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第36狐 「文化祭は大わらわ」 その2

 蛇蛇美と蛇子が教室に飛び込んで来ると、いきなり文句を言い始めました。

 どうやら文化祭の出し物を、私達と合同で行うという事を聞いた様です。


「ちょっとー! あんた達と合同で『お化け屋敷』ってどういうことよ!」


「そうよ! あんた達と一緒になんか出来る訳ないじゃない!」


「何だお前ら!」


 教室に入って来るや否や文句を言い始めた蛇蛇美達に、紅様が立ち上がろうとしましたが、美狐様が押し留めました。


「珍しく同意見の様じゃな。ならばお主等が別の事をすれば良いだけじゃろう」


「何で私達が止めないといけないのよ! あんた達が別の事をすれば良いでしょう!」


「お前らは爬虫類の展示でもやればいいだろう! 変化へんげを解いて箱にでも入ってろ!」


「あんた達こそ、馬鹿な獣の剥製はくせいでもやってなさいよ!」


「何だと!」


「何よ!」


「これこれ、ちょっと落ち着かぬか」


 今日は意外にも美狐様が抑え役になっています。先日の遊園地の事で懲りたのでしょうか。


「のう、咲よ。何故ゆえに二クラスで合同になったのじゃ?」


「はい、どちらのクラスも第一希望が『お化け屋敷』でしたので、クジやジャンケンでどちらかになるはずだったのですが……。先生方がコソコソと話し合われ。結果、合同でする事に決定と言われたのです」


「先生方は何故その様な事を決められたのじゃ」


「大方、厄介払いではないかと。共同で利用する大教室は学校の一番端ですし……」


「何で厄介払いなのよ!」


「二クラスとも問題クラスだからです」


「……」


「……」


 みんな思う所があるのか、誰も反論しません。

 

「で、でもさあ、こいつらと一緒になんか出来ないぜ。いつ後ろから殴られるか分かったもんじゃない」


「あら、それはこっちの台詞よ。直ぐに妖術使って物を壊すのは、あんた達の方でしょう?」


「お化け屋敷の事は、お前ら遠呂智族の奴が先に妖術を使って来たからだろうが!」


「あれは攻撃する為の術じゃ無くて、人族をちょっと驚かせるための遊びみたいなもんでしょう!」


「人族の前で妖術なんか使うな!」


「それ、そのままお返ししますぅ! あんたこそボーリング場で術を使っていたじゃない!」


 言い合いの内容が、文化祭の事ではなく、この前のお化け屋敷破壊の事から、白馬君と航太殿とのダブルデートの時の話になっているようでございます。

 あの日、ボーリング場がある複合施設に潜り込み、航太殿にちょっかいを出させない様に監視をしておりました。

 流石に何もしない訳にはいかないので、蛇蛇美達を監視できる場所で私達もボーリングを楽しんだのでした。

 どうやら、その時の事を言っている様でございます。


「術なんか使った覚えはないよー」


「冗談でしょう? 何でガータなのにピンが全部倒れるのよ! それに最後の方はピンが砕け散っていたでしょう! 本当に乱暴者なんだから」


「知らないなぁ」


「あんた達、静の結界は人族には見えないかも知れないけれど、あたしたちには全部見えているのよ!」


「……」


 紅様がとぼけていますが、これは蛇蛇美達が言う通りです。

 蛇蛇美達と楽しそうにボーリングをする航太殿の姿に憤慨ふんがいし、ややプレイが荒れたのでした。

 ボーリングのプレイ中に遠呂智族の従業員につまみ出されたのは、それが原因でございます。


「お主等が航太殿にちょっかいを出すからじゃ!」


「はぁ? 私達は白馬君を誘ったのに、あいつが付いて来ただけじゃない。あいつなんかに興味無いわよ!」


「何じゃとぉ!」


「何ですって!」


「こいつら!」


 結果的に航太殿をディスられた感じになり、女性陣が起ち上がります。

 

「ああ、私と蛇子は興味ないわ。私達はねー!」


「興味なーし!」


「何じゃ、その含んだ言い方は!」


「さあね! そんな事より、お化け屋敷はどうすんのよ。早く止めるって言いなさいよ!」


「お主等が止めれば良い!」


「はぁ?」


 終わりの見えない言い合いになりそうですが、実は先生方の出した結論に困り果てて、私と蛇蛇美達のクラス実行委員とで、話し合いを済ませていたのです。

 この負けん気の強い乙女達が、確実に合同でやると言い出す方法を……。


「ちょっとよろしいですか? 提案があります」


「何じゃ、咲」


「何よ」


「エホン……お化け屋敷内の担当場所を半分に分けて、お客さんにどちらが怖かったかアンケートを取るのは如何ですか? どちらの組がより怖かったのかで勝負です」


「ほう、それは楽しそうじゃのう」


「へー、やってやろうじゃない。負けた方が土下座で良いわね」


「望むところじゃ!」


 こうして私達のクラスと蛇蛇美達のクラスは、合同でお化け屋敷をする事になったのでした。


 ――――


「それでは気狐きこの皆さん、この設計図通りにお化け屋敷の設備を作って下さい。お願いします!」


 遊園地のお化け屋敷の再建に携わった気狐達が作業を始めました。

 気狐達は大工の作業服を着て、人の姿に変化へんげしております。

 時を同じくして、遊園地の経営者の娘である蛇由美の指示で、変化した遠呂智族の者達も作業を始めました。

 それぞれ分担しているスペースの作業ですが、多くの設備を作る為、結構手狭になっています。

 何もトラブルが起きねば良いのですが……。


 そう思ったのも束の間、作業が始まってものの数分で、何やら言い合いが始まった様子です。

 このまま大騒動に発展したら、文化祭の準備どころではありません。どうしましょう。


「おう! キコ吉! そっちの設計図見せてみろや!」


「何だぁ、蛇之マサ! おめー達のも見せてみろや!」


 お互いに手に持っていた設計図を投げ渡しています。

 今にも喧嘩が始まりそうな雰囲気でございます。


「おう、キコ吉! この場所……」


「ああん? 蛇之マサ、おめー達のこの場所……」


 親方格の二人が今にも殴り掛かりそうな勢いで顔を突き合わせています。

 早速、相手の設備が邪魔だとかで揉めているのでしょうか……。

 止めたいとは思っているのですが、大人の気狐達に私は何も言えません。

 唯一抑える事が出来そうな美狐様は、華ちゃんと気狐達への差し入れを買いに行っています。


「……だろうが!」


「……だ!」


 大声での応酬。ああ、もう限界の様です。

 変化族の大人たちの大喧嘩で学校が無事ならば良いのですが……。


「皆、集まれ!」


「おう! 皆ちょっと来いや!」


 顔を突き合わせていた親方の周りに、作業に来ている者達が集まりました。いよいよ喧嘩が始まってしまいそうです。


「皆、この設計図を見てくれ!」


 親方の言葉と共に、二枚の設計図を床に広げられ、周りに大人たちが集まりました。皆静かに設計図に見入っています。

 何やら変な雰囲気でございます。


「こことここの部分は一緒に作った方が良いだろう!」


「この辺の作り方はそっちに頼って良いか?」


「ああ、じゃあ三人ばかし一緒に組ませて、そこは作ろうか」


「だったら宮大工の奴がこっちにいるから、そっちのそこは任せてくれ」


「分かった……よし! みんな協力して作業開始だ!」


「安全第一! お互いに気を付けながら頑張ろう!」


「「「「「おう!」」」」」


 喧嘩が始まるかと思いきや、大人たちは一緒に作業を始めてしまいました。

 職人の絆というものなのでございましょうか。それ程長い期間ではありませんでしたが、遊園地のお化け屋敷の再建に携わった者同士、いつの間にか意気投合していた様でございます。 

 そんな不思議な光景を眺めていると、華ちゃんが慌てて走り込んで来ました。


「咲ちゃん! 早く来るニャ!」


「何? どうしたの」


「何かちょっと大変ニャ!」


 華ちゃんに引っ張られて校庭に出ると、白馬君と航太殿が蛇蛇美達に挟まれて立っているのが見えました。

 何事かと傍に行くと驚きの光景が……。


「Oh! コータ! また会えて嬉しいデース!」


 金髪の綺麗な女性が航太殿を抱きしめて、いきなり頬にキスをし始めたのです。

 こ、これは一大事でございます。



 今宵のお話しは、ひとまずここまでに致しとうございます。

 今日も見目麗しき、おひい様でございました。


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