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魔王討伐から凱旋した幼馴染みの勇者に捨てられた私のその後の話  作者: 海野宵人
第一章 帰還

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03 魔王城、下層探索 (1)

 私とライナスが野営したのは、魔王城の内部ではなく、中庭のような場所だ。

 別に内部でもよかったのだけど、内部だと水場が見つからなかった。中庭なら小さな泉があり、馬を休ませたり食事の支度をするのに都合がよい。


 ライナスが魔王城で調べたがっていることは、主に三つある。

 ひとつは、魔獣がどのように生み出されているのか。

 次に、なぜ復活後の魔王は魔王城から離れないのか。

 最後に、魔王のスキルはどのようにして増えているのか。


 魔王城を調べればわかるとも限らないことだけれども、せっかくこの場にいるのだから調べてみても損はないだろう。


 朝食を終えた私たちは、魔王城の探索に出ることにした。

 馬は中庭に放牧しておく。便宜的に中庭とは呼んでいるが、およそ手入れらしい手入れがされている様子もなく、草が生い茂っているのだ。馬の餌にちょうどよい。水場もあることだし、私たち以外に人間は誰もいないから盗まれる心配もないし、置いていっても何も問題はないだろう。


 魔王城は、城と名前がついてはいても、あまりお城らしい場所ではなかった。

 小高い山の内部に縦横無尽に洞窟が張り巡らされているような、そんな場所だ。もぐらの王さまがお城を作ったら、こんな感じになるかもしれない。まるで迷路のようだった。

 さきほどの中庭は、山の中腹にある平地だ。いくつかの通路が、この中庭に通じていた。


 こんな場所をひとりでうろついたら、間違いなく迷って戻れなくなる。

 迷うことなくこの場所へ案内してくれたライナスには、感心してしまう。


「よくこんな場所に迷わず来られたわね」

「スキルのおかげ。頭の中に見取り図が浮かぶんだよね」


 ライナスがすっかり便利な案内人と化していた。

 私にはもちろんそんな便利なスキルはないから、ライナスと一緒に行動することにする。はぐれたら野垂れ死ぬ予感しかない。

 のんきにただ「便利だなあ」と感心していたが、ふと気になったことがありライナスに尋ねた。


「もしかして、王宮の見取り図も頭に浮かんだりするの?」

「どうだろう。試したことないや」

「そんなものがどこでも浮かぶなら、どれほど強固な要塞だって侵略し放題よね」

「ほんとだ」


 言われて初めて気がついた、と言わんばかりに目をまたたかせたライナスに、つい笑ってしまう。他人から向けられる悪意には敏感なくせに、自分では悪意を持った考え方をしないところがライナスらしい。


 この中庭には、全部で三つの扉が面していた。ライナスによれば、それぞれ別の階層につながっているそうだ。


 まずは下の階層を探索することにした。

 下の階層は、魔王城の入り口につながっている。


 迷路のような細い通路は、行き止まりが小部屋になっている場所が多く、何がしかの倉庫として使われているようだ。ライナスは小部屋に行き当たるたびに、ポケットから携帯用の石盤を取り出して何か書き付けていた。


 午前中を通路の探索に費やし、午後は通路の途中にあった大きな扉の先を調べることにした。

 どっしりとした両開きの大きな扉をライナスが開くと、その先に広がった光景に戸惑って、私は目を見張った。そこは、魔王城にはあまり似つかわしくない場所だった。

 図書室だ。


 円形の部屋の壁はすべて本棚となっていて、ぎっしりと本が詰まっている。

 天井全体が淡く光を発していて、部屋の中は洞窟の中とは思えないほど明るかった。まぶしいほどではなく、本を読むのに適したほどよい明るさだ。


 本が好きな私は、さっそく端から順に蔵書を調べ始めた。ライナスもそれに続く。

 ライナスは、こう見えて実は結構な読書家だ。

 私も本は割と読むほうだと思うけど、ライナスには遠く及ばない。何しろ本を読む速さが、私とはまるで違うのだ。ライナスがページを繰る速さは、私の二倍では済まないと思う。三倍か四倍くらいに速く感じる。本当に読んでいるのか、最初は疑わしく思ったほどだ。


 でも間違いなくちゃんと読んでいて、きちんと内容も頭に入っている。だから知りたいことや読みたいものがあるときには、ライナスに聞けばすぐに答えが返ってくる。とても便利だ。これだけ博識なら、たとえ勇者に選ばれなかったとしても、学者として十分に身を立てられたのじゃないかと思う。

 次男だと継ぐ家がないので、もしかしたら将来を考えて勉学に励んでいたのかもしれない。


 ライナスと私は、入り口の両脇からそれぞれ反対方向に向かって書棚に置かれた本を調べていった。ときどき振り向いて位置を確認すると、やはりライナスは進みが速い。別に競争しているわけではないのだから気にしなければよいのだけど、つい気になってしまう。


 ここの蔵書は、年代も言語も分野も、すべてにおいて幅広かった。古書としての価値が高そうな大昔の本もあるし、さまざまな国の本が取りそろえられている上、小説から事典まで、ありとあらゆる本が集められていた。

 言語別に仕分けられてはいないので、タイトルを追うだけでもなかなか骨が折れる。


 やっとひと区画分の確認が終わり、ライナスのほうを振り返ったら、いつの間にかもう全体の三分の一ほどの場所まで進んでいた。早い。早すぎる。

 私が手をとめて見ているのに気づいたのか、ライナスが振り返った。


「フィー! そろそろひと休みする?」

「うん」


 返事をしておきながら、ライナスとの進み具合の違いに呆然としていると、ライナスが声をかけてきた。


「どうしたの?」

「ねえ、どうしてライはそんなに速いの?」

「え? 何が?」

「文字を読むのがよ」

「そんなに速いかな」

「速いでしょ! 見てよ、この差!」


 自分の終わらせた一区画と、ライナスの終わらせた場所までの量の差を身振りで示す。明らかに三倍以上の差がある。


「自国語以外はすっ飛ばしたし、似たような本が多かったせいじゃない?」

「それはこっちも同じなんですけど……」


 試しにライナスが終わらせた棚を見に行ってみたけど、私の確認した棚と大差ない。棚の違いによる差ではないと、確信を持って言える。


「だったら、習慣の差かな」

「習慣?」

「俺は基本的に流し読みしかしないから、じっくり読むフィーのほうが時間かかるのは当たり前だと思うよ」


 そうだろうか。何か違う気がする。


 それはそれとして、ライナスが何だか社交的な言い回しを身につけていることに気づいてしまった。社交性に乏しいやつだと思っていたのに、いつの間にこんな話し方をするようになったのだろう。

 こんなふうに言われて私が反論したら、ただ絡んでるだけのようにしかならないじゃないか。こうなったらもう、ライナスの言葉で無理やり納得するしかない。いろいろな意味で釈然としなかった。

ライナス「もともと読書の動機が動機なので、必要に迫られて自然に読むのが速くなっていた。でも言えない」

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