第17狐 「真夏の恋模様」 その2
貸し切りの海の家では、美狐様の水着姿で大揉めでございます。
「美狐様、なりませぬ。かように胸を大きくされてはなりませぬ」
「咲は煩いのう。木興爺の様じゃ!」
美狐様はワンピース型の大人し目の水着なのは良いのですが、胸を普段の大きさに戻されているので、スタイルが良すぎるのです。
「高校での水着姿と、かようなまでに胸の大きさを変えられては、航太殿に不審がられてしまいまする」
「人族もパッドとやら言う物を、これでもかと詰め込んでおるそうではないか。このくらい構わぬであろう」
「……」
そう言われると反論が出来ません。
私が黙り込むと、美狐様は少し悪いと思ったのか、いつもより若干大き目というサイズまで胸を小さくされました。
「これ位なら良いのじゃろう? ふん、いつか航太殿と添う時が来たら驚かせてやるのじゃ!」
何とか聞き入れて頂き、美狐様が外へと出て行こうとされた時でした。紅様が更衣室から出て来られたのです。
振り向いた美狐様は、紅様の姿を見た途端に慌てて戻って来られました。
「べ、紅! なんじゃその格好は! な、何も隠れておらぬではないか!」
「美狐様、言い掛かりじゃ! ちゃんと隠れておるわ! ほれ!」
「そ、それは隠れておるとは言わぬ! ならぬ! そんな格好で航太殿の前には行かせぬ!」
紅様はそれはそれは布の部分が少なき水着……いえ、貼っただけのシールの様な物をご着用されていました。
「はっはっは、美狐様ではなく航太殿に見たいか見たくないか感想を聞いてみるまでじゃ!」
「紅! お主を簀巻きにして、今日いち日バスの荷物入れに放り込んでおこうか!」
「あらあら、美狐ちゃまにも同じシール水着を差し上げましょうか? これなら美狐ちゃまのちっぱいでも航太殿が喜ばれますわよ」
「ぐぬぬぬぬ」
お二人の睨み合いが続いていましたが、結局紅様が折れてビキニを着用されました。それでも、かなり艶やかなお姿でございます。
こうして紅様の水着問題は何とか治まったのですが、美狐様は私と華ちゃんの可愛い水着や、静様の淑やかで色っぽい水着姿にもご不満のご様子。
やはり海に行くと言い出された時に、心配した通りでございました……。
――――
砂浜に歩み出て見上げれば青い空に輝く太陽、何処までも続く水平線、遠くに見える入道雲、最高の海水浴日和でございます。
皆、思い思いに海辺で楽しんでいるご様子。
要注意の蛇蛇美と蛇子は、蛇柄の水着で白馬君と桃子ちゃん達とビーチバレーを、紅様と南国リゾート女子陽子ちゃんの二大ビキニストは、沖に浮かんでいるジャンプ台に行って、他の子達と一緒に飛び込みを楽しんでいます。
静様は水着には着替えられたのですが、車酔いが抜けきらないのか、ビーチパラソルの下で横になられたままでした。
そんな中、海の家が『貸し切り食べ放題』と聞いた美狐様が、航太殿を捕まえて食べ放題を満喫中でございます。
イカ焼き、焼きトウモロコシ、串焼き、焼き鳥、焼きソバ、うどんにかき氷等々、次から次へとご注文されて、航太殿と仲良く食べているご様子。
これは美狐様が食いしん坊という訳ではなく、航太殿を海の家に囲い込んで、他の水着女子に近寄らせない作戦の様でございます。
しばらく食べ続けた二人の目の前に、追加注文のハート型のお好み焼きと、ハート型のパンケーキにワッフルが置かれました。
ハート型の食べ物を前に、いつしか二人は見つめ合っています。
何だか良い雰囲気。私と華ちゃんはドキドキしながら様子を伺っていました。
「ミコちゃん……」
「航太くん……」
航太殿も美狐様も遠い目をしています。
そして……。
「ミコちゃん、だめだぁ、もう入らないー!」
「航太殿、妾もじゃー」
二人ともそのまま転がってしまいました。完全に食べ過ぎです。
しばらくすると、転がったままの美狐様が私に手招きをしています。
「咲よ、済まぬが食べてくれぬか……」
「美狐様! 稲荷神社の御神様は何の神様でございましたっけ?」
「……い、いと済まぬことじゃ」
美狐様が申し訳なさそうな顔をされております。
食べ物を無駄にしかけた事を反省されたご様子なので、私と華ちゃんで料理を引き取る事に致しました。
もちろん他の食べ物も大量に追加して……。
「華ちゃーん、苦しいよー」
「咲ちゃーん、私も苦しいにゃー」
「華ちゃん、どうしてあそこで止めなかったの……」
「あれを頼んだのは、咲ちゃんにゃー」
他の皆がお昼を食べに来た時には、私と華ちゃんは破裂しそうなお腹を抱えて、美狐様と一緒に川の字になって転がっていました。
面目次第もございません。
一方、航太殿の様子を伺うと、紅様が目の前に陣取られて、ご自分の胸元にわざとイカ焼きのソースなどをたらして、航太殿の目線を釘付けにしています。これはよろしくありません。
でも、誰も動けません……。
今宵のお話しは、ひとまずここまでに致しとうございます。
今日も見目麗しき、おひい様でございました。




