のようだった。だから私は、決して逆らうことなく話を合わせる。


 そして毎回、封印水晶を渡すよう説得を試みた。けれどもやはり、このことに関してだけはグロリアーナ王女は折れなかった。


「姫、やはり封印水晶は預かりましょう」

「ありがとう、でもお役目ですもの」

「封印水晶を持ったままでは、魔王に狙われはしないかと心配なのです」

「大丈夫。だって、あなたが守ってくださるのでしょう? 信じていてよ」


 結局は最後まで、グロリアーナ王女から封印水晶を得ることはかなわなかった。だから私は、「最果ての村」で最後の一手を講じておいた。


 村での会食のときに、聖女に真剣な表情でこう切り出す。


「姫、魔王戦でお願いしたいことがあります」

「まあ。何かしら?」

「封印するときには、必ずひとりで広間に入ってください」

「あら。聞いていた話と違うわ。隊長からは、護衛と一緒に行くようにと」


 勇者に擬態した私は首を振る。


「それは危険なのです」

「どうしてかしら」

「魔王を封印できるのは、天から加護を受けた聖女たる姫だけです。ただびとでしかない兵士と一緒では、失敗するかもしれません」

「それは困るわ!」


 私はうなずいて続ける。


「ですから、必ずひとりで広間に入ってください」

「わかりました。でも弱っていても魔王でしょう?」

「大丈夫です。封印するときには、やつは瀕死です」

「わたくしひとりで、本当に安全なのかしら」

「姫には指一本触れさせないと約束しましょう」

「そこまで言ってくださるなら、わたくしもひとりで入ると約束せねばなりませんね」


 そして聖女は、花がほころぶように美しい笑みを浮かべた。私が勝利を確信した瞬間だった。


 勇者戦では、私のもくろみどおりにことが進む。グロリアーナ王女は、首尾よく本物の勇者ライナスを封印してくれた。


 ずっと交流を重ねて機嫌をとってきた私と、交流を怠ったぶっきらぼうな本物とでは、グロリアーナ王女からの信頼は比ぶべくもない。当然の結果である。


 ところがこれまでと違い、私にとって、というか魔王本体にとってはひとつ困ったことがあった。グロリアーナ王女と結婚の約束をしてしまったことだ。これまでずっと使ってきた「結婚を約束した人がいる」という口実が、使えなくなってしまった。


 ここで無理矢理に行方をくらましたりしたら、素性さえ怪しまれる結果になる。さっさと魔王城に戻って、勇者戦で使い果たしたエネルギーを補給したいところだが、安全には代えられない。


 総合的に判断して、ほとぼりが冷めるまで、勇者になりすましたまま過ごすことにした。当然の流れとして、聖女と結婚することになる。


 しかしこれが「仕方なし」の判断だったのは、魔王本体にとってだけ。実のところ、私にしてみればこの判断は喜ばしかった。これまでずっと願ってきた「人間社会の中で暮らす」という望みがかなうのだ。しかも一緒に暮らすことになる相手は、私が好感を抱いたグロリアーナ王女だ。


 魔王城から王都へ行き、聖女との結婚式を迎えるまでが、私にとっての人生最良の時間だったと言ってよい。


 ところが結婚式の場で、私は不意打ちをくらう羽目になる。その場に、本物の勇者と聖女が現れたのだ。それも封印水晶を持って。なんとかだまし切ろうにも、本物の聖女からは「解除」魔法を使われてしまった。勇者戦の直後で弱体化した状態では、「姿写し」のスキルを使って変身し直すこともできない。


 想定外の事態に、なすすべもなかった。あえなく私は封印される。


 封印されながらも、その一瞬の間に、私はほとんど無意識の行動をとった。婚姻相手の王女を抱き込んだのだ。だって彼女は「死が二人を分かつまで共に生きる」と神殿で誓ってくれた。一緒に封印されてもいいはずだ。どうやらニセモノの聖女だったようだが、ニセモノの勇者とは似合いの夫婦だろう。


 こうして、私は封印された。

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