第31狐 「楽しい遊園地」 その2
今日は『きつね風邪』で私達が寝込んだ折、神社の運営を手伝ってくれた皆さんに、お礼という事で遊園地に遊びに来ております。
些細な騒動はございましたが、皆楽しく過ごしている様でございます。
「咲よ、そろそろお昼ご飯の時間ではないか?」
「ええ、そうで御座いますね。それでは準備致します」
私を見付けた美狐様が楽し気に話し掛けて来られました。
航太殿のひざ枕で休まれた美狐様と静様は、その後三人で散策をされていたご様子。
航太殿との散策が、お二方とも楽しくて仕方がないと言った表情をされておりました。可愛らしくて思わず微笑んでしまいそうです。
美狐様が言われた通り、そろそろお昼時ですので、準備したお弁当を華ちゃんとコインロッカーに取りに行きます。
入園口近くのコインロッカーへと向かっていると、静様も付いて来られていました。何か荷物でも取りに行くのでしょうか。
「静様、どうかされたのですか」
「いえ、お昼にすると聞いたので、お弁当を取りに行っているのですよ」
「えっ? 今回は皆さまへのお礼という事で、こちらで全員分準備しておりますよ」
「ええ、そうお聞きしていたのですが、私も作って参ったのです」
笑顔で普通に答える静様ですが、私はピンと来ました。
静様は航太殿に手作りのお弁当をお渡しするつもりなのでしょう。
恋する乙女の純粋な気持ちに、美狐様だけではなく静様も応援したい気持ちになってしまいます。
どちらを応援しても、木興様に怒られてしまいそうではございますが……。
遊園地の一角にある芝生広場にレジャーシートを敷いて、皆でランチタイムです。
皆さんの為にと持参したお弁当と、静様が作られたお弁当を皆でワイワイと分け合います。
美狐様が航太殿の分を直ぐによそって、航太殿の周りはお皿だらけになっていましたが、静様も負けじと、ご自分の作られたお弁当から可愛らしくお皿に盛って航太殿に渡されました。卵焼きをハート型に整えたりとなかなかでございます。
「静ちゃんのお弁当、凄く美味しいね!」
航太殿の感想を聞かれて、美狐様も静様のお弁当を食べられました。
「本当じゃ! これは美味しいのう。静さんのお母上がお造りになられたのか?」
「私の手作りでございます」
「な、なんじゃと……」
航太殿を挟んで、お二人の視線が火花を散らしている様に見えましたが、きっと気のせいでしょう。
ですが明らかに動揺している美狐様。私と目が合うや否や手招きされました。
近寄ると航太殿には聞こえない様に耳打ちされます。
「……咲よ、妾が作った物は無かったかのう」
「流石に御座いませんが」
「妾も料理の勉強をして作らねばならぬ」
「な、なりませぬ。天孫の皇女たる美狐様が手ずから料理など、我ら気狐どもの立つ瀬がございませぬ」
「ふむ、じゃがこのままでは静殿に負けてしまいそうじゃ……」
「いえいえ、美狐様の魅力はその様な事で霞んだりは致しませぬ」
「さ、左様か。ならば良いのじゃが……」
何とか上手く誤魔化す事が出来ましたが、危うい所でした。
美狐様のお世話をする気狐達が困るというのは本当の事ですが、それ以上に美狐様が航太殿の為に料理をするなど、万が一木興様のお耳に入ったら大変で御座います。
『咲! 何たることじゃ! おひい様が人族の者に手料理など!』と、大目玉を頂く羽目になってしまいます……。
そんな中、すっかり復活した白馬君が、いつも通り皆さんのお世話を焼くために奔走していました。
観覧車で悲鳴を上げていた同じ人とはは思えない、爽やかな笑顔を周囲に振りまいています。
「白馬はこうして見ると良い男なんだけどな! そうそう航太君、これ美味しいぞ!」
紅様が買って来たホットドックをかじった後に、そのまま航太殿の口に放り込んでしまいました。
一瞬驚きながらも、そのまま食べて美味しそうな顔をされる航太殿。
両脇に控える美狐様と静様が唖然として紅様を見ています。
そして、航太殿がかじられたホットドックに視線が集中しました。
「そ、それは美味しそうじゃのう。妾もひと口!」
「まあ、わたくしホットドック大好きですのよ!」
二人が航太殿の口からホットドックを取ろうとした時でした。突如として脇から伸びた手がホットドックを受け取り、そのままパクリ。
「本当だ! 美味しいっキュ♡!」
手を伸ばしたまま悲しそうにホットドックを見送るお二人に、桃子ちゃんが追い打ちをかけてしまいます。
「あ! 航太君と間接キスしたっキュ♡! ウフフ」
ホットドックを食べてしまった桃子ちゃんは、手を振りながら別のレジャーシートに移動して行きました。
全く悪気はなさそうですが、美狐様と静様のダメージはなかなかのものでございます。
「あらまあ、間接キス位であんなに落ち込んで。若いわねぇ」
私の横でお弁当を食べていた陽子ちゃんが、目の前で繰り広げられる三角や四角関係を面白そうに眺めています。
流石は『恋の手練れの夏女』……いえ、陽子ちゃんは同じ年頃のはずでございます。それなのにこの余裕の発言……。
開放的な南国女子の燃える様な恋バナを、一度ゆっくりと聞いて見たくなりました。
「ねえ! 凄く面白い乗り物見つけたよ!」
お昼ご飯を終えて、皆そろそろ自由に回ろうかと話している時でした。
ひと足先に乗り物を楽しみに行った紅様が、嬉しそうに戻って来られたのです。
「この遊園地の周りを一周するゴーカートがあってさあ。結構スピードが出て楽しいぞ。何か賭けて皆で競争しようぜ!」
「紅は全く困った奴じゃのう。男の子の様にはしゃいで、賭け事をしようなどと言い出しおって」
「じゃあミコちゃんは参加しなくていいぜ。賭けは『一位の人がお化け屋敷にペアで入る相手を指名できる』っていうのはどう? 航太君も参加するよね!」
「あ、ああ、参加するよ」
「良し! じゃあ参加する人は行こう! ミコちゃんじゃーねー!」
「これ! 誰も参加しないとは言っておらぬ。待たぬか!」
航太殿の手を引きながら、さっさとゴーカート乗り場へと向かう紅様の後を、美狐様と静様が慌てて追いかけて行かれます。またまたひと波乱の予感が致します……。
「一周のラップタイムで競います。もちろん妖術は禁止! 使った人は失格です」
航太殿が練習走行に行っている間に、参加者に注意事項の説明です。
これを伝えていないと、何をしでかすか分かったものじゃありませんから。
案の定、このルールを聞いて紅様の顔が曇りました。危ない所でございました。
レースの参加者は結構な人数に……。何と乗り物嫌いの静様まで「自分で運転するのなら、きっと酔いません」と言い張り参加する事に。
先ずは不公平を無くすために、紅様以外の人達が練習でひと回りしています。
皆楽しかったのか、優勝商品の『お化け屋敷のパートナー指名権』とは関係なしに燃えている方々もいます。まあ、私と華ちゃんなのですが……。
華ちゃんとは『負けた方が巨大ソフトクリームをご馳走する』という約束を致しました。これは負けられません。
「それでは、第一走者スタート!」
今宵のお話しは、ひとまずここまでに致しとうございます。
今日も見目麗しき、おひい様でございました。
いつも読んで頂きありがとうございます。
今回は更新まで随分時間が掛かってしまいました。
楽しみにして頂いていた方には申し訳ありませんでした。
これから高校でのイベント事を描いて行く予定です。
引き続き楽しく読んで頂けたら幸いです。
いつもありがとうございます!
磨糠 羽丹王




