第22狐 「真夏の恋模様」 その7
今日は学校の友達と海水浴に来たんだ。
何故か神社の神主さんがマイクロバスを出してくれて、一緒に連れて行ってくれる事に。
到着して水着に着替えたら海の家が貸し切りの食べ放題だって分かったから、ミコちゃんと一緒にお腹がはち切れそうになるまで食べたよ。楽しかったー。
その後は紅ちゃんと一緒に飛び込み台の勝負をしたんだ。どっちが高い所から飛び込めるのかの勝負。
結局、二人とも一番高い所から飛び込めたから引き分けだったけれど、傍に居たミコちゃんが飛び込んだ俺が溺れていると勘違いしたのか、助けようとして必死に抱きしめてくれたんだ。
でも、抱き締められて逆に息苦しくて、段々と気が遠くなってしまったよ。
苦しくて目の前が真っ暗になったけれど、何となくモフモフのこむぎの事を思い出して嬉しくなっちゃった……何でかなぁ。
それからしばらく眠っていた気がしたけれど、目が覚めたら砂浜に居て、直ぐ目の前に静ちゃんが居たんだ。
静ちゃんは海から上がって直ぐだったみたいで、水着が濡れてビックリするほど色っぽい感じになってた。
ちょっと詳しくは言えないけれど、お母さん以外の女の人で、初めてその何て言うか……また、鼻血が出て来ちゃった。
その後、神主さんがお酒を飲んで車の運転が出来なくなってしまったから、近くの旅館に泊まる事になったんだ。
ビックリしたけれど、仕方がないから家に連絡すると、お母さんからお金の事を心配された。
だから神社の人達が帰れなくなったお詫びに全部払ってくれると説明したら、それは逆に申し訳ないとかで後で払うとか何とか言っていたよ。
旅館はとても綺麗で豪華だった。同級生の皆で止まるとか中学の修学旅行以来だからワクワクする。
俺はくじ引きでひとり部屋になっちゃった。でも部屋の窓から海が見渡せて夕焼けが綺麗だったよ。
部屋に荷物を置いて直ぐに、皆で広い和室で一緒に夕食を食べたんだ。
食事が立派なお膳で出て来て驚いたよ。こんなの初めてだ。それに食事は豪華で全部とても美味しかった。
それで食後は皆でゲームをしたりして遊んだんだ。
紅ちゃんがふざけて捕まえようとして来るから、静ちゃんを挟んで逃げて回った。
実は俺が色っぽい姿を見てしまったから、怒っているかも知れないと思って怖かったけれど、笑顔で遊んでくれた。良かったー。
ミコちゃん達と仲の良い静ちゃんに嫌われていたらどうしようかと内心ドキドキしていたけれど、大丈夫だったよ。
そのまま和室で遊んでいたら、温泉に行ったりして徐々に人が減り始めた。
気が付くとミコちゃん達も居なくて、男の子達と遊んでいたら紅ちゃんや静ちゃんも居なくなっていた。
そこで一応解散と言う事になって、各自部屋に戻る事になったんだ。
そしてひとりで部屋に戻る途中で出会ってしまったんだ……彼女に。
――――
「後ろから急に抱き締められて、振り向くと航太殿が……」
静様が俯きながら、昨夜の事をぽつりぽつりと話し始められました。
「驚いて体が竦んでしまい……抱き締められたまま、気が付くと航太殿のお部屋に……」
静様の告白を聞きながら、泣き腫らした美狐様の目が悲しそうに静様を見つめられています。私も胸が張り裂けそうな気持でございます。
「私は顔を振って嫌嫌をしたのですが、航太殿は『可愛いな』って言われて、私の胸やお腹に顔を埋められて、優しく……」
「ちょっ、ちょっと静様! もう少し言葉を……」
華ちゃんが窘めると、静様は申し訳なさそうに頭を下げられました。
「良いのじゃ……ちゃんと聞きたいからの……」
美狐様が絞り出すような声で、静様に話の続きを促されます。
「……はい。航太殿は私を思うままに抱きしめられ、愛しんで下さいました。そして……」
美狐様の握り締められた手が震えています。悲しむお気持ちが痛い程に伝わって参りました。
「航太殿は私を寝かせて……足を優しく開かれて……私の……覗き込みながら……」
――――
「おおっ! お前ワン玉が付いてないな! 雌犬ちゃんなんだね!」
実は部屋に帰る途中で、こげ茶色のモフモフのワンちゃんを見つけたんだ。
こむぎに似ていてモッフモフだったから、思わず抱っこしちゃった。
そしたら、やっぱりフサフサのモフモフだったから、嬉しくてそのまま抱っこしてたんだ。
こげ茶色のモフモフわんちゃんは全然嫌がらなくて、大人しく抱っこされていたから、思わず部屋まで抱っこして行っちゃった。
いつでも出て行ける様にドアを半開きにして、モフモフを堪能させて貰ったよ。
だって今日は家に帰れないから、大好きなこむぎをモフモフ出来なくて寂しかったんだ。
お母さんにお願いして、こむぎが遊びにきたら抱っこしてあげてって頼んだけれど、こむぎは来たのかなぁ……ああ、こむぎを抱っこしたいなぁ。
でも、この旅館のモフモフわんちゃんも凄く懐いてくれて、思いっきりモフモフスリスリしちゃったよ。
お腹までスリスリした時にちょっと気になって、足を開いて雄か雌か確認したら、こむぎと同じく雌犬ちゃんだった。
モフモフのわんちゃんは、何だかモジモジして動かなくなったから、そのまま顔を埋めて抱っこしているうちに、モフモフが心地良くてそのまま寝ちゃった。
朝起きたら居なくなっていたから、きっと俺が寝ているうちに出て行ってしまったんだね。
帰るまでにまた会えたら、もう一度モフモフしたいなぁ。
――――
「美狐様ごめんなさい。水浴をしようと、安易に変化を解いて歩いていた私が悪いのです」
「全くじゃ……」
「航太殿に抱き締められているうちに眠ってしまい……。起きたら部屋の外に人の気配がしたので、慌てて人の姿になり外に出たのです。そしたらそこに咲ちゃんが居て……」
「ふむ……。全て不可抗力と言う訳じゃな」
「はい……」
「狸姿のお主を抱きしめておる航太殿を見てしまった時は、お主が変化族で有る事を全てを告白した上で、航太殿と添うたかと思うてのう……」
「その様な事、滅相もございません」
静様の不義が無かったと分かり、美狐様のご機嫌がやっと良くなりました。
いち時はどうなるかと思いましたが、取り敢えずひと安心でございます。
「では静さんは航太殿の事は、何とも思うておらぬのじゃな?」
「……」
「静さん?」
俯いていた静様が顔を上げられました。何だかほんのりと頬を赤らめておいでのご様子。
「そ、それは何とも言えませぬ……」
「な、何じゃと!」
「あんなに『可愛い』と言われた上に、もうお嫁に行けないような姿を見られてしまいましたし……」
「な、何じゃと! ならぬ! 静、それはならぬぞ!」
「選ばれるのは、航太殿で御座いますれば……」
「静ぅ……お主までもが……。航太殿が魅力的過ぎるからじゃ……」
美狐様がまた伏せてしまわれました。
美狐様の恋の受難は、まだまだ続きそうでございます……。
今宵のお話しはここまでに致しとうございます。
今日も見目麗しき、おひい様でございました。




