第48狐 「修学旅行は恋の予感」 その4
目的地の街に付いた途端、何と航太殿からお土産屋さんに行こうと、街歩きに誘われてしまったのじゃ!
皆がCAFEとやらに行く話をしている隙に、妾は航太殿と二人で抜け出す事が出来たのじゃ。
入り組んだ路地に入り込んでしまえば誰にも見つかるまい。
異国の街で航太殿と二人きり。なんとも幸せな時間じゃ。
「ここの店、可愛いね」
誰かが付いて来てないかと妾が後ろばかり気にしておると、航太殿がアクセサリーが沢山飾ってあるお店の前で立ち止まっておったのじゃ。
ガラスケースや白い壁の一面に綺麗なアクセサリーが飾ってある店じゃ。どれもこの街の景色を思わせる素敵なデザインじゃのう。
「ミコちゃん、これ」
「うん?」
航太殿が手に取ったブレスレットを妾の腕に乗せられた。
白銀のチェーンに澄んだ青色と透明な石がいくつもあしらわれたブレスレットじゃ。何とも美しいのう。
「良いね!」
「綺麗じゃのう」
「じゃあこれにしよう!」
「なんじゃ?」
何の事か分からずに立っておると、航太殿は店の中に入っていかれて、直ぐに戻って来られた。
どうしたのかと思っておったら、急に妾の手を取ってブレスレットを手首に巻き始めたのじゃ。
ど、どうなされたのじゃ航太殿!
「うん、似合ってる」
「うむ」
「プレゼント」
「プレゼント?」
「うん、ミコちゃんにプレゼント」
「な、な、何と!」
あまりの事に唖然としておると、航太殿は妾の手を握ったまま、何処かへと引っ張って行かれる。何という事じゃ。
航太殿は歩きながら時々振り向いては笑顔を向けて下さる。
妾はこのまま世界の果てまで連れて行かれても構わぬぞ……。
じゃが、このパターンは何となく分かっておる。
これは夢じゃろう、そろそろ目が覚めるはずじゃ……。
美しい街並みを駆け抜けて行きながら、この夢がいつ醒めるかと思っておった。
じゃが、人が大勢集まっている場所に辿り着いても目が醒めなんだ。これはまさか現実なのか?
「ミコちゃん、ここに座ろう」
航太殿に促されて、通路脇にある真っ白に塗られた石の塀に腰掛けたのじゃ。
目前に広がる海の先に、水平線に沈んでいく美しい夕陽が見える。
妾と手を繋いだまま夕陽を見ている航太殿。目が合うとニッコリと微笑んでくださる。
「世界で一番綺麗な夕陽らしいよ」
「そうなのか……」
「ミコちゃんと見たかったんだ」
「……」
もう胸がいっぱいで言葉が出ぬ。妾に時を止める事が出来るのであれば、今ここで止めてしまいたい……。
「ミコちゃん、ちょっとゴメンね」
「うん?」
航太殿は妾のメガネに手を伸ばすと、スッと取ってしまわれた。何じゃろう。
「やっぱり」
「?」
「いつもヘンテコな眼鏡をしているから分からないけど、ミコちゃんはやっぱり可愛いね」
な、な、何じゃと! この姿の妾が可愛いじゃと?
「ミコちゃん……」
航太殿が優しく抱き寄せ……妾もそっと……。
「……美狐……美狐! 美狐、起きろ……」
航太殿と見つめ合い顔を寄せようとしておると、誰かの声でフッと世界が切り替わったのじゃ。
「美狐ー起きろよー、ホームルーム終わったぞ!」
「おおっ? 海は? 夕陽は? 航太殿はどこじゃ」
「海? 夕陽? 何じゃそりゃ」
顔を上げると、紅が妾を覗き込んでおった。
「修学旅行でゲレイシアのトリイサンニ島におったじゃろう」
「ゲレイシアのトリイサンニ島? 修学旅行でそんなとこ行くわけないじゃん。美狐寝ボケ過ぎ! 修学旅行はスキーの体験学習と観光だろうが」
「……お、おお、そうじゃのう……そうであったのう」
やはりそうであったか……。
どうせ夢なら、もうちょっと続いて欲しかったのう。あと少しじゃったのに。
しかしまだ掌に航太殿に握られた感触が残ったままじゃ。何ともリアルな夢じゃった。
「……おーい、航太、起きろよ。ホームルーム終わったぞ! 起きろー!」
後ろから航太殿の名前を呼ぶ白馬の声が聞こえてくる。何じゃ?
「……う、うん? 海は?」
「航太、なに言ってんだ? 寝ぼけてるのか?」
「あれー? あのさぁ……」
何を話しているかまでは聞こえて来なんだが、どうやら航太殿も居眠りしておった様じゃな。意外と妾と同じ夢を見ておったりしてのう。
ふふふ、有り得ぬか。
でも、寝ぼけた航太殿の顔を見ておったら、可笑しくなって笑ってしもうた。何とも楽しい夢を見たものじゃ……ん?
ふと気になって腕を見たら、白銀のチェーンに澄んだ青色と透明な石がいくつもあしらわれたブレスレットが巻かれておった。
これはもしや……本当に航太殿がプレゼンントで!
と、思ったのじゃが、夢を見ながら妾が妖術で出してしまったものに違いない。
これは夢の中の素敵な思い出として取っておこうかのう。
「美狐ー、修学旅行に持って行く物の買い出しに行こうぜ」
「あら、わたくしもご一緒しますわ」
「今日はライブがないから、桃子も行くっキュー♡」
「陽子も行く?」
「もちろん! 航太君達も買い物行く?」
「うん、白馬も行くよね」
「おお、俺と鳥雄はいつでもお前と一緒だぜ」
白馬が返事をした途端、教室のドアが勢い良く開いた。
顔を出したのは、案の定、蛇蛇美達じゃ。
「白馬くーん! あたしたちも一緒に行くー! あー蛇奈は来なくていいから」
「ダメよ、あんた達だけだと何しでかすか分からないもの。それに咲ちゃんも華ちゃんも一緒だから、ねっ!」
「ええ、もちろん」
「行くニャー!」
「ワタシも一緒デース! ねえ、コータ!」
「えーい、蛇澄美! いちいち抱き付くでない! 止めぬか!」
全くもって困った奴等じゃ……まあ、楽しくて良いがのう。
――――
今夜は伺うのが少し遅くなったのじゃが、航太殿のお部屋でモフモフされておる。
片時も妾から離れぬ航太殿……幸せじゃ。
「ねえ、こむぎ」
「ケンッ!」
「今日はねえ、学校で居眠りしてたら、とっても楽しい夢を見たんだよ」
「ケンッ!」
「あのね、大好きなミ……」
これは聞かせられないとか言いながら、航太殿が妾の耳を塞いでしまわれた。
大好きな……なんじゃ? その後、何と言われたのじゃ。
耳を塞ぎながら妾に頬ずりして下さるのは堪らなく幸せじゃが、大事な所が聞こえなんだぞよ……。
航太殿、いま何と言われたのじゃ?
航太殿、いま大好きな何と言われたのじゃーーー!
今宵のお話しは、ここまでに致しとうございます。
今日も見目麗しき……ちょっと待たぬか! この終わり方はないであろう……おひい様でござい……ダメじゃ! まだ続くのじゃ!




