第7狐 「スマートフォン」
「木興爺、スマートフォンとはなんじゃ」
「おひい様、儂もそれぐらいは知っておりますぞ。スマートフォンとは人族の通信手段に使うからくりでございますぞ。人族は妖術が使えぬ故、そのようなからくりを使わねばならぬのです」
「ふむ。皆が言うには、それが無いと話にならぬそうじゃ」
「いやいや、おひい様には無用の物でございましょう」
「ならぬ。航太殿も手に入れると言われておった。あれが有れば四六時中航太殿とお話しが出来るのじゃろう」
「おひい様、これ以上航太殿と話されて何となされます」
「木興爺。それだけではないぞ。あれが無いと学校で仲間外れになるそうじゃ!」
「おひい様に限って、その様な事は起こりますまい」
「航太殿の仲間から外れてはならぬのじゃ。咲はおるかのう」
「はい、こちらに」
「咲よ、お主の分と合わせてスマートフォンを手に入れて参れ」
「承知致しました。明日の放課後に購入して参ります」
「頼んだぞよ」
翌日の放課後、華ちゃんと一緒に携帯ショップを訪ねたところ、偶然にも航太殿がいらしたのです。
美狐様が喜ばれると思い、航太殿と同じ機種のスマートフォンを契約。
その後、華ちゃんとファミレスでデザートを楽しんでいるうちに夜になってしまい、神社に帰り着いた時には、美狐様は航太殿の家に行かれた後でございました。
美狐様のお帰りを社務所にてお待ちする事に。
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「こむぎおいでー!」
飛びついて来たモフモフのこむぎを抱きしめて、ひとしきり顔を舐めさせてあげた。凄く懐いてくれて可愛い。
「ねえこむぎ、これは何だか分かるかい?」
こむぎは首を傾げている。まるで言葉が分かっているようだ。
本当に賢くて可愛いワンコだ。
「これはね、スマートフォンって言うんだよ」
「ケンケンケン!」
「こうやってやると、インターネットに繋がって……あれ? 圏外だ。お店の人はこのエリアは大丈夫だって言っていたのに」
「ケン」
「あーあ。連絡先を教えて貰った華ちゃんや咲ちゃんに連絡取ろうと思ったのにな」
カプッ!
「あーこらこら、こむぎ噛みついたら駄目だよ。そういえば、ミコちゃんの連絡先も教えてくれたんだ。彼女とも連絡取れたら楽しそうだね……うひゃ、こむぎーそんなに舐めないでよ」
スマートフォンの事は、明日にでもお店の人に聞いてみよう。今日はもう遅いから、こむぎを抱っこして休もうかな……。
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美狐様がお戻りになられたので、手に入れたスマートフォンをお渡しします。
見た途端、航太殿と同じ機種だと喜んで下さいました。
「むむむ、これは肉球では使い難いのう」
「元々人族の物でございますから」
「そうであったな」
美狐様は巫女のお姿に変化されました。神社内では普段このお姿で過ごされているのです。このお姿の時でも人族が目を見張る程の美しさでございます。
美狐様は説明を聞きながらスマートフォンを扱われ、気が付くと木興様も横から覗き込まれておりました。実は興味がおありの様でございます。
「咲よ。航太殿も言っておったが、ここでは通信が出来ぬのう」
「えっ? あら本当ですねぇ」
「これでは意味が無いではないか。原因は何じゃ」
「分かりませぬ。この辺りは通信圏内と聞いておりましたが」
美狐様の言われる通り、スマートフォンの表示は『圏外』となっております。
時々、一本だけアンテナマークが立つので、美狐様と二人で電波を捜し社務所の中を歩き回っておりました。
そんな私達の姿を、木興様が嬉しそうに眺められています。
「ほっほっほ。ここは結界内じゃから、人族のからくりなど遮断してしまいましょうぞ」
「な、何じゃと。木興爺、何とかせい。航太殿も困っておいでとの事じゃ」
美狐様にそう言われて、木興様は念話で話しかけて来られました。
『……咲よ。航太殿が他の女生徒達と通信が出来た方が、誘惑が多くて良いかも知れぬのう……』
『……はあ、確かにそうかも知れませぬ……』
『……ほっほっほ。それは良い事じゃ……』
「咲よ。気狐どもに伝えて、このからくりの通信は結界内でも使える様に致せ」
「かしこまりました。直ぐに伝えて参ります」
美狐様は大喜びでスマートフォンを扱われています。
先程『咲、届いておるか?』というメッセージを頂きました。
悪戯で『はて? 何も届いておりませぬ』と返信したところ、『これでは航太殿と交流できぬではないか。咲、どうしたら良い』と慌てておいででした。
何とも可愛らしいお姿でございます。
今宵のお話しはここまでに致しとうございます。
今日も見目麗しき、おひい様でございました。