第26狐 「巫女様、美狐様」 その1
「うわわわわわわ!」
え? 嘘……何でこんなに綺麗な人が、俺の横に寝ているの?
夜中に目が覚めたら、お布団の中に滅茶苦茶綺麗な女性が寝ていたんだ。
驚いて変な声が出ちゃったけれど、慌てて起き上きて顔を見たら、既視感がある人だった。
忘れもしない、ドキドキするほど綺麗な女性。
巫女装束を着た美しい女性……稲荷神社のこむぎの飼い主さんだ。
でも、なんでこの巫女さんが一緒に寝ているのだろう。
もしかしてこむぎを迎えに来てモフモフしているうちに寝ちゃったとか。
「あのー」
軽く揺さぶってみる。
「……」
「あのー、巫女さん……」
「う、うん……」
驚かさない様に軽く肩を叩いてみた。
あ、もしかしたら『さん』は失礼なのかなぁ。
「あのー、巫女様?」
「……お、おお? 何じゃ?」
様を付けると、巫女さんが目を覚ましてくれた。
目が合うと吸い込まれそうなほど綺麗な瞳だ。
うわぁ、本当に綺麗な人だなぁ……。
「あのー、こむぎは先に帰ったみたいですよ」
「はて? 航太殿は何を言っておるのじゃろうのう。それにしても凛々しいお顔立ちじゃ……」
「え? うわわっ! ええぇ?」
巫女さんがいきなり顔を寄せて、ほっぺたを舐められてしまった。寝ぼけているのかなあ。
『航太』って名前を覚えていてくれた事は嬉しいけれど、今のはしっかりと目が覚めたら逆に怒られそうな気がする……。
「あ、あの巫女様。どうかされましたか?」
「ほほほ。航太殿は何で妾を『様』付けで呼んでおるのじゃ……何じゃとぉ!」
巫女さんが慌てて起き上がり、自分の格好や部屋をキョロキョロと見まわしている。何だか凄く驚いているみたいだ。
「あ、あの、こむぎは先に神社に帰ったみたいですよ」
「何と……これはどういう事じゃ? 夢かのう?」
「ふえっ」
何故か巫女さんが、いきなり俺の頬を抓って来たのだ。
「い、痛いです……夢じゃ無いようです」
「左様か、夢ではないのじゃな」
「多分……」
何で俺を抓ったのかは分からないけれど、巫女さんの話し方がミコちゃんにそっくりで可笑しくなって来た。
「あはは、巫女様は僕の知り合いのミコちゃんと話し方が同じです」
「何じゃと? 美狐様? ミコちゃん? 航太殿は何を言っておるのじゃ」
「えっと、僕の高校の同級生のミコちゃんと、話し方が同じって……」
「何と!」
巫女さんは、急に何かに気付いたのか、眼を見開いて巫女装束のあちこちを探り始めた。本当にどうしたのかな?
「もしや妾は航太殿と添うたのか?」
「え? 『添う』って何ですか?」
「いや……その、何というか、もしや……」
「添い寝なら、確かに一緒に寝ていたみたいですけれど……」
巫女さんの顔が真っ赤だ。どうしたんだろう?
「そ、添い寝だけなのじゃな……。そもそも妾は何でこの姿でここに居るのじゃ? 夢か?」
「ふえっ」
また巫女さんに頬を抓られた。
「いえ、痛いです、夢じゃないと思います」
「左様か……」
何でまた俺が抓られるのか分からないけれど、反応や行動がミコちゃんぽくて可愛らしい。
「多分こむぎを迎えに来て、そのまま寝てしまったんじゃないかと……」
「こむぎ? 迎えに? 航太殿は面白い事を言われるのう。こむぎは……!」
「こむぎは?」
「な、何でも無いのじゃ! 航太殿の言う通りじゃ! 妾はこむぎを迎えに来たのじゃな! ほほほ、そうであったのう、これは失礼をした」
「い、いえ……うひゃぁ!」
巫女さんは、また俺の頬をひと舐めすると慌てて立ち上がった。
何だか混乱しているみたいだ。
「で、では航太殿、妾はこれにて失礼する」
「あ、でも、夜道は危ないから送って行きます」
「おおっ! 航太殿と一緒に帰るのか? それは嬉しいのう」
「あ、ありがとうございます」
巫女さんは何だかご機嫌だ。
良く分からないけれど、こむぎと俺を間違えているのか、二回も頬を舐められてしまってドキドキし通しだ。
それにしても本当に綺麗な女性だなぁ。
話し方とか雰囲気がミコちゃんそっくりだからか、不思議と親近感が湧いてしまうな……。
足元を照らしている明かりを頼りに、朱色の鳥居が続く階段を巫女さんの後に続いて登って行く。
嬉しそうに歩いている巫女さんの後ろ姿が、何故かミコちゃんの歩き方とそっくりだと思った。
そんな事を考えながら階段を上っていると、稲荷神社の境内が見えて来た。
送るのはここまでで良いのだけれど、もしかしたら、またこむぎに会えるかも知れないと思って、境内まで付いて行く事にした。
そして境内に辿り着いたら、そこに居る人達を見てびっくりしてしまったんだ。
なんと、巫女装束を着た咲ちゃんと紅ちゃんが居たんだよ。
これはやはり夢を見ているのかも知れないね。
巫女さんに、もう一度頬を抓って貰おうかな……。
今宵のお話しは、ひとまずここまでに致しとうございます。
今日も見目麗しき、おひい様でございました。




