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魔王討伐から凱旋した幼馴染みの勇者に捨てられた私のその後の話  作者: 海野宵人
第三章 究明

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05 逃げる仔猫と追うネズミ

 魔獣ハンターギルドを出た後、ライナスと私はギルドで教わった地点に向かった。仕事中のイーデンを邪魔するつもりはないので、魔獣は避ける。


 ギルドで教わった場所は、河にほど近い森の中だった。


 森とは言っても、人の手の入った森。東ダーケイアは森の国と呼ばれるほど林業が盛んだ。だから自然森林ではなくて、植林された森なのだ。間伐されているから、木が密集していない。枝打ちしてあるので、見通しもよい。おかげで歩きやすい。


 なお、間伐とは樹木を間引くことで、枝打ちとは余分な枝を切り落とすこと。木材にするための木なので、なるべくまっすぐで、節のない木を育てたい。そのために育成不良の木を間引いたり、下枝を切り落としたりするのだそうだ。


 だから東ダーケイアの森にある木は、どれも太い柱のようにまっすぐで、枝葉は高い場所にしかない。森なのに、あまり鬱蒼(うっそう)とはしていなかった。普段なら、馬で入ることもできる森らしい。


 でも今は、大型魔獣に出くわす可能性がある。念のため、ライナスに確認した。


「馬は置いていく?」

「うん。ちょっと危なくて、連れて行けないな」


 せっかく船から解放されたのに、かわいそうだけどお留守番だ。今回に限らず、この先もし船と徒歩が移動手段になるなら、馬は家に帰したほうがいいかもしれない。


 ライナスが先導し、後ろから付いていく。


 まるで後ろにも目が付いているかのように、ライナスは私に歩調を合わせてくれた。これと言って変わったものもなく、ただ森の景色が続いていく。


 しばらく歩き回っていると、遠くからドスンと鈍い音がした。ライナスは振り返って口の前に人差し指を立てる。なるべく足音を立てないよう、静かに後ろを付いていくと、やがて彼は足をとめた。


 そこは尾根から少し手前の場所だった。ライナスの後ろから、尾根の向こう側をのぞき込む。


 少し離れたところに、イーデンの姿が見えた。沢になっている場所で、イノシシ型の大型魔獣二体と戦っていた。イノシシ型の魔獣は攻撃力が高い。イーデンならソロでも狩れなくはないのだろうけど、見ていてハラハラする。つい、片方の魔獣に「速度低下」の弱化魔法を使ってしまった。


 さすがイーデンは一級魔獣ハンターだけあって、弱化魔法にはすぐ気づいたようだ。攻撃する手を休めることなく、辺りを見回す。そして私たちの姿を見つけると、武器を持ったまま片手を挙げてみせた。


 狩りの邪魔にならないよう、私たちは手を振り返してすぐにその場を離れた。


 その後も、しばらく周辺を歩き回る。やはり、特に変わったものは見つからなかった。手入れされた森がどこまでもただ続いているだけだ。


 宿屋で用意してくれたお弁当を食べ、午後もたっぷりと歩き回った末に、私は肩を落とした。


「何も見つからないわね」

「うん」


 実を言うと、ライナスも私も少しだけ期待していた。魔王城で見たヒイラギが、この付近のどこかにもあるのではないかと。いや、少しどころじゃなく、かなりの確信を持ってやって来ていた。


 だって、転移したとしか考えられないではないか。国をまたがって、あちこちで目撃情報が上がるなんて。だとすれば、目撃情報のあった付近に転移用のヒイラギがきっとあるはずだと考えたのだ。


 だけど、どれだけ歩き回っても、ヒイラギなんてどこにも見当たらなかった。


「とりあえず、今日はもう帰ろうか」

「うん」


 ライナスの提案にうなずき、村に向かって歩き出す。歩きながらも、未練がましく辺りを見回してはヒイラギを探してしまう。でも、見つからなかった。


 もっとも、ここみたいに植林された森の中にヒイラギがないのは、当たり前だとは思うのだけど。葉にトゲのあるヒイラギは、森の手入れをするには邪魔だろうから。見つけ次第に伐採していたとしても、少しも不思議はない。


 そう納得しても、がっかりした気持ちはぬぐえない。日が傾きつつある森の中を村に向かって歩きながら、ライナスも私も言葉少なだった。


 そんな中、小さい子どもの悲鳴のような声が聞こえた。


「ンギャーー!」


 いったい何ごと? 動転した私は、辺りを見回す。その隣でライナスは一点を見つめ、聖剣を抜いて構えた。


 ライナスの視線の先にあったのは、小さな獣の姿。こちらに向かって、一目散に駆けている。茶色っぽくフワフワしていて、ウサギよりも小さい。リスにしては足が遅い気がした。そしてその獣の正体に気づいた私は、驚きに目を見張った。


「え、仔猫?」


 仔猫はそのまま、私たちの目の前まで走って来た。そこで地面の上を()っていたツタに足を取られる。あっと思ったときには、仔猫はもんどり打ってコロコロと転がっていた。何とも言えずかわいくて、頬がゆるむ。


 人間に向かって走ってきたということは、人慣れしているのだろう。誰かに飼われていたのかな。起こしてやろうと、かがんで手を出す。でも私の手が届く前に、仔猫はもがいて自分で起き上がった。


 かと思うと私の腕に飛びつき、袖に爪を立てて四本の足で必死にしがみ付く。


 仔猫の反応に面くらっていると、ライナスは私の前に一歩踏み出し、硬い声で指示を出してきた。


「フィー、後ろによけて」

「うん」


 仔猫のほかにも、何かいるのだろうか。


 ライナスがにらんでいる方向を、後ろからのぞき込む。彼が何をにらんでいたのかわかると、気味の悪さにゾッとした。尾根の向こう側からは、黒っぽいネズミが大量に列をなして押し寄せてきていたのだ。

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