表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔王討伐から凱旋した幼馴染みの勇者に捨てられた私のその後の話  作者: 海野宵人
第三章 究明

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

113/143

18 ボイクート首都

 シャーロンの王都を発った後、観光地と調査地点を経由しながらボイクート共和国に向かった。


 ジュードお薦めの観光地は、シャーロンの内海にある大きな島。


 確かにここは、景色がすばらしかった。シャーロンの王都とは、建築様式がまた少し違うのだ。家屋の壁が真っ白なところは一緒だけど、屋根の形と色が違う。


 この島の建物は、瓦ぶきではない。屋根まで漆喰だから、真っ白だ。でも屋根や壁の一部だけ、アクセントのように色を塗ってある建物も多い。不思議とアクセントに使う色は、示し合わせたかのように鮮やかな青だった。


 どこまでも続く乳白色の砂浜、ターコイズブルーの海。丘には真っ白な家並みと、アクセントの青い塗装。シャーロンの貴族たちの間で、人気の保養地なのだそうだ。


 アンバーも砂浜で大はしゃぎだった。小さなカニや、ヒトデを見つけては、じゃれつく。ただし、大波にさらわれたときだけは、ちょっと焦った。


 遠浅(とおあさ)だし、泳げるからと、目を離したのがいけなかった。大きな波が足もとまで打ち寄せてきたとき、ふとアンバーの姿を探したら、どこにもいなかったのだ。焦って見回したところ、浅瀬でチャプチャプと泳いでいるのを見つけた。これなら、放っておいても自力で戻ってくるだろう。


 ところが、その考えは甘かった。本人は必死に犬かきをして岸を目指している様子なのに、全く近づいて来ない。それどころか、逆にどんどん岸から離れて行く始末。何かがおかしい。


 アンバー自身もこわくなったらしい。やがて悲鳴のように、鳴き声を上げた。その間にも、沖へと流されて行く。


「ミャー! ミャー!」


 私が海のほうへ足を踏み出しかけたのを見て、ライナスも異変に気づいた。「俺が行く」と言ってザブザブと海に入り、すぐにアンバーを回収してくれた。


「たぶん、引き潮に流されたんだな」

「引き潮」


 私は目を見張った。だって潮の満ち引きの違いで流されることがあるなんて、思ってもみなかったから。


「俺もグイグイ足を引っ張られる感じがした」

「こわいわね……。アンバーを助けてくれて、ありがとう」


 ライナスにとっては膝くらいの水深でも、小さなアンバーなら溺れかねない。これに懲りたのか、アンバーはその後、波打ち際までしか行かなくなった。足もとまで波が打ち寄せると、あわてて逃げてくる。それはそれで、かわいかった。


 船旅には、ジュードが同行してくれた。驚いたことに、なんとリース王国に帰るまで船がチャーターされているからなのだと言う。ボイクートまでだと思っていたのに。


 だけどジュードは、なぜだかすまなそうな顔をしていた。


「アムリオンは殿下が手を回してくれたから何とかなるんだけど、ボイクートでは俺、貴族相手にはあまり役に立たないかもしれない。あらかじめ謝っとく、ごめん」


 レジナルド王子から船を融通していただいた件は、伯父さま経由でジムさんにも報告してある。あまりご厚意に甘えすぎるのもどうかと心配だったのだけど、ジムさんからは笑い飛ばされたと言う。


「ちゃんと相場のチャーター料金を支払ってるんだから、気にしなくていいよ」


 王族が所有する船舶をチャーターするのに、相場なんてあるのだろうか。むしろプレミアがついて青天井になりそうな気がする。でもジムさんに言わせれば、「遊ばせておくより、有効活用できるなら、そのほうがいいに決まってる」のだそうだ。


 ジムさんとレジナルド王子は、本当に仲がいいらしい。今回の件についても、二人の間でやり取りしていると伯父さまから聞いた。それを聞いて、やっと安心した。ジムさんが承知した上での話なら、きっと大丈夫だ。


 ボイクートへ向かう途中、シャーロンでのもう一か所の調査地点にも立ち寄った。やはり何も見つからなかった。


 ボイクート共和国では、ヒュー博士の家でお世話になることになっている。前もって日程を知らせておいたら、「よかったら泊まりにおいで」と言ってくれたのだ。それで、ジュードともどもお世話になることになった。


 完全に、田舎のおじさんちに泊まりに行くノリである。実際、伯父だし。泊まりに行く先は、別に田舎じゃないけど。


 ヒューバート・セネットと名乗っていると言うから、今でもセネット村に住んでいるのかと思いきや、現在は首都に家を構えているのだとか。研究者として大学に籍を置いているからだそうだ。なおボイクートは共和国のため、「王都」が存在しない。首都は、ただ「首都」と呼ばれている。


 ボイクートに到着し、船が係留されるのを待つ間、ライナスと私は甲板から岸を眺めていた。少し探しただけで、すぐにヒュー博士の姿が見つかる。隣には、調査隊に参加した魔獣ハンターの姿もある。アレックスと言う。


 ボイクートからは、博士とアレックスの二名が調査隊に参加していた。アレックスにも、博士のところに泊まる予定だという連絡だけしてある。まさか博士と一緒に出迎えに来てくれるとまでは思わなかった。


「ヒュー博士! アレックス!」


 呼びかけて笑顔で手を振ると、二人もこちらに気づいて手を振り返す。するとどうしたわけか、アレックスとは反対側の隣にいた人物までが、私たちに向かって手を振り始めた。でっぷりと肥え太った中年の男性。


 よくも悪くも、とても偉そうだ。しかも取り巻きがたくさんいる。


「ねえ、ライ。あれは誰かしら」

「さあ」


 ライナスは「さあ」と言いながらも、早くもうんざりした本音が声色に出ていた。私も気持ちは一緒。だって、どう考えても面倒ごとの予感しかないんだもの。


 さっきはヒュー博士たちの姿を見つけてはしゃぐあまり、見落としていたことがある。博士が私たちに向ける笑顔の中には、どこか疲れがにじんでいた。その疲労をもたらした元凶は、きっとあの偉そうな人に違いない。


 ジュードは「ボイクートではあまり手助けできない」と言っていたから、自分たちで何とかしなくては。気持ちを奮い立たせているところへ、船長が声をかけてきた。


「大変お待たせいたしました。到着です。こちらへどうぞ」


 タラップに向かって先導される。このとき、ふと思いついてアンバーをバスケットの中から抱き上げた。荷下ろしをしている水夫に声をかけ、バスケットを手渡す。


「これもお願いします」

「かしこまりました」


 水夫がバスケットを手にタラップを降りて行くのを、アンバーはじっと見ていた。この手をまた使うことになるかはわからないけど、打てる手を増やしておくのは悪くない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
▼ 異世界恋愛 ▼
逆襲の花嫁

▼ ハイファンタジー+異世界恋愛 ▼
魔王の右腕は、拾った聖女を飼い殺す

▼ ハイファンタジー ▼
代理の王さま
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ