第24狐 「体育祭」 その2
「さて、次の競技で勝てば妾の組の勝利じゃのう!」
クラス対抗リレーで圧勝した妾達は、次の競技……なんじゃったかな?そうじゃ騎馬戦じゃ! この騎馬戦に勝てば優勝が決定するのじゃ。
おお! 騎馬戦には航太殿が出場されるではないか。これは全力で守らねばならぬのう。
「咲よ! 皆に航太殿の騎馬をお守りし、応援せよと伝えよ」
「はい、既に申し付けております」
「そうか、流石は咲じゃのう」
「お褒めに預かり、恐縮でございます」
「では観戦しようかのう。航太殿の雄姿がワクワクするのじゃ」
おお! 航太殿の騎馬が入って来られたぞ、何と凛々しいお姿。
馬は白馬の他も全員変化族の者か……これは頼もしいのう。航太殿のご活躍が楽しみじゃ。
大きな太鼓の音と共に騎馬が一斉に駆けだして、なかなかの迫力じゃ。
おお! 航太殿が一騎お倒しになられたぞ! 何と素敵なお姿じゃろうか。胸のドキドキが止まらぬわ……。
おや、あれは遠呂智族の者共の騎馬ではないか。いかぬ! 航太殿が狙われておる。ここは私がお守り致さねば。
「白狐の雷撃……おや、遠呂智族の騎馬が遠くに飛ばされてしまったのう」
「静殿でございます」
「そうであるか。私が守ろうと思っておったのに、横からしゃしゃり出おって……。なんじゃ、胸の前で手など組みんで目をハートマークにしおって!」
おお! 航太殿の騎馬が風に乗り爆走しておるぞ! 敵の騎馬を次々に倒しておるではないか! なんと勇ましい、惚れ惚れするのう。しかしあの風は妖術ではないか?
「紅様にございます」
「何じゃと。本当じゃ、紅が術を使っておるのう」
「はい、お見事でございまする」
「ふむ……。あっ、おのれ紅め! 遊女の如く胸元をはだけさせて、航太殿に手を振っておるではないか! 咲よ、何とかせよ」
「なりませぬ。術をお使い中でございますので、お止めしますと何やら支障が出るやも知れませぬ」
「うーむ、何と忌々しい……。紅め、航太殿に色気を振りまきおって」
「ほっほっほ! 航太殿はあちらこちらの女子に手を振ってございますなぁ。やはり好色な人族で御座いまするなぁ。のう、おひい様」
「何じゃ木興爺か! 応援席まで来るでない」
「いえいえ、爺はおひい様のことが心配でございます。あのような好色な人族に懸想などして……」
「無用の事じゃ! 観覧席に戻っておれ!」
「ほっほっほ」
「おお! 木興爺のせいで余所見をしておるうちに、味方は大将馬と航太殿だけではないか!」
これは妾がしっかりと応援せねばのう。
「それでは、白狐の……。な、何じゃ、また静か。わらわの出番が無いではないか」
おお! 何と航太殿が相手の大将騎馬を討ち取られたではないか!
流石は航太殿。何とも勇ましいお姿じゃ、惚れ惚れするのう。
おお、皆が喜んで駆け寄っておるではないか。こうしては居れぬ、妾も行かねば!
ん? 何じゃ、動けぬぞ?
何じゃこの紐は、何でわらわが紐に繋がれておるのじゃ。
ここから動けぬではないか!
「咲よ! 咲? 咲は何処じゃ?」
「ほっほっほ。咲も他の女子達も皆航太殿に抱き付いておるではござらんか! ニコニコしおって……全く好色な人族の男の子じゃのう」
「また木興爺か! この紐は木興爺の仕業か。早く解いてたもれ」
「なりませぬ。あのような集団の中に行かれては、何事か起こった時に守り切れませぬ。おひい様はこちらにてお待ちくだされ」
「嫌じゃ! わらわも抱き付きに行くのじゃ! 見てみよ、紅も静も嬉しそうに抱き付いておるではないか!」
「なりませぬ!」
「お、おのれ、木興爺め……」
結局、妾だけ置き去りのまま、歓喜の輪は終わってしもうた。
航太殿は妾に見向きもしてくれなんだ……哀しくて涙が出そうじゃ。
まあ良い。次の競技は何じゃったかのう。
「美狐様、次は『借り物競争』でございます」
「借り物競争とは何じゃ?」
「徒競走の途中でクジを引き、そこに書いてある物を観客席から借りて来る競技にございます」
「おお、そうであったな。何とも変な競技じゃ。おお! また航太殿が出られるのか! これは応援せねばならぬのう」
「はい、咲も応援いたしまする」
「敵は遠呂智族のクラスの者だけじゃな。これは楽しみじゃ。咲よ!」
「はい、何でございましょう」
「遠呂智族の引くクジを、何かとんでもない物に変えよ」
「なるほど! 流石は美狐様でございます。これで勝ったも同然でございますね」
「始まったぞ! 咲よ頼んだぞ」
「お任せ下さい、文章の改ざんはお手の物でございます」
航太殿は最終走者じゃな。やはり真打は最後に登場なのじゃ。
おお、第一走者は白馬か……これは速いのう。
直ぐにクジを引いて観客席に何か探しに行ったが、借り物はいったいなんじゃろう。
お婆さんの手を引いておるのう。借り物は『お婆さん』なのじゃな。流石にゆっくりと歩かねばならぬのう。
これは速く走れぬ故、もどかしいのう。頑張るのじゃ白馬よ。
むむむ、白馬がコースを外れて何処かに行っておるぞ、何事じゃ……。
その間に、遠呂智族の者がタオルを持って、次の走者にタスキを渡したではないか。白馬よ、何をやっておる! 航太殿が大変になるではないか!
「咲よ、あれは何事じゃ?」
「どうやら、お婆さんをトイレに連れて行かれているご様子でございます」
「ま、まさか『お世話焼き』か? 馬面の大好きな「お世話焼き」をやっておるのか……」
今宵のお話しは、ひとまずここまでじゃ!
今日も眉目秀麗な航太殿じゃったのう。
何じゃ? 今話は妾が語り部じゃから、良いじゃろう?




