第43狐 「文化祭は大わらわ」 その9
「あれ? ここは何処」
「ん、航太いきなりどうした」
「おお、白馬……いや、俺はどうしてここに居るのかと思って。お化け屋敷は?」
「ああ、やっぱり航太は意識が飛んでいたんだな。熱中症かな」
「熱中症?」
「うん、航太はさあ……」
白馬君の説明で、何で自販機が置いてある休憩コーナーに座っているのかが分かってきた。
お化け屋敷のブースの中で急に体が重たくなり、何かに頭を押さえ付けられる感じがしたところまでは覚えているけれど、その後の事は覚えていない。
どうやら白馬君と鳥雄君に肩を借りて、ここまで来たらしい。
「そろそろ戻らないと。皆に迷惑かけちゃったね」
「えっ? いや、もう少しここで休んでおこう。皆からも体調が完全に回復するまで戻らない様にと言われているから」
「それじゃ何だが皆に申し訳ないから……」
「Oh! コータ! ダイジョブでしたかー?」
声を掛けられた方を見ると、金髪の綺麗な女の子が手を振っていた。蛇澄美ちゃんだ。
その後ろには蛇蛇美ちゃん達も居る。みんな休憩時間なのかな?
「コータ! 私がハグしてヒーリングしてあげマース! ……What? ナンですか?」
駆け寄って来る蛇澄美ちゃんの前に、鳥雄君が急に立ち塞がったんだ。
普段は大人しい鳥尾君が格闘漫画の主人公みたいに構えている。いったいどうしたのだろう?
「あーそうそう白馬君、もう大丈夫だから! この男の子を止めてくれないかなぁ」
「何が大丈夫なのかな? 大人数で航太の所に押しかけて来て……」
理由は良く分からないけれど。緊張した面持ちの白馬君が俺の腕を掴んでいる。何かあれば引っ張って逃げ出しそうな雰囲気だ。
何だろう。熱中症がまだ治まっていないのかなぁ。何だか変な感じだ。
「あー、ほらほら、あっちあっち! あっち見てー」
蛇蛇美ちゃんが慌てながら休憩室の外を指さすと。そこには咲ちゃんと華ちゃんが楽しそうに歩いていた。
「ねっ?」
「ああ……確かに」
白馬君が安心した感じの返事をすると、休憩室の変な雰囲気が治まった。僕が知らない間に喧嘩でもしたのかな?
でも、鳥雄君もいつもの大人しい感じに戻り、蛇澄美ちゃんに道を開けている。
気が付けば皆いつも通りの雰囲気だった。もしかしたら熱中症の影響で自分の感覚が変なのかもしれないね。
「お化け屋敷の方はね、午後はメンバーチェンジで午前中の人は自由時間! だからさあ、白馬君と一緒に文化祭を見て回りたくてー!」
「えっ? お、おう」
「白馬君達は行っておいでよ。俺はもう少しここで休んで行くから」
「ぼ、ボクは航太君と一緒に居るから、白馬君どうぞ」
鳥雄君はキノコヘアーが目に被さっていて表情が分かりにくいけれど、口元は微笑んでいる。
さっきの姿はやっぱり何かふざけていたのかな。
「じゃあ白馬君行ってらっしゃ……ムギュ」
「Oh! コータ! 私はコータと一緒に回りたいデース!」
話している最中に蛇澄美ちゃんに抱き付かれてしまった。
コムギが顔に飛びついて来た時よりも圧迫感が……モフモフじゃないけれど……。
「あ……鼻血」
慌ててハンカチを取り出そうとしたら、急に蛇澄美ちゃんの体が離れて圧迫から解放された。鼻血で彼女の服を汚さなくて良かったよ。
「ほら! 行くわよ!」
「Noー! 嫌デース! ここにいるデース!」
「ダメだって! あんたそのうちミコ達に殺されるわよ……」
「Oh、no……」
蛇蛇美ちゃん達に襟首を掴まれ、引きずられながら去って行く蛇澄美ちゃん。急にモフられてビックリしたけれど、手を振って見送った。
「大丈夫かい? はい、ティッシュ」
鳥雄君がポケットティッシュを手渡してくれた。有難く受け取り鼻に詰める。
まだ火照っている感じがするから、しばらく休んで、迷惑を掛けたミコちゃん達を探そう……。
――――
「美狐様どうされたのですか? 背中が寂しそうですわよ」
「おお、陽子殿か」
校舎の渡り廊下の屋上に行くと、美狐様がお一人で佇んでおいででした。
遠呂智族の族長大山楝蛇と対峙した時の、天狐の勇ましいお姿とは打って変わり、何とも心もとなげな雰囲気。
不敬かも知れませんが、少し元気づけて差し上げたくなりました。
「どうしたの? いつも元気なミコちゃんらしく無いわよ」
肩を落としている美狐様を、後ろからそっと抱き締めます。
「うーむ、皆に申し訳なくてのう」
「申し訳ない?」
「そうなのじゃ。結果的には何も無かったのじゃが。皆わらわの為に命を賭して戦おうとしてくれた」
「ああ、先程の」
「それだけではない。いつだってそうなのじゃ。遊園地の時も妾に向けて妖術を発した遠呂智族の者を、迷うことなく排除したのは静さんと紅さんじゃ」
「ああ、あの時の……。実は人族向けの驚かす程度の妖術だったとか」
「うむ。じゃが妖術を放つ前には分からぬ事じゃ。二人はわらわに危機が迫ると、迷うことなく行動を起こしてくれる。それが命を失うかも知れぬ大山楝蛇の前であってもじゃ」
「ええ、皆さん勇ましいお姿でございましたわよ」
「陽子殿ものう」
「私は皆と過ごすのが楽しいから、一緒に戦いたかっただけですよ」
「そこなのじゃ。妾は皆に迷惑ばかり掛けておるのではないかと思うてのう」
「あら、皆はイヤイヤながら美狐様と一緒に居るとでも?」
「分からぬ……」
「うふふ。みんな美狐様と共に過ごす高校生活を楽しんでいますわよ」
「じゃが……それが原因で身を危険に晒させてしまっておるのやも知れぬ。でも……」
「でも?」
横から顔を覗き込むと、美狐様は遠い目をしながら、校舎に囲まれた校庭の向こう側を見つめておいででした。
「妾は航太殿が愛しいのじゃ」
美狐様の目線の先には、校庭を歩く鳥雄君と航太君の姿が。
「強大な力を放つ大山楝蛇を前にして、もしかしたら、もう会えぬやも知れぬと思うた……」
「美狐様」
航太君を見つめる美狐様の目には涙が浮かんでいました。
「胸が張り裂けそうな悲しい気持ちと、航太殿と皆の命までも危険に晒す事などあってはならぬという思いが駆け巡ってのう……」
「それは……」
「妾が居らぬ方が、みなは安全で楽しい高校生活を……」
「えっ?」
「だから……。だから……妾は……」
美狐様の瞳から美しい涙が溢れ、頬を伝い落ちて行きました。
まさか美狐様は……。
今宵のお話しは、ひとまずここまでに致しとうございます。
今日も見目麗しき、おひい様でございました。




